98.長命なのも短命なのもあって―――半減期
[授業のねらい]
放射性原子は壊変して他の原子に変わっていきますが,核種によって壊れにくいもの,壊れやすいものの程度に「天地の開き」があります。同じ核種であっても,きょう壊れるものと,1万年後に壊れるものがあります。壊れ方の様子を探ってみます。
[授業の展開]
放射性元素が崩壊する速さはその核種に特有で,存在する放射性元素の量に比例します。
N個の原子のうち,dt 時間に dN
個が崩壊するとすると,
dN/dt=−kN
(kは崩壊定数)…(1)
と表すことができます。この式を解くと,dN/N=−kdt ∫1/N・dN=∫−kdt
logN=−kdt+C (Cは積分定数)
N=e^(−kt+C)=e^(−kt)・e^C
最初の量を N0
とすると,t=0 のとき N=N0 N0=e^C
N=N0 e
^(−kt)…(2)
時間が T 秒たったとき N=1/2・N0
になったとすると
(2)から 1/2・N0=N0 e^(−kT)
(N0≠0) 1/2=e^(−kT)
N=N0
e^(−kt)=N0 (e^(−kt))^t/T=N0(1/2)^t/T …(3)
これをグラフにすると図のようになります。このように放射性元素の量が半分になるまでの時間 T を半減期または寿命といいます。
(図p206)
半減期はその核種に特有です。いくつかの例をあげておきます。
7Be:53.4日 204Pb:1.4×10^17年
8Be:3×10^(−16)秒以内 205Pb:2.4×10^17年
9Be:∞(つまり安定) 130Te:1.4×10^21年
10Be
:2.7×10^6年 209Bi :2×10^18年以上
11Be :13.6 秒 212Po:3×10^(−7)秒
40K
:1.27×10^9年 213Po:4.2×10^(−6)秒
48Ca:0.7×10^19年以上 214Po:16×10(−4)秒
同じベリリウムでも,質量数が 8のものと 9のものと 10のものとでは,寿命にいちじるしい相違があって驚かされます。原子核の世界と日常の世界とでは,時間の尺度が違うように思われます。
原子炉内のおもな放射能の寿命については,
60 Co:5.3年 85Kr :10.7年 90Sr:28.8年 95Zr:64日
106Ru:1.0年 131I:8.0日 137Cs:30.1年 144Ce:284 日
238Pu:88年 239Pu:24100年
≪問1≫ 原子炉の中で多量にできるプルトニウム239の半減期は24100年です。人類がこれと「つきあう」期間がどれほど長いかを想像してみましょう。
古い木造の建築物などがいつごろ建てられたかを調べるのに,ラジオ・アイソトープを利用することができます。空気中の窒素 14N は中性子と反応して放射性炭素
14Cと水素になります。 14 7 N+1
0 n→14 6 C+1 1 H
この 14Cがβ崩壊して14Nにもどっていきます。 14
C→14 N+ 0 −1 e
空気中では 12Cと 14Cとの割合がつねに一定なので,自然界の樹木は,空気中の 12Cと 14Cを空気中のそれとまったく同じ割合で吸収しています。この樹を切り倒して建物を建てると,12Cの方はそのままですが,ラジオアイソトープてある 14Cはどんどん崩壊していくので,空気中の 14Cにくらべると少なくなっていきます。この崩壊の程度によって,その樹が切り倒された年代が,したがって,その建築物ができた年代がわかろうというものです。
≪問2≫ ある建築物の木材に含まれる
14Cを調べると,空気中のそれの71%でした。この建築物は何年前に建てられたといえますか。
ただし,14Cの半減期は5700年です。
N=N0(1/2)^x 0.71N0=N0(1/2)^x 0.71=(1/2)^x と置くと,
1og 0.71=x
log(1/2) −0.149=x(−0.301) x=0.5 t/5700=0.5
t=2850 2850年前ということになります。
人体にアイソトープを含む薬品を投与して,そこからでる放射線を測定して,診断のための検査を行う方法があります。この方法をインビボ検査*1といいます。その一つとしてポジトロンCT*2があります。
