93.電気にもアトムがあるか―――電子の発見
[授業のねらい]
“物質には最小の単位がある”というのが原子論です。
物質は原子からできていますが,その原子から,更に質量の小さい荷電粒子の電子が生まれでてきます。 原子論は破産したのでしょうか。 電子は新しい原子なのでしょうか。
[授業の展開]
≪問1≫ ファラデーの電気分解の法則をいいなさい。 物理でこれを学習するころまでには,ファラデーの電気分解の法則は,化学で学習ずみです。“溶液の電気分解で1g当量の物質を析出するのに要する電気量は,その物質の種類に関係なく一定である”これは,ファラデーの発見によるものです(1833年)。この法則は,つぎのように書くと内容が見えてきます。
1g原子を析出させるのに,1価のイオンなら96500C, 2価のイオンなら96500×2C,3価のイオンなら96500×3Cの電気量が必要です。
もうすでに,内容がわかっている生徒には驚きも感動も(気の毒ですが)ありませんが,この事実は電気量の不連続性を示したもので,電気にも「原子(最小粒子)」があることが期待できることを意味しています。
(注)1F(ファラデー)=96500Cと,容量の1F(ファラド)とを混同している生徒がいます。
≪実験1≫ ガイスラー管(クロス真空計)の放電を観察しましょう。
生徒の観察,授業ノートから。 ( )の中は教師のメモ。
「40mmHg すこしよたっている 赤紫色(<よたっている>という表現で放電の様子がよくわかります)
10mmHg 太く明るくなる 明るい赤紫
3mmHg 波長っぽくなる 明るさ増す (<波長っぽく>は周期性が現れたという意味)
(暗い中から<定常波>という声が聞こえました) 0.14mmHg もっと波長っぽくなる 緑がかって明るさ最大
0.03mmHg 管全体が光る 暗い緑色」
(ガイスラー管の細部についての絵が描かれてありますが,省略します)
≪実験2≫ クルックス管の放電を観察しなさい。
生徒の観察 同上の授業ノートから「磁石をもっていくと,フレミング則で曲がるということから,陰極線は負の電荷をもっていることがわかる。 羽根車の回転から,陰極線は−から+へいくのがわかる。蝶も同じ。(花に止まっている模型の蝶が回転する放電管も見せた)
陰極線は運動量をもっている。途中に障害物を置くとガラスに陰ができる。陰極線は直進性がある」 (図p183)
電場で曲げる実験は見せられませんでした。陰極線は陰極面から垂直に跳びだすことをつけ加えておきます。このような実験は1860年前後から始まって,1897年にはトムソンの e/m(比電荷)の測定実験になります。
e/mの測定(の方法) 質量m,電荷−eの電子を初速度v0,でx軸に平行で,その方向の長さ
l (エル) の平行平板コンデンサーでつくった電場Eに突入させます。電子の電荷は負なので,電場からy方向で,上向きの力を受け放物運動をします。電子は電場をでた後は,その時点の速度で慣性運動してスクリーン上の y =y1 +y2 でぶつかります。Lはコンデンサーの中心からスクリーンまでの距離です。(Lをこのようにとると,以下のように式が簡単になります)
電子が電場から受ける力Fは F=Ee
… (1)
その加速度αは α=F/m=Ee /m
… (2)
電子が電場にある時間を t とすると t=l /v0 …
(3)
(2)(3)から y1=1/2・at^2=1/2・Ee/m(l/v0)^2 … (4)
電子が電場をでてからスクリーンに到達するまでの時間を t’ とすると
t’=(L−l/2)/v0
… (5)
また,電子が電場を出たときの速度の鉛直成分を v1とすると
v1=at=Ee/m・l/v0 …(6)
(5)(6)から y2=v1・t’=Eel/mv0^2×(L−l/2) …(7)
(4)(7)から y=y1+y2=1/2・Ee/m(l/v0)^2+Eel/2mv0^2(2L−l)
=(Eel^2+2EeLl−Eel^2)÷2mv^2=EeLl/mv0^2 … (8)
平行平板コンデンサーの幅をd,充電電圧をVとすると E=V/d
y,E,L,l は測定可能なので,v0がわかればe/mがわかろうというものです。図からわかるように y/L=y1/(l/2)=y2/(L−l/2) となっています。
つぎに,紙面の手前から奥に向かって磁束場Bを掛けて,スクリーンの電子のスポットをもとの位置へ引き降ろします。電子にはたらく電磁力をF’とすると
F’=ev0B … (9)
(1)(9)から
Ee=ev0B v0=E/B…
(10)
(8)と(10)から
e/m=yE/lLB^2
この実験でトムソンは
e/m=0.77×10^11(C/kg)を得ました。
