物理読み物56 単振動 M-87 No281
2011年5月12(木)
つるまきバネにおもりをつけて、摩擦のない水平な机の上に横たえて置き、つるまきバネの他端は固定しておきます。おもりには、重力と机からの垂直抗力とつるまきばねからの力がはたらいていますが、重力と垂直抗力はつり合いますから、以後、考えないことにします。
おもりを少し手で引いて、離します。おもりの変位を
x、おもりにはたらくバネからの力を f とすると、ばねの定数を k>0
とし f=−kx おもりが中心から右に変位すると、これには左向きのに力がはたらき、左に変位すると右向きに力がはたらくので、いつでも、中心に向かって力がはたらくことになります。これが、復元力です。
今、おもりを手で右に引いて、手を放します。おもりには kx の大きさの力が左向きにはたらいて、加速度運動を始めます。ところが、変位 x が小さくなると、力
f も小さくなるので、加速度が変化します。不等加速度運動は、扱いが面倒なので、計算は止めにします。しかし、速さはどんどん増して、中心を通るときに最大になり、そこを過ぎると、変位は負になって、おもりの運動にブレイキがかかりますが、おもりの慣性のため運動はしばらく続いて、やがて、止まります。向きが逆になるだけで、これまでに起きた運動と全く同じ運動が続きます。そして、この運動が繰り返されます。物体にはたらく復元力と物体の慣性によって続くこの種の運動が単振動です。
単振動を考えるとき、私はTVの車寅次郎を思い浮かべます。放浪生活を続ける寅さんには、常に、肉親のいる金町へ引き戻す力がはたらいています。しかし、北の旅から帰って来ると、必ず「事件」を起こして、今度は南の旅に出かけてしまいます。旅の遠さに比例して、望郷の思いがいや増すのです。放浪癖は運動の慣性のようなものです。寅さんの一生は単振動の旅なのです。
物体には慣性がありますから、物体に復元力がはたらけば、いつでも、単振動が起きます。ヘラブナ釣りの浮き、U字管の中の液体、ハーモニカのリード、時計の振り子、茶碗の中のビー玉、
地球に穴をあけて走らせる<地球貫通地下鉄>の構想も浮かんできます。
どんなものでも叩けば音が出ます。ということは、どんなものでも振動するということです。複雑な振動でも、幾つかの単振動から合成させることがわかっています。音は弾性振動によって起きます。光は電気振動によって起きます。
単振動は、また、位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)と運動エネルギー(アクチュァルエネルギー)の相互転換の課程ともいえます。
ジェットコースターはポテンシャルの大きいところから、徐々にその高さを速さに変えつつ加速し、そして再び、速さを高さに戻したりして、高さと速さの転換を楽しむ遊具です。コースを複雑に変えてはいますが、原理的には単振動の一種です。