作用反作用 Part3 その1 E158 No412 2012年10月18日(木)
作用反作用 その1 <作用反作用>と<2力のつりあい>に関して
科教協千葉支部機関誌 コロイドNo19(02/09/17)の写し
作用反作用をめぐっては、主として、2つの点に問題があるように思われます。その第一は、作用と反作用と2力のつりあいの混同の問題、第二は、作用と反作用を説明しよとする問題で、これらの点について3回に亘って述べてみます。
私たちが声を大にして主張してきた成果でしょうか、高校物理の教科書が少し変わってきたようです。<作用反作用の2力>と<つりあいの2力>の相違に関しては、どの教科書でもページをさいています。例えば
“つりあっている2力と作用反作用の関係にある2力は異なる。つりあっている2力は同一物体にはたらく2力で、合力=0
の関係にある。作用反作用の関係にある2力は異なる物体にはたらく力である。したがって、合力を計算することは意味がない。”≪高等学校物理T≫三省堂
他の教科書も大同小異で、“作用反作用は異なる物体に、つりあいの2力は同じ物体にはたらいている”ということを強調しています。「臨床的には」そうでしょうが、本質的には全く別の事柄です。
高校の教科書がこのように “間違ってはいけませんよ”と注意しているにも拘わらず…、市場の啓蒙書は現在でも次のような状況です。
≪物理を楽しもう≫(岩波書店 01年10月23日初版)という本が図書館で目に止まり借りてきました。昨年のことです。“…、この力を垂直抗力といい、通常Nという記号で表します。重力をWとすれば、角柱を真横から見た場合、WとNは図2.1(b)のような関係になっています。<あるいは、重力は角柱に及ぼす作用、垂直抗力はその反作用ということで、図2.1(b)は運動の第三法則を表すとも考えられます>”
< >印は石井
具合が悪いと思われる点について、1002年1月8日に著者と発行所に詳しく手紙を書きました。岩波からは10日(投函した翌々日です!)に、著者からは11日に(!)に返信がありました。
著者の手紙には“…私の記述に誤解を招くようは表現がありましたので、ご指摘の部分を書き換えるようにいたします。…”とありました。
この本は、1002年4月に重版があった模様で(そのことは連絡がありませんでした)<>の部分が次のように書き改められていました。
<もう少し詳しくいいますと、重力は鉛直下向き、垂直抗力は鉛直上向きで重力の大きさWと垂直抗力の大きさNとは等しくなっています。>
ちなみに、初版の記述のGとNはつりあいの2力であって、作用反作用ではありません。重版の文面では“2力が等しくなっている”というだけでなく、この2力がつりあいの状態にあることを、はっきり述べて欲しかったと思ったものです。
訂正された部分のコピーを送って貰ったとき、岩波の担当者に、この部分について、別の人からの投書やメールがあったかどうかを尋ねたところ“そのようなことは一切なかった”とのことでした。世間一般における、この点についての理解の程度がわかろうというものです。
この辺の記述については、物理の参考書、啓蒙書、TVの講座、ワークブックなどで軒並み誤りが発見できます。というより、納得のいく書き方をしたものを見たためしがありません。朝生邦夫さん自作の資料<謝った反作用観を批判してみましょう!>には、多くの例が「採集」されています。
啓蒙書の≪「力」の発見≫(ブルーバックス 都築卓司著 講談社)、≪法則と定数の事典≫(岩波ジュニアー新書 鈴木皇著)の著者たちとも、この件に関して数度に亘り手紙を交換しましたが、どうしても理解を得られませんでした。最後には“見解の相違です”であったり、“つりあっているという言葉を、同じという意味に使っております”であったりして、恐れ入って話をチョンにしたものです。
このような伝統は、多分、明治以来のことなのでしょう。
次の≪物理の世界≫(講談社現代新書 湯川秀樹、片山泰久、山田英二共著)は昭和48年4月の第24刷のものです。
「だいたいね、われわれが物の重さと呼んでいるのは、実は地球が引っぱっている力のことなのだ。それをはかるには…。」
「天びんを使えばいい。」
「そう。ニュートンの第三法則だね。つまり、作用と反作用とはつりあうことを利用するわけなのだ。たとえば、つぎの図のように、ABの板の上に置かれた物体Mを考える。Mには重力がはたらくが、それと同時に、反対向きに板から物体Mに、等しい大きさの力、つまり抗力が生じる。おの抗力が重さを示すのだ。…」
“作用と反作用とはつりあう”は言わずもがな、図に<もの>が登場していないことも、話が混乱する原因の一つになっています。著者のネームヴァリューによる悪影響の大きさが懸念されます。
千葉高の授業で、この話をしたときに、生徒から“たかが、地方の一教師が”という批判(正確な表現は忘れましたが)を受けたことがあります。その時の私の返歌は“それでも地球は動いている”でした。
ちなみに、この著者にも手紙を出しましたが、<梨の礫(ツブテ)>でした。その生徒は後日、理解してくれたようです。
かっては、小学6年の<物の重さと力>の部分で力を教えていました。そのことは評価されるものの、その教科書(啓林館 永田義夫編 昭和44年検定)はこうなています。
