草刈場
先生 これまでのことを復習しておこう。電荷qにはその周囲に電場という空間が付随している。電場を表現する方法として…
和美 電荷qは電束ψという着物を着ているようなものです。もっとも、磁荷mでは、松原に衣を残して月へ行ってしまったかぐや姫みたいに、本人のmはいなくなってしまっても、衣のφは残っています。
先生 電気を扱うときには、qとψをセットで考えるのがいいんだね。
一平 そして電場の強さEを、電束ψの密度Dで表わすことにしました。
先生
電荷q=ψからrの距離に於ける電束密度は…
和美 D=ψ/4πr^2
先生 その場の電場の強さEは
一平 E=D/ε。=ψ/4πε。r^2=(ψ/ε。)/4πr^2
和美 ψは電束線の数だけど、ψ/ε。は電気力線の数ですね。
先生 Eは電気力線の面密度だね。そして、磁場でも同じようなことがいえるのだった。
一平 それでは…
m=φ H=B/μ。=φ/4πμ。r^2 φ/μ。は磁力線です。 磁力は F=Hφ’=φ’φ/4πμ。r^2
となります。
和美 かぐや姫では、mの磁束φという衣が主役です。ところで、q=ψ
は電荷で、その単位は[C]ですが、磁束φはどういう量なのですか。磁荷m=磁束φ
の単位は、何なのですか。
先生 単位は[Wb]と書いて、ウエーバーと呼ぶ。 V=−dφ/dt を知っているかな?
一平 電磁誘導に関するファラデーの法則でしょう。コイルに磁石の磁極を出し入れすると、電圧を発生するというのですね。逆起電力なのでマナスの符号がついている。変化が速いほど、大きい電圧が出る。
先生 およその関係を述べておくと V=El=Bvl=BS/t=φ/t
和美 だから、この関係は
φ=Vt なので、単位は
Wb=Vs(ボルト・秒)となるんですね。
先生 そこで、次は磁束密度Bの運動だった。磁束密度Bで表現される場を磁束密度場B、略して磁束場Bとするのだった。単位は[T]と書いてテスラと呼ぶ。それがそれに直角の方向へ速度vで走るとどうなるんだっけ。
一平 v×B=E
で、電場Eに変化します。v,B,E,3種の量は互いに垂直なんです。
和美 そして今度は、このEが動く番なのですね。
先生 そういうことだ。直線的な導線に詰まった電荷qの列を考える。これが作る電束はどうなるかな。
和美 各々の電荷はイガグリ状な刺の球のようなψの場を作ります。
先生 電荷が配列している導線上に、仮に点Aを考えてみよう。この直ぐ上のB点の電荷と、直ぐ下のC点の電荷はどんな電場をつくるだろうか。Cの電荷がA点の横に作った斜め上向きの電場と、Bの電荷がA点の横に作った斜め下向きの電場は、合成されると導線方向の電場の成分は相殺されてしまう。
和美 それじゃあ、これらの電荷はA点に水平方向だけの電場を作るんですね。
先生 長い導線上の電荷は、導線に垂直な電場だけを作ると考えればいい。
モデルを考えて見た。多勢の生徒が校庭の草むしりをしている状況で、それぞれが、自分の回りの草むしりをするより、みんなが一列で同じ向きに並んで、自分の前の草を取りながら進むことにする。このような場を<草刈場>と呼ぶことにした。
一平 先生の造語ですね。
和美 直線導線中の電荷が作る電場は草刈場なので、自分の真横だけに電場を作るというのですね!
一平 それが直線上に並んでいるのだから、磁束模様は試験管ブラシだね。
先生
導線 l (エル)の長さを考え、電流 i がこれを走る時間を t
秒とすると、その間に存在する電荷は q=it この電流が作る磁場Hはアンペールの法則で i=2πrH
長さ l の円筒の側面積は S=2πr
l なので、電束密度は D=q/S=it/2πr l =t・2πrH/2πrl= tH/l=H/v ∴vD=H
一平 直線電流に垂直に
rの距離の点でDを考える。これが導線の電流と同じ速度vで上向きで走る。上向きのvから、横向きのDへ右ネジを回すと、向こう向きのHになります。力線のイメージでいうと、イガグリ状のψが草刈場では試験管ブラシ状のψになり、これが走ってバウムクーヘン状のφに変わるのですね。
和美 ベクトル的に書くと v×D=H
一平 この式は v×B=E
に似ていますね。 前回の最後に、ぼくが提案した vEが登場するかもしれない…という仮説は v×D=H
だったのだと、今、気がつきました。“磁束場Bが走ると電場Eになり、電束場Dが走ると磁場Hになる”
電気力線と磁力線
先生 この際、次のことを確認しておこう。
Eは電場 で Hは磁場、
Dは電速密度 で
Bは磁束密度
ψは電束線 で φは磁束線
ψ/ε。は電気力線 で
φ/μ。は磁力線
更に、つけ加えることがあるか、考えてごらん。
和美 1本の電束線ψは、1000億本の電気力線ψ/ε。で表現されるというのでした。ギリシャ文字ψを大文字Ψで書いたら電束線ではなくて電気力線を表す、としたら分かりやすいですよね。
先生 それはアイデアだ。電束線ψが1本なら電気力線Ψは1000億本、磁束線φが1本なら磁力線Φは100万本。ΨとΦも上の一覧に加えたいね。
和美 これまで、電束と電気力線の両方を気分で使っていましたが、はっきりした区別があったのですね。
一平 電束線や電気力線は学術用語なんでしょう!ところで、これらを表現するEとかBとかいう記号は何に関係しているんですか。Cとqはクーロンがらみで、mはマグネットに「見え」ますが。
和美 Eは電気の頭文字で、Dは電束のローマ字でしょう。Hは…
先生 Hは人名のHenlyか、周波数のHertzだろう。BはBiot-Savartかな。ビオ・サバールの法則は電磁気では重要な法則なんだ。
一平 ヘーッ!電流の
i はどうです?
