高校生の物理 力2 力のつりあい M-98 No293
2011年6月23日(木)
先生 前回は、地球上のすべてのものに重力がはたらいているということをやったね。
和美 重力を力の矢印で表すこともやりました。
一平 重さには2つの意味があって、一つは、ものの量が多いか少ないかをいい、それを質量というけれど、もう一つは、それを地球が引っぱる力、つまり、重力の大きさが大きいか小さいかをいい、それを重量という、ということでした。
先生 今日はその力の方を考えてみようというのだ。
和美 重量の方ですね。
先生 そうだ。重力の学習を拡げようというのだ。さて、机の上に置かれたリンゴには重力がはたらいているね。
一平 1キロのリンゴには1センチの長さの矢印を描がこうというのでした。
先生 そうそう。しかし、その矢印のような力がはたらいていれば、リンゴは下へ落ちていくはずだろう。それが、そうならないのはどうなっているんだろう。
和美 下に机があって、落ちられない。
一平 机が邪魔をしているから動けないんです。
先生 そうだね。だけど、落ちられないということを、科学では力で表現しようというのだ。
和美 リンゴの下に机があると、リンゴに重力がはたらくなる、ということはないでしょう。
一平 そんなことはないよ。机の代わりにリンゴを手で持っても同じことだが、手は重さを感じるから、リンゴの重力がなくなってしまうことなんてない。
和美 それじゃ、リンゴにはたらく重力は存在するんだけど、他の力がこれを打ち消しているんじゃないかな。
一平 例えば、机がリンゴを重力と反対の方へ押しているとか。
和美 でも、ただの机がリンゴを押すかしら?
先生 <ただの>というのはどういう意味?
和美 力を出せるのは、地球とか、太陽とか、または、人間とか、馬や牛とか、カブトムシとか、つまり動物たち…
一平 それから、モーターやエンジンや…
先生 机はそういう種類のものではないということだね。
和美 そうです。机が力を出すなんて、聞いたことないもの。
先生 でも、リンゴの回りには、机の他に何もないのだからね。
一平 それじゃあ、仮に、机がリンゴを押すということにするのかな。
先生 うーん!それでは、別の例を考えてみよう。天井からコードで電球が下がっているね。電球にはたらく力について言ってごらん。
和美 コードと電灯は別のものとして考えるんでした。前に先生がそう言ったことがありますね。電球には重力がはたらいています。それで…
一平 それだけなら、電球は落ちてきてしまう。だから、コードも電球を上に引いていることになる、というんでしょ。
先生
それでいいんだ。
和美 でも、どうして、机やコードが、リンゴや電球を押したり引いたりするのか、その理由がわからないので、困っているんです。
一平 こういうのどうかな。コードは電球に引かれてピンと張っているし、机はリンゴに押されて少しは凹んでいるから、それで、コードや机は、元に戻ろうとして、電球を引いたり、リンゴを押したりできるのかもしれない。
和美 ああそうか。ゴムみたいに伸びたり縮んだりしたり、弓やバネみたいに曲がったりすれば、何かを引いたり押したりすることができるのね。
先生 なるほど!そう考えた方が分かり易いのなら、そうしてもいいけど、そう考える必要はないのだよ。だいいち、地球がリンゴや電球を引っ張る理由を考えたりはしなかったろ。
和美 そう言われれば、そうだったナー。地球や太陽は別扱いだと思っていたから。
先生 それこそ、どうして別扱いなんだ?
和美 それは、偉大なものだからっていう理由かしら?
先生 科学では、ものを区別したりはしないのだよ。地球も机もコードも対等だ。
和美 ものを区別しない科学は、ものに対して民主的なんですね。
先生 科学は民主的なんだよ。科学では、ものに対してだけでなく、人間に対しても平等なのだ。
一平 ちょっと意味がわかりにくいけど…
先生 それから、もう一つ、科学のやり方としては、腕組みして「何故だろう」というように、その理由を考えたりはしないのだ。それよりも、ものと格闘しながら「どのようになっているのか」「何に関係がありそうか」「何に使えそうか」などを追求するのが科学のやり方なのだ。そうしていくうちに、自然の全体の姿が見えてくるようになるというものだ。
一平 理由を考えないでいいんなら、気が楽です。地球上のものには、どんなものにも重量がはたらいているのだから、地球上のもので、落ちてこないで止まっているものには、必ず重力とは反対の力がはたらいている、ということ…。
先生 そのような力を加えているものが、必ずあるということで、そのものを見つけることが大切なのだ。
和美 リンゴには重力と机から力がはたらいている。電球には重力とコードから力がはたらいている。
先生 このとき、リンゴについては、重力と机からの力がつりあっている、といい、電球では重力とコードからの力がつりあっているという。
和美 それでは、テレビの上の花瓶には、重力とテレビからの上向きの力がはたらいて、つりあっている。
一平 ぼくの座っている椅子には、重力の他に床からの上向きの力がはたらいている。この二つの力がつりあっている。
先生 それだけかな?
一平 ああ、ぼくの体重がかかっている。
先生 体重がかかっているといわないで、一平くんが押しているといえばいい。
一平 ぼくは押していませんよ。
先生 押したり引いたりする理由は言わない、ということに慣れて欲しい。押すとか引くとかいう時に、意志が入り込むようないい方はしないとうことなんだよ。
和美 科学では、人間とものを、対等に見ているんですね。
先生 その通り。
和美 科学が民主的であるということは、そういうことなんだ。
一平 人間にもものにも重力がはたらいているし、人間もものも対等に押したり引いたりできるということなんだ。