V 光と原子
教科書では,光の学習は波動の部分に位置づけられていますが,本書では,電磁波のあとに入れて,原子とのかかわりにおいて学習することを考えてみました。
光についても,それに慣れる意味をも含めて,従来,幾何光学と呼ばれていた分野の学習を計画したいものですが,本書ではページ数の関係で割愛しました。 鏡やレンズやプリズムなどを使って,光の直進・反射・屈折を光の粒子的な振る舞いとして理解したあとで,その波動的性格をもつ光を登場させ,そして最後に,<どんでんがえしの二重性>といったプログラムを,劇的に組んでみたいものです。 光はまた,原子の内部を探る「探り針」としての役割を果たします。そのことで,光の性質についても,さらに探い理解に達するのです。 原子の配列を回折格子とし使う,水素のスペクトルで原子の構造を探る,光と電子の弾性衝突で光の二重性を確かめる,などなどです。
91.光で縞模様が写ったら―――光の干渉
[授業のねらい
光の直進,反射,屈折,回折などの性質は,波の原理であるホイヘンスの原理で理解できますが,波の周期性の現れである縞模様を実際に観察して,光の波動性を実感したいものです。
[授業の展開]
(1)スリットの回折による干渉
レーザーとスリットを使って教室の後ろの壁に,干渉図形を写してみましょう。
工作 単スリット,複スリットの作り方。
スライドグラスを黒のマジックインクで塗りつぶして,針,テスト棒,剃刀の刃などで罫書(けが)いてつくります。複スリットをつくるときには,先の尖ったピンセットで罫書きます。剃刀の刃を2枚重ねて使ってもよいでしょう。このようにすると刃の厚さでスリットの間隔が測れます。 黒の模造紙に細く切った白い紙テープを2枚平行に貼って,これを遠くからスライド用フィルムに写してもよいでしょう。大量につくるときには,8ミリ映写機で撮して,フィルムを切って使います。
≪実験1≫ 複スリットを使って干渉模様を映してみます。これをヤングの実験といいます。
(図p170)
工作 アルミ缶を切り開いて,5cm角のアルミ板を3枚用意します。鋭利なはさみで,その中央あたりから,幅1mm,長さ4cmを切り取ります。はさみを入れた切り口の端をセロテープで張りつけます。これで単スリットが出来上がりです。単スリットを3枚つくります。
単スリットから複スリットをつくります。スリットに平行に幅1mmを残して,反対側からはさみを入れて,同じようなスリットをつくります。切り口の端をセロテープで止めれば複スリットのでき上がりです。複スリットは2枚つくります。
≪実験2≫ スリットは縦に使います。複スリットに目を当てて単スリットを眺めてみましょう。どのように見えましたか。複スリットに目を当てて,複スリットを観察しましょう.位置を変えて回折模様を楽しみましょう。
工作 スリットの太さ,幅の太さを変えて,いろいろな複スリットをつくりましょう。アルミ板の代わりに,ファックス原紙の裏紙でもつくれます。
≪実験3≫ つぎにレーザー光を使って,回折格子による干渉縞を教室の後ろの壁に写してみます。これが複スリットのつくる干渉縞と同じ模様であることを確かめます。
(図p171)
スリットの間隔(格子定数といいます)をd,光の波長をλ,回折格子から壁までの距離をL,壁に写ったスポット(干渉縞)の間隔をxとします。
図の AP=l1 BP=l2 とすると,
11^2=L^2+(x+d/2)^2 l2^2=L^2+(x−d/2)^2
l1^2−l2^2=[L^2+(x+d/2)^]2−[L^2+(x−d/2)^2]=2dx
(l1+l2)(l1−l2)=2 Lλ=2dx λ=2d/L
λ=l1−l2
l1≒l2≒L
実験の測定値
L=8.7m x=0.11m d=1/20×10^(−3)m
λ=6300×10^(−10)m=6300Å
He−Neレーザーの波長は6328Åなので,申し分ない値でした。
この光の様子を,線香の煙で見ておくことが必要です。光源からでて回折格子を通ったあとの光は,数本の光線になって平面上を末広がりに広がっていくのが見えます。凸レンズを使って集束してみたくなります。
≪実験2≫の解説をしておきます。光源からでた光が単スリットを通ったあとで,複スリットを通って後ろの壁に干渉図形をつくるのが≪実験1≫ですが,復スリットのすぐ後ろに目をおいて,眼底に像を結ばせたのが≪実験2≫です。目に入ってきた光をそのまま(目を無視して)後ろに延長すると≪実験1≫の像があるはずですが,目は光を逆に延長した方向に像を見ています。
図に示した諸量の関係は λ/d=x1 / L1=x2 / L2 λ=dx2 / L2 x2は光源(単スリット)のあたりに置いたスケールから読み取ります。 (図p172)
球面波の場合には,干渉図形は2次元になります。
≪実験4≫ ハンカチを回折格子として使って干渉図形を見せておきます。
作業 回折格子をつくってみましょう。
模造紙にマジックインクで等間隔の平行線をびっしり描きます。これを遠くから写真にとってそのネガを格子として使います。または,スライド用フィルムを使ってもよいでしょう。大量につくるときには8ミリフィルムに撮します。
