高校生の物理 運動の種類(2) 落下運動2 M-110 No305 2011年8月4日(木)
先生 地球上では手に持ったものを黙って落とす方法を自由落下と呼ぶことにしたね。
和美 黙って、といことは初速度を与えないということでした。
一平 要するに静かに落すんですね。
先生 そうそう。水平方向にも初速度を与えないように注意しよう。そうしたとき、時間と速さ、時間と落下距離の関係はどうだったかな。
和美 “速さは時間に正比例する”
“落下距離は時間の2乗に比例する” でした。
一平 速球王という文明の利器を使って、この関係を発見しましたが、ガリレイはどうやってこれに気がついたのでしょうね。その頃は、時計もたいしたものはなかったでしょうに。 先生 ピサの斜塔の落下実験という話があるけれど、実際に、そのような実験をしたかどうかはわからないね。斜塔ではなくて斜面を使ったのではないかな。
和美 斜面の上で球を転がしたんですね。
一平 そうか、斜面が緩ければ、球はゆっくり落ちていくんだ。
和美 メトロノームを鳴らしておいて、転がっていく球の位置に印をつければいいんですね。
先生 その頃には、まだ、メトロノームもないんだよ。
ここに簡単な実験装置がある。軽くて小さい定滑車に、両端におもりをつけたつけた糸が吊してある。おもりの重さが等しければ、静かにしておけば、全体を静止させておくことができが、一方のおもりがいくらかでも重いと、全体がゆっくり運動を始める。
和美 重い方のおもりがゆっくり落ちるということですね。
先生 アトウッドの器械というんだ。
和美 そんな簡単な装置を、器械なんて大げさ!
一平さん、さっきから何を考え込んでいるの?
一平 ウーン。ちょっと待ってよ。おもりにはたらく重力は互いに逆(さか)らう向きにはたらくのに、動かされるおもりの質量は同じ「抵抗として」のはたらきをしているんだネ。
和美 そうか、重力は同じ向きなんだけど、一本の糸で滑車に掛かっていいるので、力の効果としては逆向きにはたらくんだ。運動は反対の向きなんだけど、おもりの慣性は協力的にはたらいていることになる。
一平 2つのおもりの質量は、重力質量は差としてはたらき、慣性質量は和としてはたらいているんだ。
先生 うまく言えている。
和美 そう考えると、アトウッドの器械という名が重みをもって聞こえるような気がします。
先生 このアトウッドの器械は作動原理も面白いが、これを使うと、簡単に落下運動を解析できそうだね。
一平 いくらでもゆっくり落下させられるので、実験は楽にできる。
先生 ところで、ガリレオ・ガリレイの振り子の話を知っているね。
和美 教会の灯火が振れているとき、振れ幅に関係なく、往復する時間が同じなことを発見したのでしょう。
先生 ものの落下運動のことを考えていたので、これに目がついたのかもしれないね。糸の先におもりをつけた振子を単振子というけど、教会の灯火も一種の単振子なのだ。ただし、振幅をあまり大きくすると単振子ではなくなってしまう。単振子の周期が振幅に関係ないことを、等時性というんだ。
一平
ひょっとすると、ガリレイには単振子が斜面に思えたのでは…
先生 単振動の周期の2乗は糸の長さに比例するのです。周期を T 糸の長さを a
とすると a∝T^2
和美 自由落下の距離 s と時間 t
の関係 s∝t^2 と同じ形です。
一平 斜面を走る距離が時間の2乗に比例するに違いないと、思いついたのかもしれません。
和美 1回下がったおもりが、自然に元の高さにもどるので、実験では世話がないし…
一平 それに等時性があるので、周期を測るには、何回かの時間を測って回数で割ればよいのだね。
和美 昔の人々は、いろいろなことを総合して、落下の法則を発見したのですね。
一平
斜面も、アトウッドの器械も、単振子も、みんな、重力薄め器といってよさそうです。