87.電磁気の法則を力線や数式で書けば―――マクスウェルの方程式
[授業のねらい]
電磁気の学習は,それが目に見えないので,いろいろな方法を使って理解を深めたいものです。ここでは,場を力線で描いて,それを数式で表現したケースを紹介します。数式が意味しているところがわかればいいのです。
[授業の展開]
マクスウェルの方程式は,電磁気の基本関係を四つの方程式にまとめたもので,つぎにあげる(1)〜(4)の四つからなります。空間(真空)の理論ですから,誘電率はε0,透磁率はμ0です。
(1) ▽・Ev=ρ/ε0
Evの添字vはヴェクトルの意味です。
div または ▽・ という演算を発散(divergence)といいます。
発散:任意のベクトル場 av が与えられたとき,ある一点Pにおいて,その周囲に考えられた微小体積 △V を包む小閉曲面 S の面積要素 △S の外向き法線の単位ベクトルを n とすれば △V→0 のときに ∫(nv,av)dS/△Vが有限の値をもつとき,これをその点における a の発散といい記号 div avあるいは ▽・av で表します。
この第1法則を普通の言葉でいえばつぎのようになります。
どこかに電荷があって,そこから周囲に電束がでています。そこに一つの点(位置)を決めて,それを囲む小さい空間を考え,入りこんでくる電束と,でていく電束の本数を数えます。その差をその点における電束密度の発散といいます。 式で表すと ▽・Vv あるいは div
Dv です。 (図p152)
局部における電束密度の様子を知りたいので,点を囲む空間は小さくとります。
D=ε0E ですから,
▽・Ev=1/ε0 ▽・Dv
具体的に図のような場合を考えます。閉曲面をイのようにとると,出入りする電束の数は±0です。閉曲面をロのようにとると,出入りする電束の数は中の電荷に等しくなります。なぜなら,QC の電荷からは Q本の電束がでているからです。それだけのことです!
電荷密度がρC/ m^3 で,体積がVm^3である空間には, Q=ρV の電荷があり,この QC の電荷から Q本の電束がでているので,この空間の表面における電束密度は
D=Q/S となり,積分の形で書けば,
∫Dv dSv=∫ρdV=Q
“Qクーロンの点電荷から Q本の電束が周囲に均等にでていて,r
の距離における電束密度は D=Q/4πr^2 である” とか “QC の電荷から Q本の電束がでていて,電束の密度 D で電場 E を表す”ということを,図に描いて数式で書けばこうなるということです。
これはまた,つぎのように表現されることがあります。電場の強さが E の位置で,電場に垂直な単位面積を貫く電気力線の数はE(=D/ε0)なので,面積△Sを貫く電気力線の数は EdS,電束は電荷 Q からでるので
Q=∫Dv dSv=∫ε0 Ev dSv
この形の表現をガウスの法則といいます。
+ 電荷は電束のわきだし口,− 電荷は電束の吸い込み口とみることができます。このような電荷がつくる電場をクーロン電場といいます。 “クーロン電場には発散がある” ということになります。
(2)▽・Bv=0
(図p153)
Bの発散がないということは,Bにはわきだし口や吸い込み口がないということです。電束が電荷から出入りするような場所が,磁束には存在しないということです。つまり,磁荷は存在しないということです。
“磁束場のある空間をどのように囲んでも入り込む磁束と,でていく磁束の数は同じである” ということです。
(3)▽×Ev=−dBv/dt
rot または ▽× という演算を循環(rotation)といいます。
循環:流れのなかの一つの閉曲線Cに沿って,速度 v の接線成分 vt の積分 ∫vt ds を C についての循環という。
電場 E に任意の閉曲線を考えます。各電気力線(電束でもよい)と閉曲線が交わったところで,閉曲線の接線方向の電場の成分を考えて,その成分と微小線分の積を閉曲線に沿って加えあわせます。これがEの循環です。
これを, ▽×Ev あるいは rot Ev で表します。
∫Ev dsv=V(ひと回りの起電力)=−d / dt∫Bv dSv=−dΦ/dt
これはファラデーの法則で, “回路を貫く磁束の変化の速さに相当する誘電起電力を生じる” ことを表現しています。ただし,その向きは外部から磁束の変化を打ち消すような磁束をつくる電流の向きに一致します。従来“右ねじを回す向きに電流が流れると,ねじの進む向きに磁束ができる” というように磁束の向きを決めましたが,ここては,外部からの磁束が増える(△Φ>0)と,この取り決めとは逆向きに電流が流れる(磁束が減る場合も同じ)ので,マイナスの符号をつけてあります。 “誘導電場は循環している”のです。
(4) c^2▽×Bv=j/ε0+dEv / dt
▽×Hv=jv+dDv / dt
∫Hv dsv=I+d/dt∫Dv
dSv
(図p154)
∫Hv dsv=I の部分は “Hの線積分はそれが取り囲む電流に等しい” というアンペールの法則です。
右辺の残った部分 d/dt∫Dv dSv を電束電流(displacement
current)といいます。
容量 C のコンデンサーをつないだ直流回路においては,厳密には回路は開いていると見るべきですが,コンデンサーが充電されているときには(放電のときも同じ)電流は流れつづけます。コンデンサーの極板間の空間には,電束が増えているので,コンデンサーの極板の面積を A とすると,
d(DA)/dt=dQ/dt=I
となるので,これも電流の一種と考えてよいと思われます。これを電束電流と呼びます。この電束の周りには H の循環があることにも注意しましょう。
コンデンサーが充電されているときには,図のような電束がコンデンサーの空間に入り込んできます。D がそれに垂直に v で走るのですから,その両方に直交した円形の磁場 H ができているはずです。電流がその外部につくる磁場 H と同じです。
交流回路においては,コンデンサーの空間には,絶えず電束電流が存在しています。これに対して,従来の電流を伝導電流(conduction current)といいます。この第4方程式は “伝導電流と電束電流は,それが周囲につくる磁場の線積分に等しい”ということになります。
≪問1≫ 電流はひと続きの回路でぐるぐる回っている,ということを確認しましょう。
小学校では “回路はひと続きになっていて電流はぐるぐる回って流れる” という法則を学習しました。高校では,定電流装置を使った時点で,コンデンサーの極板は離れているので,<電流ぐるぐる回りの法則>は否定されたかに見えました。しかし,ここで,コンデンサーの空間にも電束電流があることを知って,ふたたびこの法則は生き返ったのでした。
生徒の感想 数式の計算はわかりませんが,場が @どこからかわきだして流れていく(▽・と書く)線か, A渦のようにぐるぐる回りをしている(▽×と書く)線かの2種類の線で、かき表せるというのはイメーシしやすいことです。 (図p155)
石井のコメント
@-1のわきだした電場は電荷による電場 (クーロン電場),
@-2のわきだし磁束場は磁石による磁束場(ウェーバー磁束場),
A-1の渦巻き電場は誘導電場 (ファラデー電場),
A-2の渦巻き磁束場は誘導磁束場 (アンペール磁束場),
というのはどうでしょう。
[まとめ]
1 電磁気の基本関係を力線のイメ−ジで理解します。
2 それを数式で表すことができます。
3 電流には伝導電流と電束電流があります。
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