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掲示板 石井信也
理科実験を楽しむ会
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物理読み物44   仕事      E-131    No269       2011年3月31日(木)
 
 力は時間や距離を媒介にしてものの運動に変化を与えます。時間を媒介にした場合を<力積>といい、距離を媒介にした場合を<仕事>といいます。そして、前者は物体に運動量を与え、後者は物体に運動エネルギーを与えます。時間と距離とを二重に媒介してはたらく<作用>という量もあります。さて、…
 いくら物体を押したり引いたりしても、その物体が動き出さないことには、運動に関する効果はゼロです。このようなとき、この物体には他の力もはたらいていて、対象にしている力は打ち消されているはずです。しかし、この場合でも、物体は変形しています。変形だって運動の一種ですから、力の効果は発揮されたのですが、今は、この変形には触れないことにしておきます。 つまり当分の間、<変形は捨象>することにします。そんな面倒なことをいわないでも、ここで取り扱っているのは変形しない物体であると仮定しておけばいいのです。そのような理想化した物体を<剛体>といいます。
 剛体に有効に力がはたらけば、止まっていた物体は速度を得ます。力 f をはたらかせ続けた距離を s とすると、質量 mの物体の速さは vとなってf・s=1/2・m・v^2 の関係があります。f・sが仕事で、(1/2)mv^2 が運動エネルギーです。
 ところが、仕事には別のタイプがあります。力がつりあいの状態で、仕事をするのです。今、対象にしている力は、他の力で相殺されてしまっているのに、それでも仕事をするのです。どうしてそんなことができるのでしょう。例えば、重力場で物体を持ち上げるときです。初め静止していた物体なら、重力と同じ力を物体に加えても、物体は動き出しません。それより少しは大きい力でないとだめです。でもそうすると、物体は加速運動を始めてしまいます。目的は物体を棚の上に持ち上げることなので、物体に運動エネルギーを与えることではありません。では、どうしたらよいのでしょう。物体が運動しないことにはどうにもなりませんから、初めの短い間は、物体に運動エネルギーを与えることに仕事を費やします。物体が速度をもったら、力を重力と等しくなるまで減らします。つりあった力の合力は0ですから、物体はそのときの速さで慣性運動を続けます。物体が目的の位置より少し手前まできたら、…この位置は計算しておきます…力を取り去ります。物体は重力で減速されながら、目的の位置(例えば棚)まで上がって止まります。 
 意味さえ分かっていれば、こんな面倒くさいことを考えなくてもいいのです。仕事の多きさを計算するのが目的ですから、初めから速度をもっていた物体を考えればよかったのです。この物体に重力と同じ大きさの力を加え続ければよいのです。仕事をしてやらなければ減速してしまう物体が、仕事をしてやったので、等速運動をして行って、目的の高さに達したのです。仕事が終わった瞬間も物体は初めと同じ速さを持っています。その後では、急速に減速し(棚の位置で止まり)ます。
 まあ、重力よりわずかに大きい力を長い時間をかけてじわじわと持ち上げればよいとする考え方もありますが、これでも物体は速さを得てしまいます。なしくずしに、速度を高さに転化していかなければだめです。
 このように、つり合いの状態で仕事がなされる例がいろいろあります。特に、重要な例として、物体に熱を与えるが、温度を上げないで、仕事をする(体積を膨張させる)ケースです。