90.電気量はどのように決められたか―――電磁気の単位
[授業のねらい]
電磁気の単位は複雑です。磁場をつくる実体が磁荷から電流に書き換えられたことや,光速 c を使って全体が整備されたであろうことが,この事情をいっそう複雑にしていると思われます。
[授業の展開
電場と磁束場の発生関係から光速が出てきたプロセスを,もういちど振り返ってみましょう。 電荷(電気量) Q に力を及ぼす空間を電場 E といいます。力の大きさは,とうぜん電荷 Q に比例する(重ね合わせの原理)から F=QE …(1)E の単位は N/C 電流 I に力を与える空間を磁束場 B といいます。力の大きさは電流Iに比例し(重ね合わせの原理),磁束場の中にある導線の長さ l (Bに垂直な長さ)に比例する(重ね合わせの原理)ので F=I l B …(2) B の単位は N/Am 導線 l m の中の電荷を
QC,1mの中の電荷をρC(これは線電荷密度)とします。また,vm(v m/sは電流Iの速さ)の中の電荷は IC (IAではない),だから l/Q=1/ρ=v/I …(3) ∴ I l =Q v したがって, F=Q v B …(4) これは v で走っている電荷 Q に力を及ぼす揚が Bであるという意味です。B は Q が止まっているときにはなにもしないのですが,走りだすとかみつく(力を及ぼす)のです。
電流は1秒間に移動する電荷だから,1A の電流が ts 流れると,その間に移動した電荷 QC は Q=It …(5) このことと,(1)と(4)を比較すると, E=B v…(6) に思いあたります。つまり,磁束場が移動すると電場に「変身」するのです。
QC の点電荷から Q 本の電束線がでていることにします。空間は等方的なので,電束線は周囲へ均等にでています。点電荷から
r m の距離における電束密度 D は D=Q / 4πr^2 … (7)
電場 E は点電荷からの距離の二乗に反比例するので,この D で E を表すことができます。
比例定数をε0 として E=D/ε0=Q / 4πε0 r^2 …(8)
電流の周りにはバウムクーヘンのような磁束場ができています。
この場は距離に反比例し,真空であれば磁束場Bは B=μ0 I / 2πr …(9)
真空でないときには B’=μI
/ 2πr … (9)’
雰囲気に関係なく場を決めたいので B/μ0=B’/μ=I/2πr=H …(10)を磁場とします。 I が B をつくるというのは,Q が走って B をつくるということですが,Q がつくった E が走って B をつくったとした方がよさそうです。導線lの中のQ が導線に垂直な方向にだけ電束をだしたとすると,r m 離れた所では,
D=Q/2πr l=I/2πrv=H/v ∴ H=Dv B/μ0=ε0Ev
B=ε0μ0 vE …(11)
(6)と(11)とから v=1/√(ε0μ0)=3×10^8=c という光速度がでてきます。
電荷と電流の関係を場で考えたら,そこから光速度がでてきました。この結果は,電荷の単位をどのように決めるかには関係ありません。 ≪問1≫ 1クーロンという単位をどのように決めたと思いますか。また,電荷の単位を,初めはどのように決めたのでしょうか。
同量の点電荷が1cm 離れていて1 dyne (dyn) の力を及ぼしあうとき,その電荷を1 cgs・esu 電気量といいます。これは,まったく力学的に決められたものです。そして,その
3×10^9 倍を 1C としたのです。3×10^9は10c(c は光速度)です。
電気に関するクーロンの法則は F=kQQ’/ r^2=kQ’/ r^2・Q=EQ …(12)
k=9×10^9=c^2/10^7(N・m^2/C^2) …(13) この基本法則に光速を導入する作為があったのです。
(8)と(12)(13)から ε0=1/ 4πk=8.85×10^(−12)(C^2/Nm^2)…(14)
定数表によると光速 c は c=2.99792458×10^8(m/s)
クーロンの法則の定数 k は k=8.9876×10^9(Nm^2/C^2)
これは c^2 / 10^7 と完全に一致します。
真空の誘導率ε0 は ε0=8.8541851×10^(−12)(C^2/Nm^2)
これは 10^7/4πc^2 と完全に一致します。偶然などというものではありません。
同量の電流が流れている 1m 離れた2本の平行導線があって,その一方の導線 1m の部分が他方から受ける力の大きさを 2×10^7Nと決めると(2)と(9)から
F=I l B=I l・μ0 I / 2πr=2×10^7 μ0=4π/ 10^7 (N/A^2) …(15)
こうなると ε0μ0=1/4πk×4π/10^7=1÷(10^7・k)=1/c^2 … (16)
