作用反作用 その8 M-47 No192 2010年3月4日(木)
0 どのものについて論じようというのか。
1 “二人の女生徒が互いの手を握り合って<ひっぱりっこ>をしていますが, 勢力が伯仲していて, どちらにも倒れません. 力はつり合っています” 力の学習の誤った一例です。
2 物理学でいうと, 二人のひっぱり合いは作用反作用であって, つり合いではありません。 これは, 千葉の中学生たちが使用していたワークブックの例だったので, 学習指導要領の伝達講習会で質問をしました。 “この2力は作用反作用であって,つり合いではないのではないか”と.この会は連続2日に亙って持たれましたが, 翌日, 指導主事の先生はこう解説されたものです。
“二人の生徒は, 小さい輪をひっぱっていたとしましょう。 この輪については力はつり合っています。
輪を徐々に小さくしていった極限で, 輪がなくなった,と考えればよいのではないでしょうか” 私はこれを<リングの思想>と呼ぶことにしています。 現在の物理の教科書にも,<輪を引いている二人>の絵(上記のことと無関係でしょうが)があったりして,嗤いを押さえることができません。
3 金属の輪が3個つながっていて,両側の輪を左右に引きます. 左右の輪のそれぞれが, 中央の輪と引き合う力は作用反作用ですが, 中央の輪について考えると, 力はつり合っています。 同じ3個の輪でありながら, どうして, このようなことになるのでしょうか。
作用反作用とつり合いは, そのような操作的な違いではないのです。 問題にしているのが中央の輪だとします。 この輪が動きだすかどうか, あるいは, 壊れるかどうか,をこれから論じようというのです。 それには, この輪にどんな力がはたらいているかを考えなくてはなりません。
この輪に力を与えているのは左右の輪です. 問題の輪は,右の輪から右に引かれ,左の輪から左に引かれています。それからどうなる….ここまできたら,両側の輪は,もう,考慮の外なのです。 役目は終わったのです。 問題の輪が小さくなっていって, なくなったとしたら,その時点で<問題はなくなってしまった>のです。
論じる対象がなくなってしまったのですから。
4 上の女生徒の例では, 例えば, 左の生徒が「引き勝って」,二人が左の向きに倒れ込みつつある状態にあっても,二人が引き合っている力は作用反作用ですから等しいのです。
対象が2個ある時には,つり合いは論じません.一つずつで扱います。
5 それでは、左の生徒についてつり合いを論じてみましょう。この生徒にはたらく力は,生徒の重力(この生徒が地球から引かれる力),右の生徒に引かれる力,地面からの抗力,この3力がつり合っていて…,ということになります。
蛇足
1 ばね秤に5kgのおもりが吊ってあって, ばね秤の指標は5kgを指しています。 おもりがばね秤を引いている力は5kgで, ばね秤がおもりを引いている力も5kgです。 両方の力は同じ5kgで「つり合って」います。 ばね秤はこのように使われるのです。 常識で考えている限り,この数値に関しては何の問題もありません。 しかし…
2 物理でいう力はものにはたらいて, そのものの運動状態を変えるのです。
一つのものに二つ(以上)の力がはたらいて, 相殺されている場合には, 運動の変化は起きませんが, ものが変形します。
3 上の例では, ばね秤が上に引いている力はおもりにはたらいていて, おもりが下に引いている力はばね秤にはたらいています。 この力は作用反作用の2力です。
一つのものにはたらいていないので, つり合いを云々する状態にはないのです。
4 二つの力が同じであっても, 等しいことをつり合っている, と表現してはいけません。 <つり合い>は学術用語(テクニカルタームス)なのですから, 限定して使われます。
5 上述したように, 力を云々するときには, どの物体について論じようとしているのかを, 始めに確認しなくてはいけません。
6 ちなみに,上の例では(ばね秤の重さを省略す)おもりに関しては,おもりの重力と,ばね秤がおもりを引く力,がつり合っています。ばね秤に関しては,ばね秤をおもりが引く力と,ばね秤を天井が引く力,がつり合っています。
7 少々危険な言い方をすれば,おもりの重さと、ばね秤がおもりを引く力の大きさには関係がありません。実際、エレベーターの中にこの装置を持ち込んでみれば,このことがわかるでしょう。
8 写真ではばね秤の代わりにばねを描いてあります。
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