89.場が空間を伝わっていく―――電磁波
[授業のねらい]
これまでに,電場と磁束場が存在すること,そして電場が変化すると磁束場が生まれ,磁束場が変化すると電場が生まれることも確かめてきました。
電場と磁束場が回路の中で互いに変化しあいながら振動することも学習しました。なんとはなしに波の姿が見えてきます。
[授業の展開]
まえの時間に電場と磁束場の発生関係から導かれた v^2ε0μ0=1 を計算すると
v^2=1÷{8.85×10^(−12)×1.26×10^(−6)}=8.98×10^16
v=±2.99×10^8 と,光速が飛び出してきました。
≪問1≫ 1/ε0μ0 が速さの単位になるかを確かめなさい.。
Eの単位をEと書くことにすれば,
D=ε0E から ε0=D/E … C/m^2÷N/C=C^2 / N・m^2
B=μ0H から μ0=B/H … N/Am÷A/m=N / A^2
1/ε0μ0=Nm^2/C^2
× A^2/N=A^2m^2/C^2=A^2m^2/A^s^2=m^2/s^2 1/√(ε0^2・μ0^2)…m/s
E=Bv と H=vD のvは,実際に電子が移動する速さを表していたので, E=Bv と H=vD はそのような速さにおける,それぞれの場の変換を表していますが,その速さが光速になると,この二つの関係は一つの事件に帰着されます。 電荷や磁石を動かさなくても,EとBはお互いに姿を変えながら光速で移動していくことが考えられます。EとB
は互いに原因,結果となって空間を伝わっていきそうです。そのようなパターンを波動と呼ぶのでした。E,B,vは互いに直交していたので,この波は横波であることが推測されます。
≪問2≫ コンデンサーとコイルで振動回路をつくり,コンデンサーを充電してから回路を閉じると振動電流が流れます。コンデンサーの電場を電束線(電束)で,またコンデンサーの周辺の磁束場を磁束で想像しなさい。
振動の周波数が大きくなると,この電場と磁束場が回路から押しだされていくさまを想像してみましょう。 絵に描いてみましょう。(だれも見た人はいないのですから,ご自由に!)
≪問3≫ 次のことを生き生きとイメージしてみましょう。
まえに電子をイメージしてもらいました。電子の周囲には電場があって,ウニの刺のような電束が「生えて」います。
電子が運動して電流になり,試験管ブラシの毛のような電束が運動すると,バウムクーヘンのような磁束場に変貌します。ここまでは,電子も場も等速運動をしたのですが,電子が加速度運動をした場合はどうでしょうか。
走ってきた電子に急ブレーキがかかると,いっしょに走ってきた電束と磁束は電子から脱げてしまって,電子とは独立に運動します。これを制動放射といいます。これが電磁波です。電場や磁場にも慣性かあるのです。往復運動も加速度運動であることを思いだしましょう。
≪実験1≫ 電波発信器で電磁波を発生させて,波の現象が観察されるか確かめなさい。横波の現象が観察されるか確かめなさい。
≪実験2≫ コンデンサーを充電させておいてから放電させます。回路にはとくにコイルを入れなくても,回路自体に小さいインダクタンスがあるので,この回路の固有周波数は大きく,電磁波を発生します。これを離れた所に置いたラシオで受信してみましょう。
≪実験3≫ 誘導コイルの放電で発生した電磁波を離れた所に置いたラジオで受信してみましょう。
≪実験4≫ 誘導コイルの放電で発生した電磁波で,離れた所に置いたネオン球を発光させてみましょう。
≪実験5≫ 小型のトランジスターラジオをアルミ箔で包んでラジオの音が消えることを確かめましょう。
T ラジオをアルミ箔で包むと音が聞こえなくなるんだよ。(ラジオを包む)
P ほんとだ。
T 電波がアルミで反射してしまってラジオに達しないからなんだ。
P アルミが音を反射してでてこないんじゃないの。
T そういうと思ったので,テープレコーダーを持ってきた。(テープレコーダーをアルミ箔で包んでも音が聞こえる)
P ほんとだ。
注意 電池式のラジオでないとだめです。電源コードがアンテナになって信号が入ってしまいます。
≪実験6≫ アルミ箔で袋をつくって頭からかぶり,中が真っ暗であることを確かめましょう。
