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掲示板 石井信也
理科実験を楽しむ会
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物理読み物55   一方通行         P-2   No280   2011年5月5日(木)
 
 道路標識には侵入禁止や一方通行の標識があります。物理・化学現象にも、このような現象があります。
 ハーフミラーという鏡があります。こちら側から向こう側は見えて、向こう側からこちら側は見えないという鏡です。しかし、これは、光が一方通行しているわけではなく、光量の多少によるものです。暗い側からは明るい側が見えるのですが、明るい側からは暗い側は見えません。昼間は、外が明るいので、家の中から外の景色はよく見えますが、夜になって電灯がつくと、家の中の方が明るくなるので、外から家の中の様子がよく見えます。反射光と透過光の強度の問題です。
 熱は高温の側から低温の側へ一方通行で伝わります。正の電気は電位の高い方から低い方へ一方的に流れます。水は高い土地から低い土地へ流れます。これらはその位置の条件によります。
 ダイオードという電気パーツがあります。例えば、右から左に電圧がかかったときには電流が流れたとすると、その逆のときには電流は流れません。まさに、一方通行です。電流の流れる向を順方向、流れない向きを逆方向といます。できれば、順向き、逆向きといいたいところですが…。発光ダイオード(LED)も電流は一方通行です。
 ポンプの弁や、時計のラチェットもその動きはワンサイドです。ある種の改札口もそうですし、手錠もそのようなものでしょう。蛋白質の変性や生物の死も、そのようにみえますね。
 ラヂカルな物理・化学現象には両方の向きに「通行可能」のものが多いようです。重力場の運動では、物体に逆の速度を与えてやれば、もとの運動をたどります。電流を流せば発光ダイオードは光りますが、発光ダイオードに光を当てれば回路に電流が流れます。水を直流で電解すると、水素と酸素が得られますが、水素と酸素とでは、燃料電池が作られて、水ができます。水を落とすとダイナモで発電しますが、つくった電気でモーター(ダイナモをそのまま使える)を回せば水を元の位置に戻せます。火力発電と電熱器も同様、電流の磁気作用と誘導電流も同様です。気体は断熱圧縮すれば発熱し、断熱膨張すれば吸熱します。
 青い硫酸銅を強熱すると、結晶水が出ていって、無色(白色)の無水硫酸銅になりますが、冷えてからこれに水を注ぐと、さっきの熱と色が戻ってきて硫酸銅になります。融解と凝固、気化と液化も同じパタンです。植物の光合成でできたデンプンを、動物が栄養として摂取することもそうです。カルノーサイクルも逆回転が可能です。
 どのような変化でも、その逆の変化を考えることは大切なことです。押した後には引いてみる、熱した後には冷やしてみる、酸の後にはアルカリを、右回りを左回りに、電極のプラ・マイを逆に、磁極のN・Sを逆に、直流を交流に…、逆操作は結果を逆転させるかもしれません。
 正逆両方の過程がすっかり許されるということは、時間を逆転させても、少しもおかしくないということです。それは、履歴性が、つまり歴史性がないということです。 
 熱は逆向きには流れないので、発熱がある現象を逆行させることはできません。このことを、エントロピーが大きくなったといいます。