先生 電気の強さのintensity だと思うよ。ちなみにqは電気の量でquantity
だろう。
光速度
和美 ε。とμ。には意味がありますか。
先生 これはギリシャ文字で、εはe、μはmだね。文字の形も似ているだろ。ゼロがついているのは、基本量の真空に関する価だからだろう。この真空の誘電率ε。と、透磁率μ。を、DとBに入れると D=ε。E
B=μ。H
和美 vの式も代入してみましょうか。 vD=vε。E =H vB=vμ。H=E
一平 あれあれ、EとHのオンパレだ!
先生
同じ現象を裏と表からと見ているようなものだとしたら、両方の式のvは同じものかもしれないと仮定して、両式から ε。μ。v^2=1
一平 このε。とμ。の価は分かっているのですか。
先生 前に顔を出したことがあったが
ε。=8.85・10^(−12)[C^2/Nm^2] μ。=1.26・10^(−6)[Wb/Am]
和美 計算器を貸して下さい。ε。×μ。=8.85・10^(−12)×1.26・10^(−6)=11.15・10^(−18)=1/v^2
∴ v=3.00 ×10^8
先生 単位も計算してごらん。
和美 C^2/N・m^2×Wb/Am=
C^2・Wb/N・A・m^3=C^2・Vs/N・A・m^3 これは大変だ、一平さん、手伝ってよ。
一平 カズミッチ、ガンバ!
和美 ?…上式=C・W・s/W・A・m^2
=C・s/A・m^2
=A・s^2/A・m^2=(s/m)^2
一平 v=3.00×10^8[m/s]これは光速度じゃないですか!
和美 エエッ。電磁気の学習に光速度が登場するなんて!
先生 これが電磁気学習のハイライトなんだよ。
一平 この式がどこから出てきたかといえば、Bv=E
と Dv=H
なんでしょう。このvは、例えば回路の中を電流が流れる速度ですよね。
和美 回路の中の電流の速さは、普通の回路では毎秒1mmよりずっと遅いということを、どこかで聞いたような気がするんですけど。
先生 電場と磁場がセットで振動するのは、電磁場が振動することで、この振動数が大きくなると空間を伝播していくことになる。それが電磁波だ。電子やイオンが回路を運動するのとは別のものだと見た方がよさそうだね。
一平 物質と場といういこと?質量があるかないかということ?
和美 理論もよいけど、Bv=E や Dv=H
に関する実験を見たいものですね。“理論は実験の後からついてくる”んでしょ。
先生 そうだね。このシリーズは理屈っぽかったね。学校のように、手元に実験装置がないので…
和美 実験の観察でなくて、イメージの観察でしたね。
電気力と磁気力
先生 1[m]離れている1[C]と1[C]の電荷が及ぼし合う電気力が、およそ 10^10[N]
だということを、前回確認したのだが、磁気力の方はどうかというと…
和美 それは、同じように磁荷で計算できますね。F=mm’/4πμ。r^2 m=m’=1[Wb] r=1[m] とすると F=1/4πμ。
計算器で当たると F=6.3×10^4[N]
先生 磁気力の本質は電流間力に変わったのだった。間隔1[m]の平行電流が、1[m]の導線に及ぼし合う力は 2×10^(−7)[N]となる。
和美 そうすると、電気力と磁気力の比は 10^10/2×10^(−7)=5×10^16 すごい違い。
一平 5×10^16 はさっき出てきた 光速度 c^2=9×10^16 に近いですね。
和美 電流 i と i の相互作用に比べると、磁荷mとmの相互作用は、ぐっと、電荷qとqの相互作用に近いようです。
先生 磁気力の方は鉄を媒介して数万倍に増すので、電気力にかなり近づくけどね。
和美 電磁気力の世界に、親しみが持てるようになれそうです。
一平 それに、電気は質量とともに、物質を創っている要素ですからね。