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掲示板 | 石井信也 |
モル その2 C-7 No197 クレオパトラ原子 2010年4月8日(木)
“肉体は滅びても, 魂は滅びない” という言葉あります.
だが, 本当は,「魂」なるものはどうなるかわからないにしても,
肉体をつくっていた原子は, その人が死んでもなくなってしまうことはなく, 地球上に存在し続けています.例えば, かって, クレオパトラを作っていた原子が,
今,あなたのからだの一部分を作っているかも知れません.では,それを計算してたしかめてみましう.
まず,始めに地球上の炭素原子の数をカウントしてみます.
地球を構成している元素の割合をクラーク数といい(今ではそのように呼ばないようだが)そのベスト12はおよそ次の通りです.
(%)
O:49.68 Si:27.60 Al:8.05 Fe:5.03 Ca:3.63 Na:2.72
K:2.56 Mg:2.07 Ti:0.70
P:0.15 C:0.15 H:0.11
このデータは,地殻の深さ15[km]までの資料をもとに得られたものなので, d=15[km] とし,その密度を ρ=2.5[g/cc]
地球の半径を r=6400[km]
とすると,この部分の質量は
4πr^2dρ=4×3.14×(6400×10^3×10^2)^2×15×10^3×10^2×2.5=1.9×10^25[g],炭素はそのうちの0.15%として, 1.9×10^25×0.0015=2.9×10^22[g]
次に,クレオパトラの身体を構成したことがある炭素原子の数を計算してみます. ヒトの構成元素のベスト12はおよそ次の通りです.
O:62.43 C:21.15 H:9.86 N:3.10 Ca:1.90 P:0.95
K:0.23 S:0.16 Cl:0.08
Na:0.08 Mg:0.027 I:0.014,
岩波の KAGAKU no ZITEN によると,ヒトの肝臓のタンパク質分子は,10日から20日間で,その半分が外からとった物質をもとにして新しくつくられたタンパク質分子におきかえられてしまう,とあります. 他の部分も含めて,1月で身体の半分が置き換えられたと仮定してみます. クレオパトラは BC69年 に生まれ, BC30年 に死んでいるので,
彼女の体重を50[kg]としてみると(モデルはエリザベス・テイラーのクレオパトラ, 少し太めか?),彼女の身体を構成したことのある炭素原子は 50×10^3×0.5×(69―30)×12×0.21=2.5×10^6[g]
原子数でいえば 2.5×10^6÷12×6×10^23=1.3×10^28 個
(重複したものは?なんていう面倒なことはいわない)
また, m[kg]の人に含まれる炭素原子の質量は
m×10^3×0.21=2.1m×10^2
[g]
さて,クレオパトラ炭素原子が,地球全体に均等に分散し,その一部としての人間の中にも入り込んでいるとすると,50[kg]の人に入り込んでいるクレオパトラ炭素原子の数は
1.3×10^29÷(2.9×10^22)×(2.1×50×10^2)=4.7×10^10個. なんと470億個にもなります.
これじゃあ,まるっきりクレオパトラの生まれかわりじゃないですか! そうです. あなたも, 私も,
そして,地球上の全部の人が.
そして,このことは,炭素原子にかぎりません. 身体を構成している他の原子についても,ほぼ同じように考えられます.
また,クレオパトラにかぎりません.
ジャンヌダルクでも,紫式部でも,田舎のオバーチャンでも(お元気であってもいいのですよ)同じように考えられます.
アインシュタインにしても,ヒットラーにしても,聖徳太子にしても,写楽にしても同じことです.
これは,原子がとほうもなく凝縮している地球の上でのことです. 宇宙空間では, 原子の密度は極めて希薄で, 普通, 1[cc]に核子1個ぐらいのものです. 核子と水素原子の質量はほぼ等しく, 1個について 1÷(6×10^23)[g]=1/6×10^(-23)[g] です. 体重50[kg]の人が何個の核子からできているかといえば, 50×10^3×6×10^23=3×10^28 個の水素相当,ということになります. 水素ではなく原子一般で考えると,およそこれの十数倍から,数十倍(これをn倍として)ということになりそうです.
地球の体積は(4/3)×3.14×(6400×10^5)^3=1.1×10^27[cc] ですから, 3×10^28÷(1.1×10^27)≒30 地球30n個分の体積の宇宙空間から原子を掻き集めてくると, やっと, やっと, 50[kg]の人を1人作る材料が揃うことになるのです. 身体を粗末にしたくないものです.