となって,ブラックボックスの中が見えてきます。クーロンという単位に c が導入されたので,真空の誘電率ε0 に c が入り込み,従って,真空の透磁率μ0 には c を入れる必要がなかったのです。
クーロンが単位として採用されたの,は1881年の第1回国際電気標準会議(I E C)においてです。マクスウェルの電磁理論は1864年に完成しているので,このときすでに,この配慮がなされていたのかもしれません。現在では,先に学習したように,導線にはたらく力で 1A(国際アンペアという)が決められ,それによって運はれる電気量として,1C=1/10 CGS電磁クーロン=2 997930×10^9 CGS 静電クーロン と決められています。
したがって定数も μ0 の方が先に
4π/10^7 と決まることになりますが,それは手続きの前後関係にすぎません。
1908年の I E Cでは “硝酸銀の水溶液を通過し,毎秒0. 001211800 g の銀を分離する不変電流” という1Aの定義を採用し,1950年の第10回国際度量衡総会(CIPM)では
“1Vの電位差をもつ2点を1Ωの抵抗(これは別に決める)で結ぶときに流れる電流の大きさに等しい” と(第9回大会で)定義された1Aを基本単位として採択していますが,いずれも1Cの定義に光速度cを導入していることの妨げにはなりません。
もう一つの問題があります。歴史的にいえば,むかしは電荷と同じように磁荷が考えられました。磁荷mWb(ウェーバー)の点磁荷からは,Φ本の磁束がでていて,r 離れたところの磁束密度は B=Φ/ 4πr^2 …(17)
磁荷 m が力を受ける場を,磁場Hで表すことにすると F=Hm …(18)
H を B で表現するとき,その比例定数をμ0 とすると,
H=B/μ0=m/4πμ0 r^2=km/r^2 …(19)
これらの関係は電荷についての(7)(8)(12)と同じ形になっています。
しかし,実際には,磁荷なるものは存在しなかったので,電流がつくる B を束ねた BS=Φ(SはBが存在する範囲の面積)で磁荷を定義することにしました。主役が磁荷から電流に代わったのです。D と H は線束を表すモデル場,E と B は Q と I の実体的な力揚です。
もし初めから電荷 Q と電流Iで電磁気の体系をつくったとすれば,Qがつくった D で E を表し,I がつくった B で H を表し,Q は E から力を受け,I は H から力を受けるとした方が,よほどすっきりしたはずです。
ついでに,単位の整理に関して述べておきます。
異なった場所で決められた同種の量の単位が簡単な比になるということはありえようとは思われません。そのような場合には,いつかどこかで,両者を突き合わせて調整がなされているに違いありません。日本の場合には,4貫は15kg, 3.3尺は1mとなっていますが,たとえば長さについていえば,明治24年(1891)の法律で,かね尺の1尺を10/33 m (くじら尺はその1.25倍)と決めています。
原子の質量を測る単位には,その大きさに見合った大きさをとるのがよいわけですが,いちばん軽いものを基準にとることにも妥当性があります。原子の質量は,初めは水素原子の質量を基準にして決められていましたが,1885年に,オストワルドが酸素の原子量を基準にすることを示唆してからは,化学では天然の酸素の原子量を16.0000として原子量が決められるようになりました。しかし,酸素には同位体(Isotope)が七つもあって,その平均値が16ということになります。物理学では,酸素の同位元素組成が明らかになってからは,酸素原子のうち16Oを16.0000と定義して原子量表をつくってきました。しかし,このように二つの原子量尺度があるのは不便なので,1960年に統一原子量を採用するよう合意に達し,翌1961年に決定しました。
現在では,炭素12の12分の1をもって,原子を測る単位とし,これを原子質量単位amu(atomic mass unit)といいます。国際原子量委員会は毎年もっとも正確な原子量の値を選定して発表しています。
古い原子量表(化学)では
H=1.0080 C=12.011 0=16[16.0000の意]
国際原子量表(1961)では
H=1.00797 C=12 01115[12C=12(12.0000‥)の意] 0=15.9994 となっています。
[まとめ]
1 1クーロンという単位は光速をも配慮して決められたに違いありません。
2 現在は電磁気の基本となる単位はA(アンペア)に決められています。
3 磁気の諸量の基準は,磁気量から電流量に変わりました。
4 単位は他の単位と整合性をもたせるために是正されることかあります。
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