92.横波の半分をとりだしたら―――偏光
[授業のねらい]
横波は,その伝播方向と媒質が振動する方向が,直角であるような波です。 横波の直角二成分の一方が欠けることを<偏る>といい,偏った光を偏光といいます。 偏光はどのようなときに現れ,どんな性質があるか調べてみましょう。
[授業の展開]
電磁波と同様,光も横波で,自然光はあらゆる方向に振動するいろいろな波長の光がまざりあっています。ある種の透明な結晶は,互いに垂直な二つの平面内に光を透過させる性質があり,しかも二つの面における光の伝播速度がすこし異なります。この面の方向(光が振動する方向)を光軸といいます。また物質によっては,そのうちの一方の光を強く吸収してしまいます。このような物質は人工的にもつくることができ,それを2枚の透明物質(これは偏光性をもたない)に挟んだものを偏光板と呼びます。光の振動面(電磁波は電場Eと磁束場Bが直交して振動していますが,ここでは,電場の振動面を光の振動面とします)が一平面に限られているとき,光は偏光しているといいます。太陽の光,電灯の光,などを自然光と呼ぶことにします。その自然光を偏光板に通すと,偏向板はある方向に振動する(成分の)光だけを通過して,それと直角の方向の光を吸収します。透過した光は偏光になっています。偏光の現象が起きるのは光が横波である証拠です。
≪実験1≫ 偏光板を2枚重ねて,一方の偏光板を回転させながら外の景色を観察しなさい。
自然光が偏光板を通るときには,その半分が通って,半分が遮られてしまいます。だから,自然光で照らされた外の景色を偏光板を通して見ると,その分だけ暗く見えます。 偏光板を通った自然光は,その半分の成分が偏光板で吸収されてしまって偏光になっています。この偏光を第二の偏光板を通して見ます。第二の偏光板の方向が第一の偏光板の方向と同じならば,偏光はそのまま第二の偏光板を通りますが,第二の偏光板の方向が第一の偏光板の方向と直角ならば,偏光は第二の偏光板で吸収されてしまいます。第一の,第二のと、呼ぶのは煩わしいので,前者を偏光子(ポラライザー,polarlzer),後者を検光子(アナライザー,analyser)と名づけます。
≪問1≫ 偏光が検光子に斜めに入射したらどうなるでしょうか。
その成分で考えればよいでしょう。
≪問2≫ 偏光を検光子を通過させて,検光子を通過する光の量が検光子の角度によってどのように変わるか調べてみましょう。
≪実験2≫ 電波実験器から電波を発信し,送信アンテナと受信アンテナの方向を変えて受信の様子を調べなさい。途中に金属の格子を置いて電波が通過するかどうかを調べなさい。格子の代わりに人が立ったらどうなるでしょう。
光が偏光板を通過するかしないかは,ひもの波が格子状のゲートを通過するかしないかのアナロジーで理解できます。ひもの横波が格子を通過する場合はどうでしょうか,比較しなさい。
≪問3≫ 図はひもの波が格子状のゲートに出会ったときの状況と,電磁波(電場の波を表しています)が格子状の金属のゲートに出会ったときの状況を描いたものです。比較しなさい。
(図p177)
光も電磁波です。偏光板はある方向にだけ電子の振動を可能にして,その方向の光振動電場に共振して,光のエネルギーをもらう構造になっていると考えてもよいでしょう。
≪実験3≫ 1枚の偏光板を通して外の景色を眺めてみましょう。偏光板を回転させて景色がどのように変わるか調べなさい。
窓ガラスや,屋根瓦や,空や,水面で反射した光が偏光していることがわかるでしょう。机の面に大きい入射角で反射した蛍光灯の光も偏光しています。この偏光板は検光子としてはたらいています。
自然光が物質に入射したとき,反射光と屈折光の方向が直角になるときは,反射光は完全な偏光になることがわかっています。これをブルースターの法則といいます。そして,この入射角を偏光角といいます。
(図p178)
≪問4≫ 偏光角をθとし,反射物質の屈折率をnとすると,tanθ=n であることをいいなさい。
入射角をi ,屈折角をr とすると,sin i/sin r=n
sin i=n・sin r
偏光角をθとすると sinθ=n・sin r r=π/2−r
