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(1)主張 物質学習の中心に金属を S-4 No331 2011年11月3日(木)
私たちはずっと<自然を豊かにとらえる科学教育>を主張してきました.自然とはものの総体のことです.物質や生物の全体像のことです.それらを統一的に,かつ多様にとらえようというのです.その方法としてここでは「物質学習の中心に金属を据えよう」という意見を述べたいと思います.
まず第一に,金属は通常固体だということです.子どもは液体や気体をなかなかものとは認めてくれません.固体のたよりある触覚と重さはまさにものとしての貫禄十分です.
次に,金属,つまりかなものは,かなものでないものと容易に区別がつくということです.金属はたたいて薄く引きのばすことができます.たたいてみなくても一見してその輝きで金属とわかります.光っていなかったらサンドペーパーでこするか,新しい切り口を作ってみればはっきりします.電気伝導を調べれば一層良く分かります.電気をよく通すものは金属以外にはありません.「たたけばのびる,磨けば光る,電気を通せばよく通る」と,働きかけをも含めて,まとめたいものです.
がらくたをばらして,それをかなものとそうでないものに分ける<バタヤの科学>は子どもを生き生きさせるすぐれた教材です.めざましい活動を通して,子どもはものへの認識を広げていきます.鉄床(カナトコ)とハンマーで粒状のすずをたたいて伸ばす作業には,高校生でもむきになってとりくみます.「他の金属もたたいてみたい」と言う申し出があります.「アルミホイルはうまくのばしてあるなア」という驚きの声があがります.「たたいて伸びるのは金属で,粉になるのはイオン性物質だ」という発見があります.実感や発見の積み上げがあって,ゆたかな自然観ができあがるのです.
私たちの祖先も,こんなふうに金属をたたいたに違いありません.たたきながらその性質を発見し,いろいろな道具を作っていったのでしょう.そのうち,たき火の中にいれてからたたくと楽に変形できること(鍛造),そして性質も変わること(しん炭),冷やし方で軟らかくも堅くもなること(焼き入れ,焼きなまし),一部分をとかして繋げること(熔接),とかして型に流しこめること(鋳造),異なった金属を融かし合わせて望ましい性質をもつ金属が造れること(合金)等の技術を,
金属の新しい性質の発見をともないながら, 身につけていったのでしょう. 作られた道具の種類や量も飛躍的に増えたに違いありません.
金属を材料とした工作教材をとりあげて,
このようなどろどろした作業を子どもに経験させたいものです.
三番目に,金属は容易に金属でないものに変えられるということです.燃やすことによって,酸にとかすことによって,金属は金属でないものになってしまいます.あのピカピカした金属が,「こなやみず」になってしまうのです.そして,そこから再び金属がとり出せるのです.大昔の鍛冶屋が−彼は同時に呪術師でもあったでしょうか−当時の人々を驚かせた<石をかねに変える>行為は,現在の子どもにも驚きとして伝わるはずです.水溶液(例えば酢酸鉛の)から金属を取り出す実験にしても同様です. 物質学習は物の質に関する学習です.
質の変化をリアルにとらえさせるのに, 金属はすぐれた教材です.
金属学習のもう一つの長所はその理論的な側面です. 金属はその構造と性質がよい対応を示しています.
マクロな金属の性質は,ミクロの自由電子の存在を反映しています.
ですから自由電子が奪われることで, 金属は金属でなくなってしまいます. このことから, 酸化還元の教材としても金属は特徴的です.
物質に多様な働きかけをしたい. その点, 金属は加えられた作用に対して, 多様で特徴ある反応を示しますから,
多角的に教材構成ができることも便利です.
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