物理読み物43 反発係数 M-75 No250 2010年12月30日(木)
最近は新素材の開発が進んでいて、反発係数がほぼ1及び0の材料でつくられた小球が売られています。反発係数1の方は、自由落下させると、床で跳ね返った後、ほぼ同じ高さまで上がります。本当に反発係数が1であれば、この運動を、いつまでも,繰り返す筈ですが、この球はそうはいきません。反発係数0の方の球は、一度でピタリと床に止まってしまいます。
反発係数はぶつかったときの速さ
v と、跳ね返っていくときの速さ v’ との比で、これを e で表します。これはまた、落としたときの高さ h と、跳ね上がったときの高さ h’
の比の平方根になります。即ち e=|v’/v|=√h’/ h この定義から反発係数は 0<e<1
ですが、跳ね返る状況は相手の物体にもよるので、それを述べないと、不十分です。
野球の公式ボールは、13フィート4インチ(4.5m)の高さから、所定の大理石の板上に落として、4フィート7インチ(1.4m)から5フィート(1.5m)の高さにまで反発することを要します。この反発係数は e=√1.4/4.5=0.56 と e=√1.5/4.5=0.58 の範囲になります。テニス、卓球、バドミントンなども、ラケットやシャトルとボールの反発係数が問題になるのでしょう。しかし、跳ね返りが、特に問題になるのはビリヤードです。ビリヤードの球は、良質の象牙が良いとされています。新素材が開発されて、象牙より良いもの、あるいは、象牙相当でも安価なもの、ができれば、象牙の密猟が少なくなるのでしょうが…。
厳密に e=1のものを知っていますか。それは、原子です。原子の世界には摩擦がない(!)ので、原子の反発係数は1なのです。もし、そうでなかったら、原子が衝突するたびにその速度が減っていって(エネルギーはどこへ行くのだろう)、しまいには、止まってしまいます。ということは、地球は、というよりも宇宙は凍りついてしまう(?)ということです。
初めに書いた e=1 の球と e=0
の球を半分ずつ貼り合わせて造った球があります。床に触れた部分がどちらかによって、高く跳ねたり、止まってしまったりして、その気まぐれ気分が楽しめるというものです。しかし、この場合どちらの部分が床に触れたか、ということで、床が受ける衝撃が異なります。跳ね返るときには速度変化が
2v (=|−v−v|)なのに対して、止まるときには v
(=|0−v|)なので、速度変化は2倍、運動量変化も2倍、従って力積も2倍になります。
石切場で大きな石を割っているのを見たことがあります。石にドリルで穴をあけ、そこにはがねを差し込んで、それを、鉄鎚で打って割るのですが、このとき、穴の中に布切れや草を入れて、たがねの跳ね返るのを防いでいました。石にはたらく力積を2倍にするためのものです。目の前で、大きな安山岩が見事に割れたものです。
物理の運動実験で使うエアトラックの滑走体には、板ばねのバンパー(?)がついていて、トラックの両端で跳ね返るときに減速しないように造られています。反発係数は1に近いように見えました。
スーパーボールの反発係数を調べてみましょう。1mの高さから静かに落として、跳び上がった高さ(単位はm)の平方根を電卓で叩けば、それが
e になります。