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(2)主張 有機物の燃焼熱 C-10 No332 2011年11月10(木)
はじめに
でんぷんがおおもと
地球上に現れた植物は(それが, どのようにして出現したかは別にして)もえてしまっている物質の中から, 利用しやすい H2O と CO2 を材料にして,
もえるものを作りました. つまり, H2O, CO2
の中の原子を組み変えて, その間に光のエネルギーを詰め込んだのです. つくりあげたものはでんぷん(糖)です. これは,
植物にとって生活エネルギーとして重要ですが, 同時に,
これをもとにして自分のからだをはじめ, 生活に必要ないろいろな物質を作りました. でんぷんを作った時, あまった酸素の原子は(実は, あまらせることが重要だったわけですが)分子の形で空気中に蓄積されました. もちろん, 必要な時には, この酸素を利用して,
でんぷんなどから再びエネルギーを取り出すのです.
さて, このハイエネルギーの物質系をそっくりちょうだいして,
自分の生活物質を調達する新しい生物, 草食動物が出現しました.
さらに, もっと効率よく必要物質を獲得する肉食動物が進化しました. 物質界はますます多彩になっていきました. 死の世界の不活発な物質群は,生物によって活力が与えられ, 不安定で, ダイナミックで,
豊かな物質群に変身しました. 生物はドライに言えば,
エネルギーを溜め込み, そのエネルギーを凝縮させた物質系です.
それに含まれる多様な物質が有機物です. みんな,
でんぷんに由来し, みんなもえます.
酸化とは?
ところが, 最近, サークルの席で生物の先生から「生物の場合は, 結合することでエネルギーが出るのが一般だ」ということを聞かされました.
これは, 多分,
脱水素的な反応なのでしょう. “酸素と結合することを酸化という”という酸化の定義は, やがて, “化合物から水素がとれることも酸化といえる” と概念が拡張されます. では,
なぜこの両定義は矛盾しないのでしょうか. これを,
アルコールの酸化系列で考えてみましょう.
H O
2H
↑ ↓ ↑
CH2OH
→
HCHO →
HCOOH → CO2 …(1)
メチルアルコール ホルムアルデヒド 酢酸 二酸化炭素
メチルアルコールは徐々に酸化して, しまいにはエネルギーの低い二酸化炭素になります. ここでも, 脱水素と着酸素(?)の二つの酸化の形態がみられます. しかし, 脱水素反応 CH3OH−2H → HCHO …(2)
のメカニズムは
CH3OH+O → HCHO +H2O …(2') のようになっています.
後の方の式も
HCOOH−2H → CO2 …(3)
この内容は
HCOOH+O → CO2 +H2O …(3') ということになります.脱水素が酸化反応であるというのはこういうことです.
何がもえるの?
H
|
H−C−O−H* …(4)
|
H
の*印のHはOと結合していこと, つまり,
すでにもえてしまっている状態にあるということです. 同じ意味で,
この中の C も部分的にもえていると考えられます.
二番目には上記(2')の反応では何がもえたといえばよいのかということです.
もちろん, メチルアルコールがもえたといえばそれまでですが.
酸素と結合したのはその中の水素原子ですから, 水素がもえたといえないこともありません.
炭素の状態
H
│
H−C
‖
O
更にもえてしまった状態が進んでいることがわかります. 酸化の状態が進むということは, “Cの酸化状態が進む”と考えたらどうでしょうか. ではこのとき Hは一体どんな変化を受けているのでしょうか.
先に, O−H の H
はもえてしまっている, といいましたが,
C−H の H ももえてしまっている, と考えてよさそうに思われます. というのは, C−H の結合エネルギー(この結合を切るのに必要なエネルギーで, それは同時に, この結合によってはき出されるエネルギーでもある)は 99kcal/mol ですが, O−H
のそれは 111kcal/mol ですから, H
が C から O にのりかえても, 1molについては, 12kcal しかとくになりません. つまり, C−H
における H は,
すでに大半もえてしまっていると考えてもよさそうだということです.
一方, C−Hという結合で,C
は H によって還元状態に保たれている,
と考えてみました. つまり,
酸化の状態を全部炭素に責任を負わせ統一的に考えてみよう, というわけです. 炭素の状態をあらわすのに, 炭素の結合手1本につき, 還元状態を−1,
酸化状態を+1とすると,例えば,メチルアルコールの C は(4)式で. −3+1=−2
となり,ホルムアルデヒドの C は(5)式で
−2+2=0となります.
つまり(1)の系列では
H O O
│ ‖ ‖
H− C−O−H →
H−C → H−C →
C=O=C
│ │ │
H H O−H
(Cは−2) (Cは0) (Cは+2) (Cは+4)
というように, 徐々にもえていくのがわかります.
グラファイトのように, C同志の結合ではこの値はすべての C
について0(ゼロ)です.