≪実験3≫ 比電荷測定器e/mを測定しなさい。 (図p185-1)
電子の比電荷測定器が理振法の備品にあります。ヘルムホルツ・コイルでつくられた一様な磁束場で,水素を封入した管球の中に電子ビームを走らせ,電磁力による円運動の半径を測定してe/mを算出するものです。
管球の保持が可動になっていて,電子ビームの放出を磁束場に斜めにすると,らせん状の運動が見られるようになっています。
授業ノートの記録を転載しておきます。
「二極管の KP間にはVVの電圧がかかっていて,K(カソード)から跳びだした電子がP(プレート)から外にでるようになっている。電子の質量m,電子の電気量e,電子がプレートから跳びでるときの速度をvとすると
1/2・mv^2=eV から e/m=v^2 /
2V … (1)
これに,紙面に垂直で表から裏向きの磁束場BT(T:テスラ)がかかるとする。電子の流れは電流と逆向きであるから,フレミングの左手の法則を当てはめると,電子は右のような(図略)力を受ける。この電子の進路に,いつも一様な磁束場がかかっていれば,いつも進路方向左向きに力を受ける。すなわち,等速円運動をすることになる。円運動の半径をrとすると,
向心力fは, f=mv^2/r=evB e/m=v/Br
2乗して e^2/m^2=v^2/B^2・r^2…(2)
(1)/(2)から
e/m=2V/B^2・r^2 …(3)
実験値 V=200(V) I=1.3(A) B=7.8×10^(−4)×I(T)
r=0.045(m)
e/m=2V/B^2・r^2=1.9×10^11(C/kg)
物理定数表によれば e/m=1.758819×10^11(C/kg) となっています。まずまずの値といえましょう。
e/mの値がわかったので,eとmの一方がわかれば,他方もわかるというものです。
eの測定に関するミリカンの油滴の実験があります。 (図p185-2)
霧吹きで小さい霧の粒をつくり,平行平板コンデンサーにあけた穴から落とすと,すぐに終速度に達します。霧の質量をm,重力加速度をg,終速度を v’ とすると
mg=kv’…(1)
ただし,kは比例定数です。
横からX線を当てて,霧粒から電子をはじきとばしてプラスに帯電させます。霧粒は平板平板コンデンサーよる下向きの電場Eから力を受け,霧の電気量をqとすると, Eq>mg のときには上向きに等速運動をします。その終速度をvとすると
Eq−mg=kv …(2)
(1)(2)から
q=k/E(v+v’)…(3)
電荷qが,q1からq2に変化した場合に,速度vがv1からv2に変化したとすると,
△q=q1−q2=k/E(v1−v2)となります。
ミリカンは速度を測定する代わりに落下する時間t’と上昇する時間tを測定しました。
△qに対しては 1/t1−1/t2 の値がつねに一定の数の整数倍になるとすれば,電気に素量があることが確かめられることになります。
なお,電気に素量が存在するなら, 1/t’+1/t の値もつねに一定の数の整数倍でなくてはなりません。表はミリカンが第8号と名づけた小滴についての実験の結果を示したものです。
( )内は石井の計算です。 (表p187)
ミリカンが初めに得た値は1.59×10^(−19)Cでした。これは空気の粘性率の値が正しくなかったためで,現在では e=1.60217733×10(−19)Cと測られています。これが電気の最小単位で電気素量といいます。
≪問2≫ モル分子数(アボガドロ数)は,ロシュミットによって初めて求められました(1865年)。 1 mo1 を6×10^23としてeの値を計算しなさい。
ミリカンの実験でeの値が精密に測定できると,それから逆にモル分子数の値が正確にわかるのです。
≪問3≫ e/mとeの値から電子の質量mを計算しなさい。 また,水素の原子量とモル分子数アボガドロ数から水素原子1個の質量を計算して,電子の質量と比較しなさい。
以前,テレビの教育番組でこの実験をみたことがありました。ただし,その実験ではコンデンサーに交流電圧をかけて,振動電場をつくっていました。たくさんの油滴(らしいもの)が一定の振幅で単振動(往復運動)をしています。突然,そのなかの一つの振幅が2倍近くの大きさになり,やがてまたもとに戻ります。また別の油滴の振幅が大きくなります。そして,まったくたまに3倍の大きさの運動も現れます。油滴に電子がついたり,離れたりしているのが,目の当り見える感じがして感動したものです。(図p187)
[まとめ]
1
陰極線から電子の性質がわかってきました。
2
電気にも素量があります。
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