物理読み物35 分子運動エネルギー T-7 No242 2010年12月2日(木)
富山平野から一挙に3000mまで立ち上がる立山連峰の眺めは壮観です。ここに、450mを落下する日本一の大滝、称名(しょうみょう)の滝があります。さて、滝の水はこの滝を落下すると、温度がどれでけ上がるかを計算してみましよう。
滝の高さをh[m]、水の質量をm[kg]、重力加速度をg[m/s^2]とすると、この水のポテンシャル・エネルギーはmgh[J]になります。今、1.0[kg]の水を考えると
mgh=1.0×9.8×450=5300[J]
5300[J]÷4.2=1300[cal]=1.3[kcal]*
1[kg]の水の温度を1度上げるのに1[kcal]の熱量が要るので、この水は滝の下では1.3[deg]温度が上ることになります。
でも、滝壺の水の温度がこれだけ上がっているというのではありません。自由落下する物体は、ポテンシャル・エルギーが運動エネルギーに変わり、床(?)で静止して分子運動エネルギーに変わるのが一般ですが、滝の水のように飛び散ってしまうものは、空気との摩擦で、たちまちにして終速度に達してしまいます。従って、水のポテンシャル・エネルギーの全部は水の運動エネルギーには転化しなしで、空気をも温めています。滝の下は夏でも涼しのは、水の気化熱が大きいので、それによる温度降下の効果が大きいのでしょう
上の計算を逆にみると、1.0[kg]の物体は1.3[kcal]の熱量で450[m]の高さにまで上げられることになります。あとは比例計算ですから、60[kg]の人が約3800[m]の富士山に登るには 60×1.3×3800÷450=660[kcal] の食品を食べればよいということになります。勿論、これは高さだけを問題にしたので、基礎代謝に必要なエネルギーなどを考えてはいません。
この例のように、ものの運動は最後にはみんな熱エネルギーに変わってしまいます。マクロの運動エネルギーがミクロの運動エネルギーに転化するのです。整然の運動が乱雑な運動に転化するのです。歴史的事情により、前者はジュール、後者はカロリーで計量されますが…。1[cal]=4.2[J]です。*
魔法瓶に少量の水を入れ、上下に振ると、運動が熱に変わります。1000回くらい振っても、水の温度は1度も上がりません。魔法瓶を上下反転させると、水はその分だけ落下して、そのポテンシャル・エネルギーを失います。魔法瓶と水の深さを測れば、その量は計算できる筈ですが、さて…?
仕事を熱エネルギーに変える<圧気発火器>という優れた実験道具があります。ピストンを備えた硬質のガラスの細い円筒容器の底に、少量の綿を入れて、ピストンの中で空気を急撃に圧縮(断熱圧縮)すると、その綿が発火するというものです。温度が、綿の発火点(木材の発火点は250〜300℃)以上になるということです。ちなみに、綿の代わりに二酸化炭素を入れて圧縮すると、液体の二酸化炭素を作ることができますが、…**
* 水の気化熱は気温10〜15℃で490[cal/g]程度なので、仮に1.0kg
の水の1%が気化したとすると、1000×0.01×490[cal]の気化熱を奪います。これを水から吸収したとすると、水の温度は4.9度下がることになります。1%の評価が多いか少ないかはわかりません。
** この実験は、この時点で行った筈ですが、記憶に残っていません。