燃焼熱の法則
物質 CH30H HCHO
HCOOH
CO2
燃焼熱kcal/mol 173.6 134.1
60.7
0
Cの状態 −2 0 +2 +4 <表1>
他の物質も数種調べました. C が2個以上含まれる場合の C
の状態はその平均値をとり, 燃焼熱は C
1個について出しました. 例えばエタン C2H6
の場合は, 構造式は
H H
│ │
H−C − C −
H
│ │
H H
ですから, Cの状態は両方とも −3+0=−3
で平均値も−3,
燃焼熱は 372.8kcal/mol だから, C
1個につき
186.4kcal/c-mol となります. <表2>
物質 メタン エタン エチレングリコール シュウ酸
CH4 C2H6 (CH2OH)2 (COOH)2
H H
H
H
│ │ │ │
H−C−H
H−C−C−H H−C−O−H O=C−O−H
│ │ │ │ │
H H H H−C−O−H O=C−O−H
│
H
燃焼熱
[kcal/mol] 212.8 372.8 282.2 25.2
[kcal/c-mol] 212.8
186.4 141.1 26.3
Cの状態 −4 −3 −1 +3 <表2>
これらの有機化合物の C 1個についての燃焼熱と, その C
の状態との関係をグラフにしてみると, よい直線性を示します.(グラフ略)
前に書きましたが, Hの変化は無視してあるので, 1割ぐらいの誤差がありますが,その辺はあまり気にしません. このグラフから, 次の法則を得ました.
C の状態が1変化する度に出入りするエネルギーは 約28kcal/c-mol
である.
ちなみに, このグラフでホルムアルデヒドが直線から少し離れているのは,
2分子会合して C の状態が少しマイナスに片よっているのではないか, などと想像するのも楽しいことです.
応用として, ブドウ糖の燃焼熱を計算してみました.
ブドウ糖の構造式は図のようです.(図略)
C(3)
………………………………
−1
C(4) ……………………………… + 1
C(1),
C(2), C(5), C(6)
……
0
だからら,平均すると0(ゼロ)です. これがもえるとき,
6個の C が状態0から, 状態+4まで変化するのですから,
ブドウ糖の燃焼熱は 28×4×6=672(kcal/mol) となります. 便覧で調べてみると, それは674(kcal/mol)でした. これは, 少々うますぎました. 10%の誤差は公認なのですから.
ところが, 果糖も C の平均値は0です. 添付された構造式で確かめてみましょう. 従って, 果糖の燃焼熱も同じ程度になるはずです. 便覧ではそれは 676kcal/molになっています. でんぷんも C の平均値は同様に0です.
これはおもしろいことです.
“植物が一次的に生産する物質”ということに関係あるのでしょうか.
有機物とは
│││││││
H−C−C−C−C−C−……
│││││││
H H H H H H
H
の部分が示す性質だとうと思います.この部分は C が強く還元されているところです. 従って, エネルギーががっぽりつまっているところです.
あぶらの典型油脂についても計算してみたので表にまとめておきます. <表3>
油脂の種類 分子量 Cの状態 Cの数 C1個の平均 計算した
の和 の状態 燃焼熱
C5H11COOH の油脂 386 −29 21
1.38
8.20
C7H15COOH の油脂 470 −41 27
1.52
8.88
C9H19COOH の油脂 554 −53 33
1.61
9.36
C11H23COOHの油脂 638 −65 39
1.67
9.70
C13H27COOHの油脂 722 −77 45
1.71
9.96
C15H31COOHの油脂 806 −89 51
1.75
10.11
C17H35COOHの油脂 890 −101 57
1.77
10.35
C17H33COOHの油脂 884 −95 57
1.67
10.24
C17H31COOHの油脂 878 −89 57
1.56
10.11
C17H29COOHの油脂 872 −83 57
1.46 9.99 <表3>
燃焼熱は例えばC5H11COOH の油脂の場合ですと (4+1.38)×21×28÷386≒8.20(kcal/g)
というわけです. 計算した値の平均値は油脂の発熱量約9kcalに近い値が出ていることがわかります.
官能基の部分は, エネルギーを担うのが主な役目ではなく,
あぶらの部分を離合集散させる働きを持つと考えるのがよさそうです.
官能基を失って化石化した有機物である炭化水素は, まさに,
あぶらそのもので発熱量はずばぬけて大きくなります. 特に,
CH4 においてはCは最高の還元状態にありますから,
発熱量も最高です. 主な炭化水素の計算もしてみました.
燃焼熱については便覧から得た値ものせておきました. <表4>
炭化水素 分子量 Cの状態 Cの数
C1個の平均
計算した
便覧からの
の種類 の和 の状態 燃焼熱(kcal/g) 燃焼熱(kcal/g)
CH4 16
−4
1 −4.0 14.0
13.3
C2H6
30 −6 2 −3.0 13.1
12.4
C3H8
44 −8 3 −2.67 12.7
12.1
C4H10
58 −10 4 −2.5 12.6
11.9
C5H12
72 −12 5 −2.40 12.4
11.7
C6H12 86 −14 6 −2.33 12.3
11.6
C6H6
78 −6 6 −1.0 10.8
10.0
アミノ酸やタンパク質など, 窒素原子を含んだ有機物についても窒素を適当に評価すれば同様に燃焼熱を計算することができます.
このように見てきますと, 有機物というのは, くるま(官能基)に積んだエネルギー(あぶら)だといえそうです.
くるまがパンクしてしまっているものもありますが…. そして,
その有機物の構造のおよそがわかれば,
積んでいるエネルギーの量がおよそわかるというものおもしろいことです.
おわりに
水力発電で, 人間は生物とは異なった太陽エネルギー, つまり, 重力ポテンシャルを利用するようになり. さらに, 太陽と同種のエネルギーである原子核エネルギーを開発しましたが,
最近になってようやく, 植物がやってきた方式である,
太陽のエネルギーのを固定する方式に, 手が届きかけてきました.
太陽光による水の分解がそれです. このエネルギーを,
CO2に盛り込んでいくことがききるようになれば, その時,
人間はやっと植物なみになったといえるのでしょう.
(千葉県立清水高等校)
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