(つるまきばねの)指針が50g、100g…をさすように、指で引っ張る力は、それぞれ50g、100g…のおもりと同じはたらきをしている。
それで、力の大きさは物の重さで表し、50gの重さ、100gの重さ、などということができる。また逆に、物の重さは、物を下向きに引っぱる力@であるといえる。
ばねばかりのかぎを引っぱると、指はばねによって引きもどされるように感じる。その感じは、ばねののびが大きいほど強い。ばねがのびると、ばねにはもとにもどろうとする力Aが生じ、その力は、のびが大きいほど強い。ばねがのびたまま止まっているとき、ばねを下向きに引く力Bと、ばねが上向きにちぢまろうとする力Cとが等しくなっている。1つの物Dに、大きさが等しく、向きが反対の2つの力がはたらいていて、その物が止まっているとき、力がつりあっているという。
さて、ここで問題です。
問1 @、A、B、Cの力は何にはたらいていると思いますか。
問2 Dの一つの物とは何を指していますか。
問3 図の2つの(力の)矢印は、それぞれ何にはたらいている力なのでしょうか。
答えは最後のページにありまが、その前にみんなで話し合ってください。
学習指導要領が変わるときには、伝達講習会なるものがあって、指導主事から<その精神>についての講座を受けることになっています。
理科の伝達講習会を受けたとき、私は、この教科書の例などを引用して、作用反作用とつりあいの混同が著しいことを述べ、“法的拘束力を持つ学習指導要領に準拠した教科書が、揃ってこのようなことになっているのはどうしたものか”と質問をしたのです。
上に示した教科書のコピーは啓林館のものですが、教育出版、信教[信濃教育会編]、東書、学図、大日本など目についた教科書はみんな同じパタンで、同じような図を載せています。学習指導要領の拘束力が如何に強いかがわかります。そして、更に、このような講習会でその徹底を図るのです。
指導主事の解説は次ぎのようなものでした。“ばね秤とおもりの間に小さいリングをつけてこれを両側から引くとする。リングを徐々に小さくしていって、最後に点になった状態がこれだと考える。”
中央にリングがあればつりあい、なければ作用反作用という区別などは、めくじらをたてるほどのことではない、ということになったら大変(コト)です。
作用反作用は力のはたらきに関する大原理で、力がはたらいているところでは例外なく成立していますが、つりあいはたまたま一つの物体にはたらいている力の和が0になるという特殊な状態をいっているだけのことなのです。
そもそも、物体(リング)が消失するとなれば、力学もなにもなくなってしまいます。今、興味や関心を持っている一つの物体に着目し、その運動(変形も含め)を解説しようとして力を考えるのですから、物体がなくなれば何も始まりません。それ以後、私はこの考えを<リングの思想>と呼ぶことにしています。
上記のめくじら論をついでに補強すれば、“(力のつり合いと作用反作用は)単なる気持ちの違い”と切り捨てた本があるという紹介を≪物理教育通信No102≫で読んだことがあります。
教育界にも、力の学習は難しいということで<避けて通っている>雰囲気が感じられます。
小学校の力学教材の一部を上に挙げましたが、中学校でも昭和53年ころまでは作用反作用を教えていました。ところが、昭和55年になると、作用反作用というテーマは中学から撤退します。僅かに、一部の教科書に“力は一対になって働く”という形で残る程度になりました。そして、ついに、現在の高校物理の教科書の中には、作用反作用の記述のないものさえ現れたのでした。
案ずるに、上記のように、学者をはじめとする教える側の混乱が、作用反作用は難しいという錯覚を生み、これによる「教育的配慮」が、歯止めの効かない後退を生んだのではないかと思われます。理科の教員の中でも、ここの理解は極めてお粗末です。正しく教えを受けたことがないのですから当然ですが、これに加えて、<目を瞑っている>あるいは<避けて通っている>様子が伺えなくもありません。学習指導要領にもないことだし…。
問の、答えにならない解説
文章から読み取れる答えa, 教科書が言いたいと(こちらが)憶測する答えb, 及び正解c
問1 a b c
(1) 物 おもり 重力、地球がおもりを引く力。
(2) ばね おもり そんな力はない。敢えて(科教協的に)言えば、ばねがもとに戻ろうとしておもりを引く力。
(3) ばね おもり おもりがばねを引く力。教科書ではものの重さだと思っているのでダブルエラーをしている。
(4) ばね ばね そんな力はない。(2)ではもとにもどろうとする力で,(4)では縮まろうとする力、両方同じ。
問2 物、つまり、おもり
問3 右側の矢印について。
物理(理科)では、力の矢印はものを描いて、そこから書くことになている。この図では、上向きの矢印はおもりに、下向きの矢印はばねにはたらいているらしいので、もし、そうだとすると、両者は作用反作用の関係にある。
しかし、教科書では、下向きの矢印は(重さで)おもりに、上向きの力もおもりにはたらいていて(ばねがちぢまろうとしておもりを上に引いた)、両者はつりあっているといいたいらしい。
この図のように、もののないところから矢印を書くことには意味がない。その力が何にはたらいているのかがわからない。従って、ペアの力が作用反作用の関係か、つりあいの関係か、の区別もつかない。 (次号に続く)