高校生の物理 熱と温度 (2) 熱現象 T-13 No319 2011年9月22日(木)
先生 最近、熱現象をきちんと習う機会がないようだね。
一平 熱現象って何のことですか。
先生 なるほど、そういう質問も出ようというものだ。ものに熱を加えるとどうなるか、ということさ。
一平 例えば、そのものの温度が上がるとか。
先生 それも一つだが。
和美 お米がご飯になるとか。
先生 まあ、それも一つだが…
一平 ぼくは小学校の2年まで、ご飯を作るのに火を使うっていうことを知らなかったんだよ。夏休みのグリーン・スクールで薪でご飯を炊くまではね。
先生 電気炊飯器は中が見えないから、当然かもしれない。
和美 そいういうのブラックボックスっていうんでしょ。
ボタンを押せばOKっていうの。
一平 中が見えなくても、“結果よければすべてよし”っていういわけだ。
先生 私が小さい頃は、おもちゃを壊したり、柱時計を分解したり、懐中電灯をばらしたりしたもんだが…。
和美 今のブラックボックスは壊したら組立てられませんよ。テレヴィでも、コンピューターでも、時計でも…
一平 このあいだ、電卓が壊れちゃったので、中を開けてみたんです。そしたら、中からICが一本出てきてびっくりしちゃった。もっと、複雑なメカが詰まっていると思っていたのに。
和美 ブラックボックスを開けたら、また、ブラックボックスだったっていうんでしょ。
先生 話を戻そうかな。普通、熱現象といわれるものは、熱伝導、熱膨張、三態変化、熱容量などといろいろあるが…熱伝導ってどういうことかな。
和美 金属は熱を伝え易いとかいうことでしょ。
先生 そうそう。
一平 学校給食で、アルミの容器はプラスチックの容器に比べると、すごく熱くなるんだよね。
和美 家では、お味噌汁は木のおわん使っているけど、感じがいいわよ。
先生 冬スキーで山へ行ったりするとき、手袋を脱いだ手でスキーの金具に触るとぺたぺたくっつくんだよ。
和美 どうしてです?
先生 手の水気が氷になってくっつくんだ。
一平 ヘーッ!
和美 先生、この間、TVコマーシャルで建材のことを見たんだけど、割合薄い板の片面を火で強熱しているのに、反対側は手で触(サ)われるというのがありましたよ。
先生 ガラスのようなものかな。なにしろ、化学的にいう塩(えん)のようなものかな。
和美 ということは、もう燃えてしまっているもの、ということですね。
先生 それに、多孔質で、繊維状になっていて、中に空気が含まれているんだろう。
一平 空気は熱を伝えにくいんですか。
先生 動かない空気は熱を運ぶことが少ないんだ。
熱を伝えにくい材料を断熱材というね。
和美 二重窓にすると、冬、部屋が温いんですね。
一平 カーテンでもいいんだろう。
和美 着物も、下着は薄ものを重ね着するのよ。
一平 毛糸が温かいのも、空気があるからだね。
先生 冬、みかんがおいしいのは、部屋を温かくしても、みかんの皮の内側に空気の層があって、みかんの中味がひんやりしているからだよ。要するに、空気は断熱材なんだ。
アイスクリームの天麩羅も空気の衣で可能なのだ。
和美 新しい家を建てるときには、壁の中に断熱材を入れると冷暖房費が少なくて済むんでしょ。
一平 和ちゃん、経済観念あるよな。未来の主婦として…
和美 もう建ててしまった家には、発泡スチロールの細い球を、壁の隙間の空間に吹き込んで、埋めるのよ。
一平 ヘーッ。
先生 空気もそうだけど。水もよい断熱材なんだよ。
和美 熱いお風呂に入ったとき、じっとしていると熱くないんでよすよね。
先生 そうそう、皮膚にくっついている水の薄い膜が、その熱い湯から身体を離しているんだね。
一平 冷たい風呂に入った時も同じだ。
先生 冬、ダイバーたちはウエットスーツを着て海に入るんだが、ウエットスーツと身体の間には海水が入り込んでいて、それが体温で温められて…
和美 水の下着をつけていることになるんですね。
先生 そうそう。次は熱伝導の方へ行こう。
一平
熱伝導のいいのは金属でしょう。
和美 お鍋は熱を伝え易い方がいいから金属なんですね。
一平 オートバイのエンジンには金属のフィンが着いていて、放熱するんです。
先生 放熱というとね、人間は着物を着て調節するけれど、動物はキタキリスズメだろ。だから、放熱のためには工夫がなされているんだよ。数年前アフリカへ野生動物を見に行ったのだが、そのとき、このことに気がついたのだ。ゾウはあの大きな耳がその役割を果たしている。しまうまやレイヨーの種類はいつも耳や尾を動かしているのがそれだ。ダチョウ、キリンの首の長いのもそうだし、ライオンには、最近、樹に登る「文化」が生まれたという。樹にまたがって、尻尾と4本の脚をぶらりと下げて放熱しているのだ。カバは水の中で、夜になってから陸に上がってくる。ワニは変温動物だが、大きな口を開け、何時間もそうしている。ハイエナは平地に窪みを作って土の上にごろんとしている。小動物たちはみんな穴の中だ。バッファロは水辺にいることが多いし…、ちなみに、アフリカの住民たちの頭髪が縮れているのは、空気の断熱作用で頭を保護しているということだ。
和美 逆に、寒い時には放熱を少なくするんでしょ。手を握るし、肩をすぼめるし。
先生 それから、熱源を使う工場では、熱交換器を使って熱を捨てない工夫がされている。工場にある大きなタンクのようなものが熱交換機だ。
和美 火力発電所の熱公害が問題になっていますね。
先生 熱効率は最大で30%ぐうらいだから、熱の70%は捨てていることになる。
一平 もったいないなー、何とかならないんですか。
先生 使うことはできるけれど、採算がとれないからやらないんだ。それより、高速増殖炉の熱交換にナトリウム金属を使っているのを知っているかな。
一平 高速なんとかって何のことですか。
和美 原子力発電でしょ。
先生 そうだ。天然のウランを有効に使おうという方式で、核変換を起こしにくいU238を、高速の中性子でPu239に変えて、核分裂に使おうというもので、高速中性子を使うので高速増速炉という。ただ、この際、熱交換物質に水を使うと、高速中性子が低速中性子になてしまうので、ナトリウム金属を使うんだ。
和美 Na金属が熱で液体になるのね。
先生 そうだ。これが熱交換器で水お熱交換して、その水蒸気がタービンを回して発電する。
一平 でも、もし、熱交換器に穴があいたら大変ですね。ナトリウムと水の反応はすごいもん。
和美 発生するのは水素でしょ。これに空気が交ざって火でもついたら…
先生 そうしたら。原子炉全体がロケットみたいに飛び上がる、ということを想定して、アポロ・シンドロームという。
和美 ブラックジョークですか。
先生 そうとも言えるし、そうとも言えない。
和美 熱伝導にも、いろいろあるんですね。 (この記事が書かれたのは1983〜1984のことです)