理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
高校生の物理  電磁気 (3)磁石  E-137 No326 2011年10月13日(木)
 
一平 地学の時間にロームの中の鉱物組成を調べたんですが、偏光顕微鏡で見ると、赤や緑に輝いていてとてもきれいでした。その中で真っ黒なのは磁鉄鉱でした。
和美 縫い針を近づけるとピコピコくっついてくるんです。生きものみたいに。
先生 ほう、それで、磁性をもっているのは磁鉄鉱なのかね、縫い針なのかね。
和美 それは、磁鉄鉱なんでしょう。名前が示すように。
先生 さあ、それはわからないね。どうすりゃわかるんだろう。
一平 針を強熱してから、くっつけてみればわかります。針が原因だとすればくっついてこないし、磁鉄鉱が原因だとすればくっついてくる。
和美 針が原因だとすれば、針の先はNかSになっているので、磁鉄鉱のくっつき方に2種類あれば、両方とも磁石になっているということですね。
先生 なるほど。針を近づけたらくっついてきた、針をひっくりかえしたら、同じ位置ではくっついてこなかった、としたら、両方が磁石なんだが…
和美 本当にそうなるかしら。
一平 そんなことしなくてもすぐわかります。磁鉄鉱が磁石ならみんなくっついて一塊になっちゃうでしょう。
先生 一平くんは、今日は冴えている。
和美 一平さんは時々ひらめくんだよね。
先生 では…と、ここにアルニコの棒が2本あるんだ。一方は磁石で、一方は磁石ではない。どっちかを判定してもらおうか。他の道具は使わないで。
和美 鉄粉をくっつけてみればすぐわかるんだけど…、鉄粉も<他の道具>なんですね。
一平 こうすればいい。棒の真ん中を糸で吊して、南北を指した方が磁石です。
先生 糸と地球を使ったね。何も使わないんだよ。
一平 棒の真ん中にもう一つの棒の端を近づけるんだ。
和美 ああ、そうだ。さすが一平さん。
一平 こうしてみると、磁石の近くにある鉄は自分も磁石になって、磁石と磁石がくっつくのだということがわかります。
和美 磁石はいつでも鉄をくっつけるので、磁石の極の近くにある鉄には、別の極ができるということですね。
一平 静電気の静電誘導に似ていると思わない。名前をつければ静磁誘導とか。
和美 それから、静電気の+と−は電気力線でつながっているという話だったわね。紐付きの話。
一平 そうだね。
和美  ひょっとすると、磁石のNとSにも、多くのN極とS極があって、1対1で紐付きになっているんじゃないかしら。
一平 そうかもしれない。それを証拠に、磁石を壊すと、いくら小さく壊しても、壊れた一つ一つが磁石になっているもの。
先生 とことんまで壊した磁石を分子磁石と呼ぶことがある。それからN極とS極を結んでいる線を磁力線と呼ぶことにしよう。
和美 磁石の上に紙を敷いて、その上に鉄粉を撒くと磁力線らしいのが見えるんですよね。
一平 その場合も、鉄粉の1粒1粒が小さい磁石になって、磁石同士がくっついて線になるんですね。
先生 小さい磁針を鉄粉の代わりに、置いてもいいんだよ。磁針は磁力線の方向に向く。見えない磁力線は磁針を置くことで、その一部が見えてくる。磁針のN極が向く向きを磁力線の向きと決めておく。
和美 電場の向きを決めたのに似ている。
一平 そう決めておくと、磁力線は磁石のN極から出てS極に入ることになります。
和美 電気力線が+電荷から出て−電荷に入るように…
先生 まあ、そんなところかな。
一平 そんなところ? そうじゃないところ、もあるんですか。
先生 それは、そのうちに…
和美 奥歯にものの挟まったような言い方をするんですね。
一平 何かがあるんだよ。そのうちに何とか言い出すに違いない。
先生 いつものテだというのかね。ところで、今の、アルニコ磁石のN極のところに、これと垂直に導線を張って電流を流すとどうなるかな。
和美 先生、磁石の極はどっちで、電流の向きはどっちですか。
先生 どっちがどっちでもいいけどね。
和美 それでは、フレミングの左手則が使えません。
先生 もし、きみたちがローレンツ力を学校で習っていなかったら、どう思うだろうね。
一平 多分、導線は磁石の方に引かれるか、その反対側に押されるかのどちらかだと思いますね。
先生 どうして、そう思うのかな。
一平 それしか考えられないからです。
先生 どうして、それしか考えられないんだろう。
一平 今まで習ってきた力学の法則はみんな、ものとものとが相互作用していて、ものとものと結んだ方向にしか力がはたらかなかったんです。
和美 日常生活の経験だって、力が、横っちょ向きにはたらくなんてことないでしょう。
先生 そうだとも。ものの世界はそういう世界だ。
一平 じゃあ、この場合はものの世界じゃないっていうんですか。
