理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

物理読み物59   浸透圧         P-3  No284   2011年5月19日(木)
 
 液体に関して、溶媒は通すが溶質は通さないという膜があります。半透膜といいます。
 U字管の底部に半透膜の隔壁をつくり、その左側に水を、右側に食塩水を入れておくと、半透膜を通して左から右に水が浸透していき、右側の水位が上昇していきます。そして、水の浸透していく「力」(左側が優位)と、液体の重力(右側が優位)がバランスしたところで、見掛けの変位はとまります。
 このときの溶液の圧力を浸透圧といいます。半透膜のところでは、左から右へ水が浸透していくので、その「力」は左側の水の方が大きいのですが、これを押さえる、溶液の重力による圧力の大きさで浸透圧の大きさを表します。溶液の浸透圧はその濃度に関係するので、水が入り込んできても濃度が変わらないように、実験装置には工夫がなされます。
 さて、今度は、浸透現象をミクロの目で眺めてみましょう。半透膜には、水の分子は通すが、溶液のイオンは通さないぐらいの小さな穴がたくさんあいています。このことは、U字管の左側でイオンを検出してみればわかります。食塩水を例にしてみれば、半透膜が、NaやClを通さないのは、これに水の分子がくっついていて、イオンの見掛けの大きさが大きくなっているからでしょう。
 このことを考えて見ると、半透膜の穴のところに水の分子がやってきてこれを通過する確率は、初めのうちは左側の方が優位だったということです。しかし、時間がたって右側の「水位」が高まると、そのことで、膜付近における、右側の溶液の「水密度」が大きくなっていきます。(右側は溶液ですから、左手から水が浸透してきても、密度は常に左側より大きいのです。ここでいっているのは<水>の密度のことです。)
 このことに関して、一つのモデルを考えてみます。水溶液の密度を決めるものは、単位体積中の水の分子や溶液のイオンの数ですが、ここで、イオンとこれにくっついている水(水和水)を除いた、それ以外の水の密度を考えます。この「水密度」が半透膜の左右で同じになったときが、水分子が膜を通過する確率が等しくなったときと考えてみます。水ぶくれになった(水和した)イオンが半透膜の穴を塞いでいるときには、左側からの水の侵入(浸透)はありません。
 少々ラフなモデルですが、浸透圧を考える便(よすが)にはなりそうです。先ほど、<みかけの変化>は停まると書きましたが、それは、左右からの水の侵入確率が等しく、水の出入りに関しては、平衡に達しているということです。
 また、このモデルで考えると、右側の水密度を大きくしてやれば、右から左へ水が通過するということ、つまり、浸透圧より大きな圧力を水溶液側にかけてやれば、溶液から純水が得られるということに思い至ります。溶液の表面をピストンで押さえて、これを押すと、水だけが左側へ染み出していきます。また、溶液側の「水位」が上がらないようにしておけば、左側の水はとことん吸い出されてしまうこともわかります。
 浸透圧には、よく知られているモデルがあります。それは、溶液の中に分散している溶質のイオンを、気体の分子に見立てる方法です。H2O の部分は真空とみるのです。浸透が完了して系が平衡に達したとき、その浸透圧の大きさは、気体分子運動論的に、イオンが半透膜を押す圧力に等しいということから、気体の状態方程式を用いて計算することができます。
 例えば、0℃における 0.l[mol]NaCl溶液の1[l]を考えると p=(n/V)RT=0.1×2×0.082×273=4.5[atm]
ここで、モル数を2倍にしたのは、イオンが2種類あるからです。ただし、これは浸透現象の結果としての圧力の大きさを計算したもので、原因について述べている訳ではありません。イオンによって圧力が大きくなったとしたら、その結果として、力学的に“なにが起きるか”というのでしょうか。 
 このモデルが水を「無」としているのに対して、前のモデルではイオンを「無」としていることに気がついたことと思います。
 浸透圧では、次のことは注意しなければなりません。例えば、浸透圧が1気圧の溶液があったとします。これを長いガラス管に入れたとしても、液による管の底の圧力が1気圧(大気圧を含めて2気圧)になるというわけではありません。半透膜を介して水が侵入して、液の高さが約10[m]まで上昇した結果、底の圧力が1気圧になるということです。
 浸透圧が如何に大きいかといいうことは、高さ10mもある樹があるということからもわかります。大気圧では、水は10mしか上がらないのですから、樹のこづえまで水を持ち上げることは浸透圧(毛管現象などとの他の作用があるかもしれない)がやってのけたに違いありません。
 高さによる圧力の大きさを実感しようというのなら、細いヴィニールパイプをストローがわりにして,二階から水を飲んでみるといいでしょう。“圧力はパイプの太さにかかわらない”から、太いパイプででも同じだ、と考えるかもしれませんが、そうはいきません。太いパイプでは水は飲めません。“二階から目薬”という諺(効果のおぼつかないこと、迂遠なことの例え)がありますが、“二階からジュース”という諺(頑張れば良い結果が得られる)はどうでしょうか。上の実験では、水の代わりにジュースでやると迫力があります。文化祭などでやっても、好評を得ること請け合いです。
 
 
 
 
 
 
 
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