高校生の物理 熱と温度 (4) 比熱 T-15 No321 2011年9月29日(木)
先生 1gのものの温度を1度あげるのに必要な熱量を何というのかな。
一平 比熱でしょう。
先生 だけど、これからは1グラムでなくて、1モルを使うことが多くなる。モル比熱という。1モルとはどんな量かな。
和美 分子などが
6×10^23
個あることです。
先生 そうそう、化学でも、1個1個の原子が衝突して反応が起きると考えれば、反応の量をアナログのグラムで把握するより、デジタルのモルで処理する方が合理的なのだ。比熱でも、1モルの物質の温度を1K
up させるのに必要な熱量をモル比熱と呼ぶことにする。
和美 水素なら H2
だから2g,、ヘリウムならHeで4g、二酸化炭素ならCO2だから44gを考えるんですね。
先生 その通り。もう一つ大切なことがある。気体の場合にはピストンを備えたシリンダーの中で扱うのだが、これに熱を加えると温度が上がってピストンが外へ移動してしまうので、なかなか温度が上がらない。この場合には、気体の圧力は常に外の圧力に等しいので、等圧変化といい、このようにして1モルガスの温度を1K上げるのに必要な熱量をこの気体の定圧モル比熱という。ピストンに釘を刺して動かないようにした場合のそれを定積モル比熱という。そしてそれぞれをCp、Cvと書き表します。
和美 そうすると Cp
には外にする仕事まで含まれているので、Cvより大きいんですね。
先生 そうそう、そこで、立方体の箱の中にある1モルのヘリウムガスについて考えてみよう。0℃、1atm だと、圧力p、体積V、温度T、気体定数をRとすると…
和美 pV=RT でしょう。 p=1atm、V=22.4l、T=273K、 とすると R=0.082
atm・l/mol・K は化学でやりました。
先生 物理では、単位が別で、2cal/mok・K
一平 物理と化学では単位が異なるのだ!
先生 これをミクロに見て分子運動で考えるのだ。立方体の1辺を L として、分子1個の質量をm、速さをv、分子の数を N0
とする。そしてたまたま水平に飛んで壁Aにぶつかる分子を考える。この分子の運動量はいくらかな。
和美 mvでしょ。
先生 1個の衝突で運動量はどれだけ変わる?
一平 分子の世界では完全弾性衝突するんだろうから、mvでぶつかると、mvで跳ね返るから…、あれッ?
和美 右向きを+とすると、左向きは−になるから、運動量の変化は(−mv)−(+mv)=−2mv
先生 そうだ。ところでこの分子は、水平に壁の間を往復するので、1秒間に何回この壁にぶつかることになるかな。
和美 2Lだけ走るとまたこの壁にぶつかるっから、速さ v を 2L で割ればよい。つまり
v/2L回ぶつかります。
先生 だから。1秒間の運動量の変化は −2mv×v/2L=−mv^2/L となる。
一平 1秒間の運動量の変化って力のことでしょ。
先生 そうだね。だから −mv^2/L はこの分子1個が壁から受ける力だ。
和美 では、壁が分子から受ける力は mv^2/L ですね。これは分子1個のことで、この中にはN個の分子があるから…
先生 その1/3ずつが、専ら上下、左右、前後の3組に分かれて走っていると考えると…
一平 そんなのないよ。分子って、でたらめに走っているんだから…
先生 分子はでたらめな方向であっても、これをベクトル的に
x方向、y方向、z方向に分けられるだろう。
一平 だから、左右に走っている分子は N0/3
と考えていいのか!
先生 だから、mv^2/L×N0/3 が壁Aから受ける力Fとなるんだ。 F=mv^2/L
×N0/3 ところが力Fをそこの面積 L^2 で割ると、圧力pとなるから
p=F/L^2=N0/3×mv^2/L×1/L^2=N0×mv^2×1/3V
和美 書き換えると pV=N0/3・mv^2 となって、化学で習った pV=RT に似てきたよ。
一平 mv^2というのは運動エネルギーに似ている。
先生 ここで、この式を pV=(2/3)N0・(1/2)mv^2 これと比較して (1/2)mv^2・N0=(3/2)RT
左辺はモル分子の運動エネルギーの総和で、これが温度Tに相当する。
Rは 2cal
だということがわかているので、(1/2)mv^2・N0=3T さて、この温度Tを1K
upさせるには 3cal 必要なのがわかるので、Cv=3cal 単原子分子の定積モル比熱は
3cal/mol・K
だということがわかる。実験してみると、みなそうなる!
一平 どんな気体でも?
ちょっと信じがたいな。
先生 この3Tはどこから来たか覚えているかな。
一平 N0 個の分子が
x、y、z方向の3つに分かれたところからです。
先生 そうだよ。だから運動エネルギーの式を3成分で書くと
1/2mvx^2+1/2mvy^2+1/2mvz^2)N0=3T これを単原子分子の自由度は3だという。
一平 自由度というのは、運動ができるパターンという意味ですか。
先生 まず、そんなところだろう。そこで、次にはH2
のような2原子分子はどうかというと、その分子の形は、球が2個繋がっているような構造だろう。そうすると、分子を結んだ線の方向をx軸とし、それに垂直な方向をy軸z軸とすると、y軸とz軸を軸とした二つの回転パターンが存在することになる。
和美 x軸を軸とした回転はないんですか。
先生 分子の世界には摩擦がないから、この方向の回転は考えなくてもいいんだ。要するに、外から力が与えられない。
和美 自由度には並進的な運動と回転的な運動の2種類があるんですね。
一平 そうすると、H2 の自由度は5です。
和美 だとすると、水素分子の定積モル比熱は5cal/mol・K ですね。
先生 その通りだ。そして実験してみるとそうなっている。
和美 感動ものです。
先生 式に書くと 1/2mvx^2+1/2mvy^2+1/2mvz^2+1/2Iyωy^2+1/2Izωz^2=5T
和美 1自由度が1calずつ貰えるのね!
一平 じゃあ、x方向にも回転できる水のような3原子分子の定積モル比熱は6calというわけだ。
先生 そして、まさにその通りだ。
和美 そうだとすると、6calが最高になります。並進3と回転3で。
先生 そういうことでもない。メチルアルコールのようなものは、原子間の振動がエネルギーを貰える。
一平 分子の世界が見えてくるんだ。
先生 理論値と実験値が一致するからね。
和美 理論の目で見えるというわけね。
先生 そして、この比熱理論の成功は、ニュートン力学がミクロの世界でも通用することを証拠立てたことになるのだ。
和美 分子がモデルでなくて、実在として信じられる、ということですね。