物理読み物14 料理 R-3 No211
2010/6/3(木)
学校で物理や化学を学んだら, そのような自然科学のめがねで,
自然や社会や生活や文化や…等々がみられるようになることが大切です. 今回は, 料理を物理・化学の目でみてみましょう.
料理は文化だといわれます. “その国の料理はその国で, その土地の料理はその土地で食べるのがよい”
といわれます. 気候, 風土から風俗, 習慣まで料理に反映するからです. 自然科学ですら, この点からは免れません.
味は料理の第一義的な要素であることはいうまでもありません. そして,
料理では材料本来の味をどう引き出すかがキーポイントです.
調味料や香辛料でごまかすのは下の下です. “生か,
焼くか, 煮るか, 捨てるか”
という言葉があります. 調理法の優位の順を言ったものです.
最近では, 煮る,と捨てる,の間に,
<潰して揚げる>というのが入ります.要するに,ハンバーグにするというものです.
料理には, 食物をおいしくする心遣いが,いろいろとなされます.
配色も料理の重要なポイントです.日本料理はその点, 色彩がゆたかです.
温度で料理は千変万化します.豆腐は,夏は冷や奴で, 冬は湯豆腐で喜ばれるのは,
熱容量の大きい「水の食品」だからです.熱い汁粉は熱伝導の悪い木の椀で供されます.ビールの温度は何度に限るなどという議論もあります.料理の温度にあわせて容器の温度もあらかじめそのようにしつらえます. 香への配慮もいろいろです. ブランデーはブランデーグラスで, ビールはその表面を泡で覆って飲むのです.
コーヒーもその表面をミルクで覆うのが良いという主張もあります.
次は, 力学的観点から. 日本の箸の先端が尖っているのも, 日本の料理文化の繊細さに対応したものだといえそうです. しかし, そばやうどんは割り箸に限ります.
白木の四角割り箸の摩擦効果は絶大です.
自然科学では, ものに積極的に働きかけることが大切です.
このような観点からすると, 料理は,
いろいろな方法で食品にはたらきかけるところが面白いし, 参考になります.
ものを加熱する方法にもいろいろあって, 例えば, 煮る,
焼く, 蒸す, 焚く, 炒める, 炙る(あぶる), 揚げる,
蒸(ふか)す,
シモフリする, 干す, 煎じる, 茹でる, 湯がく,
くぐらす, いる(炒る), 焦がす, 沸かす,
冷やす, 凍らす, 温める, 湯煎する, いれる,….
化学変化を利用したものに, 晒す, 絞める,
灰汁抜く, 濁す, 漬ける, 熟す, 燻す,
綴じる, 寝かす, 仕込む, 発酵さす, 練る,
合わせる, 塩胡椒する, 馴染ます, 醸す,….
物理的働きかけとしては, 叩く, 混ぜる,
切る, 剥く, 揉む, 押す,巻く,
絡ます, 搗く, 漉す, 卸す, 解く,
研ぐ, 打つ, 凝ごらす, 寄せる, 握る,
千切る, 裂く, 散らす, 削る, 取る,
噛ます, 洗う, 添える, 泡立てる, 挟む,
重ねる, 潰す, 擦る, 削(そ)ぐ, 和える, 抜く,
伸ばす, 殺す, 練る, 捏ねる, 絞る,
詰める, 流す, 挽く, 結ぶ, 緩める,
膨らます, 塗る, バラす, 開く, 落とす,
殺(そ)ぐ,
噛ます, 裏漉す, 刻む, 差す, 包む,
解(ほぐ)す,
戻す, 塗(まぶ)す, ふるう,
あしらう, ホイップする …
.
近ごろは, エレックするなんていうのもあって, “何もセンサー”(何もしない!) のに,料理ができるといいうのはどういうものでしょうか.
料理のエクスパートからコメントを貰いました. 料理はまず, 材料を選ぶことから始まり, (テーマを)みつけたり,
考えたり, 組合せたりして,
手順が決まり, 最後に,盛り付けなどの演出をする(この中には, その日の話題も入る)のだそうです. 科学の研究にも相通じるものがあります.
料理というテーマをみつけたのは, 理科と料理と字が似ていたことにも原因の一つでした.
料理の学習では, ものに働きかけることが大切なことです.化学では, その方法として “まず素手で, 火攻め, 水攻め, 薬攻め,
それでもだめなら, 電気攻め”という<操作方法>がありま.
物理でも, ものに働きかける方法として, 重さや体積を計ってみる, いろいろ力を加えてみる, たたいてみる, 回してみる, 熱してみる,
冷やしてみる, 水に入れてみる,
電気を流してみる,電場・磁場に置いてみる,いろいろな光を当ててみる,無重力でやってみる,などがあります.
働きかけといえば,漁業も手練手管で魚を騙してものにします. 四万十川には多彩な伝統漁法があって,人と魚の交渉があります.
川魚漁をしている漁師が“魚との知恵比べです” といっていました.
野外におけるファーブルが,虫たちに,なんだかんだとちょっかいを出しては,戸惑っている虫の行動を覗き見る様子を,昆虫記からいきいきと読み取れます.
栽培植物,飼育動物なども,人間が自然に働きかけた実践の成果として獲得した生物です.
ものとつきあっていると,ものから触発されて,次から次へと考えが湧いてきて,やってみないわけにはいかなくなってきます.
本の前で腕組みしながら,「哲学者」のように考えるのと違って,思考と行動が結びついて実践が誘発されます.よい料理が造りたくなるようなものです.ものとの付き合いで,一番嬉しいことは,ものは(自然はといってもいいが)人間を差別しないということです. 人間は人間を差別します. 人間はものを差別します. しかし,ものは人間を差別しません. 誰が,何時,何処でやっても, 手順を誤らなければ, ものは同じ顔を表します. 自然は同じ結果を生来します.
5/13のTV<みんなで日本GO>(NHK)はオノマトペ特集でした.“自分の国へ持ち帰りたい日本語は?”
という司会者の問に, 韓国の女性が云った言葉は<チンする>でした.
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