86.交流を直流に直して使おう―――整流
[授業のねらい]
電池を使った実験は得意でも,100Vの交流は怖くて使えないという場合があります。おっくうがらずに使えるようになりたいものです。そのためには,スライダックで電圧を下げ,必要に応じて整流器で直流に直して使う習慣を身につけたいものです。使用済みの電池がたまる一方ですから。
[授業の展開]
交流を直流に直すことを整流といいます。陽極(プレート)と陰極(カソード)をもった真空管を二極管といいます。陰極はヒーター(フィラメント)で熱して電子を放出するようになっています。二極管には整流作用かあります。ヒーターでカソードを熱して電子を放出させ,プレートをカソードに対してプラスになるように電池をつなぐと,回路に電流が流れます。
電池の代わりに交流電圧をかけるとプレート側がプラスになったときには電流が流れ,マイナスになったときには流れないので,「直流」が得られます。
≪実験1≫ 12Fのヒーターを交流の6Vで熱し,プレートとカソードのあいだに交流電圧10Vを加え,プレート回路の1kΩの抵抗の両端から信号を取りだして,オッシロでその波形を観察しましょう。
こうして整流された電流は一定の向きに流れる「直流」ですが,強さが一定でないので脈流と呼ばれます。 これを直流に直すには平滑回路を使います。
≪実験2≫ ダイオードは電流を流す向きによって抵抗が異なります。測定してみましょう。
ダイオードの記号に示された矢印の向きを順方向,その反対を逆方向といいます。抵抗を測ってみると,順方向では10kΩ弱,逆方向では無限大の抵抗を示しました。ついでに,赤の発光ダイオードをテスターで測定してみると,テスターのレンジによって違う抵抗値を示しました。 (表p148)
≪実験3≫ 発光ダイオードの整流作用をオッシロで観察しましょう。
生徒のリポートから オッシロスコープは図のような波打った直流を示した。ただし,盛り上がっている部分のてっぺんはサインカーブのようなまるっぽいカーブではなくて,ほとんど水平になっていた。どうしてこうなるのでしょうか?
(図p149-1)
発光ダイオード(赤)を使うと,2〜3Vのときは,真空管とほとんど同じだったが,電圧を上げると変化が起こった。オッシロスコープの波形は図のように下に出っ張りがでてきた。電圧を上げて,発光ダイオードが明るくなるほど,下への出っ張りは大きくなっていく。これは電圧を上げると,それに発光ダイオードが耐えられなくなって,逆向きの電流も流れてしまうためなので,すこし発光ダイオードにはかわいそうな実験だった。
≪実験4≫ 5本の発光ダイオードの4本を使って全波整流器をつくり,残った一つの発光ダイオートを点灯しなさい。
(図p149-2)
生徒の授業ノートから
(1)ダイオードの方向性 電極の小さい方,足の長い方が+側.方向と向きは矢印で示されている。
Exp 1-1 6Vのバッテリー使用。順方向で光る。ここで,もし抵抗をつけて信号を取りたし,0sc(オッシロスコープ)につないだら,こんなグラフ(略)になるはずである。
Exp 1-2 バッテリーを逆にしたらまったく光らなかった。 (図p149-3)
Exp 1-3 交流にしたらちらちら光った。ここで抵抗につなげてOscに引いたら,クラフはきっと図のように半波整流を表すだろう。すなわち,発光ダイオードは順方向の電流は流すが逆方向の電流は流さないので整流作用をもつことができる。発光ダイオードは半導体整流器であったわけである。ここまでは準備の段階で,いよいよ全波整流器について書こうと思う。
(2)全波整流
Exp 2-1 バッテリーを図のようにつないだとき,発光ダイオードの光ったものはa,c,e であった。これはつぎのように電流が流れたからである。
A点ではdは逆向きだからB点に流れ,B点ではbは逆向きだからD点に流れ,D点ではA点よりC点のほうか電位が低いのでC点に流れたのである。
ここで注意しておくことはeが光ったということである。 (図p150-1)
Exp 2-2 バッテリーを逆にして図のようにつないだとき,発光ダイオートが光ったものは,b,d,e であった。これはつぎのように電流が流れたからである。C点ではB点に流れ,B点ではD点に流れ,D点では電位の高いC点には流れずAに流れ,A点では電位の高いB点には流れず,バッテリーに戻ったのである。ここで注目すべきことは,バッテリーは逆になっても,B→Dへの流れは逆にならずに e の発光ダイオートか光ったということである。ここで,バッテリーを交流にしたら,B→Dへはたえず電流が流れるのではないかという予測がつく。
Exp 3-1 この回路をつくってみると,a,b,c,dは点滅し,eはちらちら
光った。それてOscにとってみた。
(図p150-2-3)
Exp 3-2 Oscにつないでみると予測したとおりに,電流は常にB→Dの向きにしか流れていなくてグラフは全波整流のグラフになった。 Exp1→3では交流の半分だけしか負荷に流さないので半波整流であったが,Exp3-では交流の全部を負荷に流すので全波整流である。
(3)平滑回路
Exp 4 全波整流や半波整流された強弱のある直流のような脈流を強弱の変化の少ない直流にする回路のことを平滑回路という。 (図p151)
1)C1,C2
がないとき Osc の図形はExp 1-3のような半波整流を示す。
2)C2 がないとき 右向きの電流が強くなろうとすると電流はコンデンサー
C1 にたまっていく。その電流が弱くなろうとするとき,さきにC1にたまっていた電気が流れ出て弱まるのが妨げられる。したがって,負荷を流れる電流は上図のように直流に近くなる。(Exp 4 図は全波整流の場合)
3)C2をつないだとき 負荷に流れる電流が強くなろうとするとき,電流の一部はC1にたまり,弱くなろうとするときには,たまっていた電気が流れるので,負荷に流れる電流はほぼ直流になる。
以上をまとめると,電流が流れているときにはコンデンサーが充電し,電流が流れていないときには放電して,電流は平滑されるのである。
感想 4個の整流器をブリッジにしたものをつくった人は天才だと思います。
≪実験5≫ 全波整流器が安く手に入ります。簡単な直流電源をつくってみましょう。
≪実験6≫ 圧電ブザーの音の違いを確かめましょう。
(1)交流で鳴らします。
(2)半波整流した脈流で鳴らします。
(3)仝波整流した脈流で鳴らします。
(4)平滑回路で平滑してから鳴らします。
(5)最後に,乾電池の直流で鳴らします。
圧電ブザーは直流で鳴らすものです。上の順にブザーを鳴らしてその音を聞くと,音がだんだん澄んでくるのがわかります。これは,盲学校でなされた実験で,目の見えない生徒に交流を教える実践の一部です。
[まとめ]
1 ダイオードや二極管で整流することができます。
2 発光ダイオートでも整流することができます。
3 ダイオードで半波整流,全波整流ができます。
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