高校生の物理 力5 作用反作用の原理
M-101 No296 2011年6月30日(木)
先生 2つの物体が力を及ぼし合うときには、及ぼし合う力は同じ大きさだったことを覚えているかな。
和美 忘れるもんですか。非常に公平で、女性としては嬉しいことですから。
一平 地球とリンゴが引き合う時にも、その力の大きさは等しいのでした。
先生 その通りだが、それだけではなく、その2つの力は同じ直線上にあって反対向きなのだ。
和美 チョット待ってください。それでは、つりあっている2力を同じじゃないですか。
先生 そう思うだろうね。だが、違うんだナ。
一平 2力のつりあいの場合には、その2つの力は一つのものにはたらいていたんだけれど、作用反作用の場合には、2つの力は二つのものにはたらいていたんですね。
先生 そうさね、だけど、ものが一つか二つかの違い、なんていうものではないんだ。
和美 それどういう意味ですか。
先生 作用反作用は力のはたらきの大原則で、どんな時にも成立しているんだ。古今東西、いつだて、どこだって、例外なしに、掛け値なしに、ご多分に漏れず…
和美 先生、力が入っていますね。
先生 そうだよ。それに対して、2力のつりあいは、たまたま、その時、そこで、力がそうなったというだけのことで、法則の格が違うんだ。
一平 一つのものが、もうひとつのものに接していたら、必ず同じ大きさの力をやりとりするというのが作用反作用の法則でした。重力や電気・磁気の場合をも含めて。
和美 2力のつり合いは一つのものに2つの力がたらいていて、打ち消し合って0になる―なくなっちゃう―っていうことです。
一平
作用反作用の2力は打ち消し合うことはないのですか。
先生 そういうことはないね。
作用反作用の2つの力は別々のものにはたらいているので、打ち消し合えないんだ。
和美 違うものにはたらく力は打ち消しあうことがない、というのはどいう意味なんですか。
先生 物体にはたらく力を考えるというのはね、その物体が動き出すかどうかを調べようとしていることだよ。その物体にはたらいている力を足して0にならないときには、つまり、その物体にはたらく力がつり合っていない時には、その物体は動き出すことになる。一つの物体の動きを考えようというのだから、隣の物体には関係ない!
一平 足せる力は同じものにはたらいている力なんだ。
和美 作用反作用の力は別のものにはたらいているので、足してはいけないのだ。足せないのだ。だから、打ち消し合うなんてことはないのだ。…ということなんですネ。
先生 作用反作用の2力がつりあうなんて、口が裂けても言ってはいけない!
一平 ちょっと間違って言っちゃいそうな気がするナ。
先生 では、問題です。教室の掃除で机を動かそうとしている。生徒が机を押す力と、机が生徒を押す力は、作用反作用で同じ大きさなんだけど、机が動くのはどうしてかな。
一平 机にはたらく力と、生徒にはたらく力を比較しても仕方がない。
和美 机を動かしたいのだから、机にはたらく力だけを考えるんでしょ。
先生 そうそう。そうすると…
和美 机を動かすんだから、横方向の力だけを考えるんですね。それは、生徒が机を押す力と、机にはたらくまさつ力だから、どちらの力が大きいかで机が動くかどうかが決まる。
一平 まさつ力の方が大きいっていうことはないね。
和美 摩擦力は、
相手の力より大きくなることはないんですね。
一平 生徒についていうと、机が生徒を押す力より、床が生徒を押す力の方が大きいから生徒は机を運べる。生徒にはたらくまさつ力はどうなったんだろう?
和美 ?
先生 床が生徒を押す力がまさつ力なんだよ。
まさつ力はいつでも邪魔する力という訳ではないんだ。
和美 エエッ、まさつ力が邪魔しない!!
先生 邪魔する摩擦力というのは固定観念だね。床が人を押す力といえば、理解できるだろう。人は床に押されて歩いているんだから。
和美 自動車も摩擦力で走っているんだ!
先生 そういうこと。ところで、今日はもう一つ問題があるんだ。作用反作用を考える時に、その理由などは考えないということだが、覚えているかな。
和美 覚えているけど、よく意味が掴めなかった。机からリンゴにはたらく力を考える時、リンゴが机を押すと、机は歪んで、元の形に戻ろうとして、リンゴを押し返した、これを反作用が起きる理由として考える、というのでした。でも、こう考えてはいけない、というんでしょう。
先生 そうだったね。
一平 でも、実際には、押された机は変形しているんでしょう。ゴムが変形しているように。
先生 それはその通りだ。ものは力を受ければ変形するよ。
和美 それなのに、変形で反作用を説明するのは駄目なの?
先生 @リンゴが机を押す、A机が変形する、B机は元も戻ろうとしてリンゴを押し返す、ということになれば、反作用の方が遅れてはたらくということになるけど、実際はそうでなくて、同時にはたらいているんだ。
和美 測れないくらい速く、反作用が来るんじゃない!
先生 そうではないよ。それは同時にやってくる。
一平
どうして、同時にはたらくのだろう?
先生 同時にはたらくという事実が、まずあるんだよ。どうして、ではなくて、そうなのだ。いくら例外をみつけようとしても、みつからない。自然界はそういうものなのだ。人が押す方が積極的であるような考えは止めたいね。
和美 そうでした。科学では人もリンゴも机も対等なんですから。
一平 そうはいうけど、机を押そうとして押したのは人間の方だからナ。
先生 それでは、人が壁を押す場合を考えてみよう。
一平 僕が壁に向かって手を出します。手が壁に触れて、壁を押します。
先生 そこで、待て!だよ。手が壁を押すといったが、手が壁を押そうとしても、壁がなければ押す訳にはいかない。壁があるから押せるんだろ。“壁さんありがとう”ってなもんだ。
和美 どうしても、意志があるものが積極的だと思ってしまうんです。物理では、生物でも無生物でも対等だといっているのに。
一平 リンゴの場合もそうでした。リンゴが地球に引かれて下へ行こうとしても、下に机があって邪魔をする。机はリンゴの重さで変形し、その結果、リンゴに反作用を及ぼし返す。だから、リンゴの方が<仕掛けた>ことになる。
先生 しかも、ものが変形して力を及ぼすのなら、リンゴだって変形していることになるね。変形が見えないくらい少なくても。でも、一般にはリンゴや机の変形は見落としてしまうね。つるまきバネなら変形が見えるけど。
和美 そういうことになりますね。
作用反作用はどんな時にも成り立つんでしたよね。
先生 磁石が鉄を引く時にも反作用があるが…
一平 小型磁石を大きい鉄につけたことがあります。磁石が鉄にくっついていきました。どっちがどっちにもつくんです。
先生 そんな時、反作用がどうして起きるかなんて考えるかな。何かが変形してとか…
一平 変形でなくて、磁力線がどうのこうのと、別の理由を考える…、磁力線は縮まる性質があるからとか…
先生 力のはたらきについて、別々の理由を考えるなんておかしいとは思わないかな。
一平 そう言われてみればそうですが…
和美 作用反作用は原理だから、その理由を言わなくてもいいんですね。
先生 その言い方からも、<衣の下の鎧が見える>ね。
一平 <理由を言わなくてもいい>ではなくて<理由を言う必要がない>なのですね。
和美 <理由を言おうとしてはいけない>のね。
先生 <理由を言わない>のだ。