先生 その前に、これを実験しておこう。棒磁石を水平にスタンドに夾んで、その磁極の前に導線を鉛直に張って、バッテリーで電流を流すと…
一平  アレッ、導線が棒磁石のボディーにくっついちゃう。
和美 学校で習ったローレンツ力と様子が違うわ。でも、電流を逆に流すと、逆の動き方をするんですよね。
一平 磁石を逆にしても逆の動きをするんでしょう。
和美 念のためにやってみましょう。
一平 じゃあ、ぼくがやってみます。…やっぱり、予想通りだ。逆・逆法則なんだね。
和美 学校で習ったローレンツ力は、U字型磁石の間でやったので、導線にはたらく力が一定の方向だったんだけど、この実験では磁力線の方向が変わるんで、変な動きになるんですね。
一平 その場所場所で、磁力線と電流と力の向きを考えればフレミングの左手則は成立しているんだが、ローレンツ力の方向は変化していくんだ。
先生 向きよりも方向が大切なんだ。試験問題では向きを問われることが多いようだが。さて、今度は棒磁石の磁力線を頭の中に描いておいてから実験してみよう。
一平 導線は磁力線を直角に横切って動くみたいです。
和美 そう、そう。それはU字型磁石の場合にもあてはまります。
先生 では、2本の導線を平行に並べて両方に電流を流す。バッテリーを使って大きな電流を、一瞬、流すと同じ向きだとくっつき、逆の向きだと離れる。
和美 一方の導線は他方の導線がつくった磁力線を直角に横切るんでしょ。一方の電流の回りには同心円状の磁力線ができることになります。
一平 力を受ける導線だって自分の回りに円形の磁力線をつくるよね。それを一緒に描いたらどうなるんだろう。これ、重ね合わされるのかな。実験してみたいですね。
和美 同方向の電流だと同じ向きの円形の磁力線をつくるでしょう。そうすると2つの電流の中間では逆向きの磁力線が消し合うのかな。
一平 重ね合わせると、磁力線はフクロウの目玉のようになるんでしょ。
和美 そうすると、水素の共有結合に似た図になりますね。引っ張り合っているムードができるわ。
一平 反対向きはブタの鼻だ。退け合うムードがあるね。
先生 実際に同方向の電流は引っ張り合い、逆方向の電流は退け合うんだ。左手を出してフレミングの法則を確かめてごらん。
和美 左手でピストルの真似してFBIってやるんでしたね。Bは磁力線、Iは電流、Fは力の方向・向きで…
先生 次は、電流が円形の場合を考えてごらん。
一平 逆向きの電流の上と下をつなげればいいんだから、ふくろうの目玉タイプになるね。ただ、立体的だ。
先生 もっと立体的にするために、円形電流をびっしり重ねてみる。
和美 磁力線は重ね合わされて…。あれ!これ棒磁石の磁力線に似ている!
一平 導線の輪をつなげるとコイルになるね。
和美 中に鉄芯を入れると電磁石になっちゃう。
一平 それじゃあ、磁力線は磁石の中でもつながっていて輪になっているのかな。
先生 奥歯にものが挟まった、というところだ。
一平 磁力線がNから出てSに入るのではなく、輪になっている磁力線の出口がNで入り口がSなのかナ。
先生 だんだん磁力線が主役になってきたね。もっと徹底させてしまうと、磁力線の断面がNとSだと思ったらどうかな。
一平 磁力線が切れるのは鉄なんでしょ。
和美 磁力線のある所へ鉄を持って来た時、鉄が磁石になるのではなく、磁力線を鉄で切ったら磁力線の切り口にNとSが現れたのね。
一平 じゃあ、もともと磁石だったものはどうするの!
先生 もともと磁石だった、というのはどういうことかな。
一平 鉄は本来、磁石なんじゃないのですか。弱い磁石だけど…
和美 磁鉄鉱という鉱物があるくらいだから…
先生 物質を分割していくと分子磁石だから、分子・原子に原因があると思ってもいいだろう。
一平 そうだ。わかった。電子の軌道があって、電子は電気を持っているから、円形電流があるんだ。
和美 でも、それでは、どんな原子にも電子の軌道があるから、鉄だけが磁石になるのはおかしいじゃない。
一平 何かの理由で鉄以外のものは打ち消し合ってしまうとか…、磁石の鉄芯になった鉄の原子にある電子は、電流作用が効いて輪の磁力線をつくるとか…
和美 じゃあ、磁力線をつくるのは電流で、磁石をつくるのは磁力線っていうわけ。
一平 ついでに、もっと徹底させれば、ものが押し合い引き合いするのも磁力線だ、としたらどうかな。
先生 二人ともなかなかなものだ。磁力線で磁気作用を考えるのはよいことだけど、そのために磁力線一元論になるのはいけない。電流は実在なんだから。これを磁力線に解消してしまうのは危険だ。磁力線は、磁場という空間の性質を表す一つの手段だと考えた方がいい。
和美 <奥歯の世界>という<ものの世界>が見えてきそうです。

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