注意 アルミ箔はていねいに扱わないとピンホールができてしまいます。
アルミ箔(金属)は電磁波を反射するので,ラジオ波も光波もその内部には達しないことを説明します。
≪実験7≫ なにがラジオ波を遮るか,ラジオをテスターにして調べてみよう。
耳(音)の聞こえない子どもに,音を教える聾学校の優れた授業実践があります。騒音計を使って子どもが音を発見していくのです。子どもたちは歩くと足音がでることを知ります。隣の部屋にも太鼓の音が伝わるのに驚きます。
私たちは電波のセンサーを持ちあわせません。しかし「聞こえない」電波もラシオをテスターにすればつかまえられます。幅広い電磁波のバントのなかで,人間につかまるチャンネルは狭く,光の一部分だけです。むかしは光たけが頼りだった天文学も,いまでは電波天文学,X線天文学など,広い範囲で星が「見える」ようになっています。感覚が広く延長されています。
≪問4≫ 電磁波はその波長によって,それぞれ特徴があります。電磁波が波長によって,どのようなはたらきがあり,どのように分類され,どのように利用されているか,調べなさい。
≪問5≫ 新聞のラジオ番組の欄には,NHK第一放送の電波の周波数は594kHz,NHK・FM放送の電波の周波数は82.5MHzと書かれています。
NHKに問いあわせたところ,NHKテレビ放送第一チャンネルの周波数は95MHz,NHKテレビ衛星放送第15チャンネルの周波数は11.996GHzと教えてくれました。それぞれの電波の波長はいくらかを計算してみましょう。M(メガ),G(ギガ)は10^6,10^9 です。
電気振動はその振動数が大きくなると電磁波として空間を伝播するようになります。音声周波数はせいぜい100〜10000Hz程度なので,これを電気振動に変えた信号波は電磁波にはなりにくいのです。そこで,信号波を周波数の大きい搬送波に重ねあわせて合成波をつくります。この合成波は,周波数は搬送波の周波数,変化する振幅に音声振動の波形が現れていて,これを変調波といいます。空間を伝播してきた変調波はアンテナに電気振動を起こし,同調回路の共振で選ひだされ,検波(整流)され,振幅の波形が取りだされて,信号波が再現します。これを音声に直します。
≪実験8≫ 鉱石ラジオか1石ラジオをつくってみましょう。
回路の中で電子の平均移動速度(ドリフト速度)は毎秒数ミリにも達しないことを計算しました。しかし,電気信号の伝わる速さは光速度よりすこし遅い程度です。
≪実験9≫ 低周波発信器から,約2kHzの矩形波を長さ10mの導線に取りだして,導線の前後からの二つの信号を2チャンネルのオッシロに入れます。タイム切り替えスイッチを1μsに設定し,さらに,×10MAGつまみを引いて,掃引時間を0.1μs/DIV(1目盛りについて10^(−7)秒にします。
垂直軸偏向感度は50mV/DIV(1目盛りについて50mV)がよいようです。
このあたりは試行錯誤で調節します。
(図p163-1)
導線のまえからの信号を1チャンネルに,あとからの信号を2チャンネルに入れて,モード切り替えスイッチをCHOPにすると,二つの波形が同時にブラウン管に現れます。垂直方向のポジションつまみで,二つの矩形波の上の部分を合わせると,矩形彼の縦の辺に二つの信号が到達するタイムラグが現れます。ただし,タイムレンジを小さくとってあるので,矩形波の形はすこし歪んでいます。 (図p163-2)
この実験では,時間差は0.03μsくらいでした。このデータでは信号の伝達速度は 10 m/0 03 μs=3×10^8m/sとなります。有効数字は1桁しかありませんが,導線を長くするとタイムラグが大きくなって,電気信号がほぼ光速度で伝わっていくことが実感てきます。なお,この実験では,日立オッシロスコープ
V−425 形を使用しました。
(図p163-3)*
[まとめ]
1 EとBの発生関係から光速度の値がでてきます。
2 回路の電気振動が速くなると,電荷に付随した場が,電荷から独立して旅立ちます。これが電磁波です。
3 電気信号は光速で伝わります。
*この写真はp168にあります。
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