物理読み物46  慣性能率  M-82   No271   2011年4月7日(木)
 
 
  大形の電動グラインダーを使用した後、スイッチを切っても、それは暫く回り続けます。これは並進運動の慣性運動に対比されるもので、回転運動の慣性運動です。運動を大別すると、並進運動と回転運動とになり、並進運動に関すつ概念のそれぞれに回転運動の概念があります。
  変位:角度             速度:角速度           加速度:角加速度
  力:力のモメント           質量:慣性能率         運動量:角運動量
   並進運動エネルギー:回転運動エネルギー
ただし、回転運動には並進運動にない特徴があります。回転運動は周期運動なので、周期が問題になったりします。また、回転運動をしている物体は、その途中で形を変えることによって、その慣性能率を変えることができます。慣性能率は質量に相当する量です。並進運動では系内で質量が変わることはありませんが、回転運動では、系の慣性能率が変わるのです。
 慣性能率はもちろん回転体の質量に関わりますが、それだけでなく、その形や質量分布によります。質量は同じでM、半径をr、とすると回転体の慣性能率は次のおうになります。
  円板・円柱:(1/2)Mr^2   球:(2/5)Mr^2    円錐:(3/10)Mr^2
ちなみに、長さ2rの棒の慣性能率は (1/3)Mr^2 です。
 コマの概形は円盤(円板)ですが、同じ円盤でも、多くの質量が遠くに配置している方が慣性能率が大きいので、コマの円盤の外周に板鉛を巻いたりし、中心付近の板肉を薄くしたりして、慣性能率を大きくする工夫をします。
 慣性能率に角速度をかけた量は、並進運動の運動量に相当して、角運動量と呼びます。この量は運動量のように厳密に保存されます。先に述べたように、慣性能率は変えられますから、回転体が回転運動の途中で、慣性能率を小さくすると角速度が大きくなり、慣性能率を大きくすると角速度が小さくなります。
 実験室の椅子には軸の回りに回るものがあります。そのような椅子を見つけて実験して見ましょう。椅子に座って両腕を横に伸ばし、誰かに椅子を回してもらいます。回転の途中で腕を縮めてみましょう。回転が速くなったでしょう。重いおもりを両手に持ってやってみましょう。回転速度が大きくなるので、気をつけてやりましょう。フィギュアー・スケイトの選手がフィナ−レのスピンで、いっぱいに横に伸ばた手足を縮めて回転速度を上げているのはよく見かけられます。片足を身体に添えて真上にまで上げるドーベルマン・スピンは話題を呼びました。
 地球の回転速度は北半球の夏季には遅くなるそうです。それは、草木が繁茂して質量分布が中心から遠くなるからです。地球では半球ずつが同時に夏と冬になるからそんあことは…と、考えるでしょう。北半球には陸地が多いのです。
 パルサーという星があります。星の末期的状態で、質量が中心に落ち込んで超高密度(1cm^3で10^10〜10^20トン)になっています。原子が潰れてしまった中性子星です。当然、角運動量保存からして、回転速度が大きくなって、短い周期(0.0016〜4秒)で電磁放射しています。このパルスは強い磁場が高速回転することで放射されています。
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