sin r=sin(π/2−θ)=cosθ n=sinθ/sin r =sinθ/cosθ=tanθ
≪問5≫ 屈折率が1.50のガラスの偏光角はいくらでしょう。
tanθ=n=1.50 θ=56.3
(図p179)
≪実験4≫ 発泡スチロールカッターで発泡スチロールを図のように56度,34度の三角柱に切って,その側面に黒い紙とスライドグラスを重ねて貼りつけたものを二つつくります。これにレーザー光を当てて反射光の偏光について確かめなさい。
これを偏光角反射板と呼ぶことにします。簡単につくれるので,クラスの人数分つくって遊ばせましょう。
希望者には作らせましょう。そのために,スチロールカッターを用意しておきます。
≪実験5≫ アクリルでつくられた箱を偏光板を通して観察しなさい。
紅色に着色した模様が見えます。歪みの大きなところは,色の変化が大きいことでわかります。
このような現象を光弾性といいます。
このような偏光を着色偏光といいます。
アクリル板を歪ませて観察しましょう。
≪実験6≫ ガラス板にセロテープをはりつけて偏光板で観察しなさい。セロテープを重ねてはってみましょう。
セロファン(花屋で包装に使う透明な物質)をいろいろな形に切ったものをたくさんつくり,2枚のガラス板に重ねて挟んだものを偏光板を通して見ましょう。
また,大きなセロファンをもみくしゃにして,2枚の偏光板に挟んでみましょう。
≪実験7≫ 地学で使った偏光顕微鏡の構造を調べてみましょう。また,鉱物のプレパラート標本を検鏡してみましょう。
着色偏光が起きるメカニズムを説明してみます。
直交した偏光子と検光子のあいだに,上の実験で使ったガラスにはったセロファンを挟みます。偏光子を通過した自然光は偏光になってセロファンに入り込みます。セロファンの二つの光軸が,この偏光の振動面と(両方とも)45°になっていたとします。つまり,偏光はセロファンに入り込むと,同じ強さの二つの成分に分かれて伝播することになります。ところが,その一方の光の速さは,もう一方の速さより少しばかり速いのです。 (図p180)
したがって,速い方の位相がπだけ進む距離に相当するセロファンの厚さがあったとすると,この光は,その位置に置かれた直交した(π/2進んだ)検光子を最大の透過率で通過します。光は物質中では,その波長によって速さが異なるので,ちょうどこの条件を満たした速さの光が,最大透過率で検光子を抜けでるので,その色が見えることになります。セロファンの厚さが異なれば,他の色が見えることになるし,セロファンの厚さが同じでも,検光子の(偏光子に対する)角度を変えれば,また色も変わります。
≪実験8≫ 蔗糖の溶液を偏光板で観察しなさい。
蔗糖のように,分子式は同じでも,その原子の立体配置が鏡像になっている2種の物質から或る場合には,光の偏光面を回転させます。液体は分子運動が激しく,方向性がないように思うかもしれませんが,たとえば針金でソレノイドコイルをつくってみれば,それには<右まわりコイル>と<左まわ りコイル>の2種類があって,位置や向きを変えても,お互いに替わりあうことがないことがわかるでしょう。
右旋性分子と左旋性分子の量的関係で,光が右に偏光するか,左に偏光するかが決まるのです。糖度計(サッカリメーター)はこれを利用してつくられたものです。
≪実験9≫ 偏光した光を強い磁場を通すと,偏光面が回転します。これをファラデー効果といいます。写真はその装置です。切り替えスイッチで電磁石の電流の向きを変えると,偏光面が2倍に変わって光の強さが変化するのがよく観察できます。このことから,光も磁気に感ずることがわかります。(図p181)
磁場の強さが10^4ガウス(1テスラ)のとき,厚さ1cmの二硫化炭素による回転角は約7°です。
[まとめ]
1
結晶の中では,光は直交した二つの面内を伝播します。
2
ある種の結晶では,その伝播速度が異なります。
3
ある種の結晶では,その光の一方が強く吸収されます。
4
一平面内で振動する光を偏光といいます。
5
自然光は偏光板を通すと偏光します。
6
反射光は偏光します。
7
光の偏光面は磁場で回転します。
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