たくさんの線を引くのがたいへんだと思う人は,画材店でスクリーントーンを買って撮してもよいのですが,割合に高価なのが難点です。
スクリーントーンのカタログをもらって,これを使う手もあります。カタログを使う場合には,1枚のフィルムに,パターンの異なった狭い範囲の回折格子が何枚もできることになります。
(図p173)
このようにして回折格子をつくってみると,いろいろな被写体が回折格子に見えてきます。鉄の門扉,バックネット,……,また囲碁の白石を碁盤に並べて高い所から撮すなど,目的がはっきりしていると,いろいろ発想するものです。
(2)薄膜による干渉
雨が降ってできた道路の水たまりに,ガソリンがこぼれてできた,薄膜による干渉の色模様を見た経験は,多くの生徒がもっています。教室でも再現できます。
≪実験5≫ 箱の中に,大きなシャボン玉を半球状につくって,しばらく放置します。どのようになったでしょう。その理由を考えなさい。 ナトリウムランプのような単色光で観察しなさい。
長時間放置したいので,膜の水分が蒸発しないようにするには,溶液に少量のグリセリンを入れるなどの工夫をするとよいでしょう。箱の底には黒い紙を貼っておけば観察に便利です。溶剤で溶かしたプラスティックを膨らまして,薄膜の風船をつくる遊びがあります。これは壊れにくいので,観察が容易です。
料理に使用するポリマーのラップを破れないように引っ張って,その面に蛍光灯の光を映すと干渉色が見えます。
(3)空気の間隙による干渉2枚のガラス板を強く指で押さえて上から見ると,上のガラスの下面と,下のガラスの上面で反射した光による干渉模様が見えます。白色光では干渉色が見えますが,初めのうちは見えにくいので,単色光で見る練習をして,見慣れてから自然光で見るとよいでしょう。
ニュートンリングは片方のガラスがわずかな曲面をもった場合で,同心円の干渉模様が見えます。曲率半径の大きいレンズを使ってもよいのですが,なかなか適当なものが手に入らないので,円く切ったガラス板を磨いて自作します。教材屋さんに,厚めのガラス板を適当な半径の円に切ってもらいます。研磨剤は,酸化アルミニウムや酸化セリウムがよいようです。天体望遠鏡のレンズ磨きをした経験がある人から教えてもらうとよいでしょう。
普通の凸レンズを使うと,接した点を中心とした小さな黒い点が「一つ」だけちらちら見えます。小さい虫が動きまわっているようです。ルーペでのぞいてみましょう。
≪実験6≫ 凹レンズのへこんているところに凸レンズを密着させ,正面からレーザー光を当てて,その反射光をスクリーンに写します。二つの光のスポットを重ねるとニュートンリングが現れます。蒸発皿に凸レンズ,蒸発皿に凹レンズの組み合わせでもできます。顕微鏡のアイピースによる透過光でも写ります。
その他いろいろやってみましょう。平行の縞模様がでたら,調節をすればリングが現れる可能性があります。
(図p174)
蒸発皿と凹レンズの組み合わせでは,チェックの縞模様が現れました。接近したニュートンリングが二つあって,その縞が交差してチェック模様かでていたのでした。
(4)反射光による干渉
金属の表面を罫書いてスケールをつけた物差しがあります。これに,レーザー光を,大きい入射角で当てて反射させた光は干渉します。
レコードやCDの表面の反射による干渉色を見たことがあるでしょう。金属表面を同心円に罫書いて(エッチング?),干渉色の模様を浮き上がらせたバッジなどもあります。白色光では,波長によって干渉が強く現れる場所が異なるので,色の配列が見えることになります。
レーザーを使って実験をしていると,思わぬところに干渉図形が映ってい
たりして驚くことがあります。
≪問1≫ ニュートンリングの中心は,反射光では暗い円に,透過光では明るい円になります。その理由をいいなさい。
≪問2≫ ニュートンリングは1665年にフックが観測しましたが,その後ニュートンによって精密に輪の半径が測定されました。フックは波動論者ですが,ニュートンは原子論者です。ニュートンはこのリングの周期性を見て,どう思ったのでしょうかネ。
波の学習をしたとき,波が疎な媒質から密な媒質に入射して反射するときには,位相はπずれることを学ひました。光の場合も同様です。干渉縞で光の波長を計算するときには,このことを忘れてはいけません。ただし,光の場合には,物質の密度の大小と光学的な粗密の大小は,必ずしも一致していません。たとえば,光学的に密な順序は, 真空<空気<水<油<ガラスとなります。
注意していると,光の干渉色を見る機会があります。その場合,屈折によっておきる分散の色と混同しないことが肝要です。ガラスの破片が色づいている場合や虹の色などは,屈折によるものです。蝶のはねの色は干渉色だといわれます。注意して見てみましょう。
[まとめ]
1 いろいろな方法で光の干渉縞を写して,光の波動性を実感します。
2 回折格子をつくってみましょう。
3 干渉縞で光の波長を測定できます。
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