高校生の物理 音と振動 (3)耳ってすごい A--4 No317 2011年9月15日(木)
一平 音が空気を伝わっていくというのはどういうことですか。
先生 プラスチックのつるまきばね状の玩具が百均で買える。床の上で二人で引っ張る。一人がグッとばねを押すと、縮まった部分が先へ進んでいく。今度は引っ張ると、疎になった部分が進んで行く。
往復を繰り返すと連続した粗密が伝わって行く。空気もばねと同じで、圧力による粗密が伝わって行く。この空気が、他のものにぶつかると、それに粗密の振動を与える。耳に当たると、音として感じる。
一平 でも、それだと空気が耳のところまでに移動していくように思っちゃいます。
和美 ものが移動するのではなくて、ものの変形が伝わっていくんでしょ。
先生 変形を伝える、つまり、音を伝える空気のようなものを媒質というね。一般には波を伝える媒質を、原子論的に振動子と呼ぼう。音の媒質は空気の分子だと思えばいい。はじめ、振動子がラインアップしていて、狭い範囲で往復運動ができる。第一振動子が左に動く。その先(例えば第一振動子の右手)にある第二振動子は、第一振動子から引かれるが、振動子には慣性があるので、まだ動き出さない。
和美 第一振動子がもう少し動くと、第二振動子が動き出す。このようにして、第一振動子が往復運動すると、第二振動子はいつも少しずつ遅れて第一振動子と同じ往復運動をする。
一平 第三振動子も、第二振動子にそそのかされて、更に遅れた振動をする。
先生 まあ、そんなものだ。時間による変形の相違を位相というね。
一平 振動子の影響がどの位の速さで他の振動子へ伝わるかっていうことで、波の速さが決まるんですね。
先生 そうそう。波の速さというのは、波の伝わる速さのことだから。では、どういう振動子が波を速く伝えると思うかな。
和美 振動子が軽くて動きやすいこと。
一平 もう一つは振動子同士が強く結びついていること。
先生 そうだね。
一平 それから、第一振動子が一秒間に何回振動したか、つまり、振動数にも比例するでしょう。1秒間に5回振動するより、10回振動する方が、先の先の振動子まで動き出すもの。
先生 なるほど。そう考えそうなところだ。でも、違うんだな。振動のスピードが大きいと、第一振動子の動きは、近くの振動子までしか影響を与えない。
一平 じゃあ、波の速さは振動数に関係ないんですか。
先生
音の場合はそうだ。
一平 ちょっと信じられないナ。
先生 もし、振動数によって音の速さが違っていたら、どうなるかな?
和美 オケの演奏を遠くで聞くと、バイオリンが先に聞こえて、チェロが後から聞こえることになる!
一平
ああ、そうか。そんなことになったら世の中がおかしくなっちゃう。
先生 速さが振動数によって変わることを、分散があるという。音には分散がない。光は真空中では分散がないが、他の媒質中では分散がある。
一平 へー!
水の中では赤い光と青い光では速さが違うんですか。
先生 そういうことだ。
和美 音に分散がなくて幸せでした!!
先生 今の、音の速さをまとめておこうか。
和美 音の速さは振動子の引き合う強さと、その軽さに比例する。
先生 軽さという概念は物理にはないので…
和美 では、重さに反比例するといえばいいのでしょう。
先生 それでよろしい。それから、比例といっても、正比例でなくて、平方根に比例だ。まとめて書くと 音の速さ=k√(振動子の結びつきの強さ/振動子の重さ) kは比例定数
和美 実際の物質については学校でやったからわかっています。
先生 それでは、それをまとめてごらん。弾性体全般についていえるかな。
一平 こういうのは和チャンだナ。
和美 参考書があるので紹介します。
ひもの場合は √(ひもの張力 / 線密度)
棒の場合 (縦波)
√(ヤング率 / 密度)
棒の場合(横波) √(剛性率 / 密度)
気体の場合 √比熱比・(圧力 /
密度)
一平 速さ v がルートで表されるのは、運動エネルギーが 1/2・mv^2
だからじゃないかと思うんですけど…
先生 そんなところかもしれないな。
一平 もう一つ気になっていることがあるんです。テレビで相撲を見ていて気がついたんですが、東と西の拍子木の高さが違うんですネ。木の質が違うと思ったんですが、質が同じでも長さが違えば高さの違う音が出ますネ。
先生 そうだよ。
一平 さっきの話では、質が同じなら音速は等しいでしょ。それなのに振動数が違うってことは?
先生 拍子木を叩くと、拍子木はいろいろな振動をするんだろうね。でも、拍子木全体としては一定の振動数に統一されてしまう。拍子木の中を往復する波では定常波を作れる振動だけが生き残って、あとは熱振動になってしまうのだろう。いや、振動子もこれに調子を合わせて、これ以外の振動は起きにくくなるのかもしれない。
和美 葦笛は葦の長さを変えると音の高さが変わります。
一平 発音体が共鳴箱に共鳴するのかもしれない。
和美 トランペットを吹く人に聞いてみます。
先生 弦や棒や気柱の定常波はどうなっているか書いてごらん。
和美 えーっと。バイオリンの板と中の空気はとても複雑に多くの定常波を作れるのね。
一平 音を出す方ばっかりでなく、音を受ける方も定常波をつくるんでしょう。
和美 幕の場合は
一平 円形の幕だとわかるけど…。長方形の幕だと、縦と横で違う定常波ができないかな。
先生 グラドニ図形って見たことあるだろう。いろいろなモードの定常波ができるんだね。
和美 そうすると、バイオリンの板と中の空気はとても複雑に多くの定常波を作っている。
一平 音を出す方ばかりでなく、音を受ける方のメカニズムも定常波なんだ。
和美 共鳴機構を持つというのネ。多くの気柱があるようなもので…
先生 そうだよ。人間の耳には4500本もの筋繊維があって、それぞれの音に定常波を作っている。
和美 1本が1サイクル受け持っても4500サイクルまで感じられる。
一平 しかも、あんなに小さい空気の動きを捕まえて…、耳ってすごいんだナ。
先生 音の来る方向も両耳で区別できるし。
和美 ステレオ効果ですね。
一平 目もステレオ効果だよね。
和美 人間の感覚器って凄いのね。耳ばかりでなく、目も、鼻も、皮膚も…
一平 舌もだろう。