11C, 13N, 150, 18F などのように,陽電子壊変するアイソトープから放出された陽電子は,近くの電子と結合して消滅し,エネルギーが 0.511MeVのγ線が2個,180度の方向に放射されます*3。
患者に,これらのアイソトープで標識した化合物を投与して,身体の調べたい部分を取り囲んで配列した多数のγ線検出器で,対をなしたγ線を検出すると,陽電子を放出したアイソトープの位置が正確にわかります。これをコンピューター処理して画像とし,ブラウン管に映したり,写真フィルムに記録して,病気の診断に役だてるのです。
*1 in vivo :in the living body in vitro :in a test
tube
*2 CT :computed
tomography コンピューター断層撮影法
*3 逆の反応も起きます。光子が消失して電子と陽電子が生まれる電子対創生です。
≪問3≫ この診断が行われるにはどんな条件が必要でしょうか。
上のアイソトープの半減期は,
11C:20.5分 13N:10.0分 15O:2.06分 18F:111分
半減期がこのように短いものを使用するので,小型のサイクロトロンが病院内になければなりません。
11Cの場合を例にとると,このアイソトープは窒素に陽子をぶつけて「錬金術」的につくります(14 7 N + 1 1 p→ 4 2 α+11 6
C)が,これを使って反応性に富む沃化メチル(11 CH3I)をつくり,使用する薬品にこのメチル基を付加して標識する,という方法をとるそうです。(『やさしい放射線とアイソトープ』日本アイソトープ協会刊,1988年,を参考にしました。また,千葉の放射性医学研究所で教えていただきました)
現在のアトムである素粒子は,「割れない」という語源とは裏腹に,変化するのが特徴になっています。核内の陽子は陽電子とニュートリノを放出して中性子に変わり,中性子は電子とニュートリノを放出して陽子に変わります。電子や陽電子は核内には存在できないので原子核から放出されます。これがβ崩壊です。中性子は自由な状態でも15〜30分の半滅期で陽子に変わりますが,自由な陽子は安定です。ところが,大統一理論によると,陽子も10^30〜10^32年の半減期でレプトンに崩壊するというのです。宇宙の年齢を10^10年として比較してみても,途方もない寿命です。しかし,数でこなすという手があります。物質1gには6×10^23個の核子があるので,
水3000tのなかには 3×10^3×10^3×10^3×6×10^23=1.8×10^33(個)の核子かあって,1年に100個くらいの崩壊が期待されます。確率的な崩壊とはこういうことです。
崩壊のさいに放出されるチェレンコフ光を直径50cmの光電子倍増管(photo-multiplier 通称フォトマル)1000個で捕らえて,その理論を実証しようというのです。図はミューオン(μ粒子)によるもので,フォトマルの展開図の上に光の強さに応じた数値が表示されています。
(図p209)
岐阜県神岡鉱業所茂住坑の中に設置された東京大学宇宙線研究所では,陽子崩壊研究のプロジェクトチームが研究を統けています。ここの施設をクラブの生徒と2回見学しましたが,1986年の夏休みに行ったときには,それまでの3年間に,陽子の崩壊と思われるものが3例あったということでした。ここを訪れたノーベル賞受賞者クロ−ニンの壁のサインが目をひきました。
Let’s
hope the proton decays in 1986.Jimmy Cronim 18 Api1
1986
なお,1987年2月24日,大マゼラン雲で,超新星「SN 1987 A」が発見され,そのとき生まれたニュートリノの中の11個が,このプールでキャッチされたことを付記しておきます。
そのニュートリノは17万年も宇宙を旅したのち,南半球から地球を貫通して神岡のプール(カミオカンデ)に「下から」入り込んだものです。α,βγ線の透過力と比較してください。
[まとめ]
1 放射性核種の崩壊の速さは半減期で表します。
2 原子核や素粒子の崩壊は確率的です。
3 陽子も崩壊すると考えられています。