85.中途半端な抵抗をもつ物質―――半導体
[授業のねらい]
物質の電気的性質の一つに電気伝導があることを学びました。電気伝導は金属ではよく,イオン性物質や共有結合物質ではわるいのですが,その中間的な物質があります。文字どおり半導体です。そのような物質にはそれなりの利用法があります。
[授業の展開]
≪問1≫ 元素の周期表では,金属元素と非金属元素がどのように並んでますか。その境界部分はどうなっていますか。
元素の周期表を見ると左の方には金属元素が並び,右の方には非金属元素が並び,その境界には半金属とでもいうべき元素が位置します。
≪問2≫ 金属にはどんな性質があるでしょう。
金属元素の単体は金属と呼ばれる物質の状態名で存在し,その特徴として,
(1)延展性がよく,
(2)特種な光沢(それを金属光沢といいます)があり,
(3)電気伝導性がよい,
という共通の性質をもっています。これは,原子の金属結合というミクロの性質を反映しています。
金属結合は,並んでいる金属イオンの集団を,集団で共有する電子(自由電子)が結びつけているという結合方式です。変形によって金属イオンの相互の位置が変わっても,結合の構造に変化が起きにくいので,結合が壊れにくく,延展性がよいのです。
この自由電子は,外からきた光の電場で振動して,発光します。金属光沢はこのようにして起きます。
金属内部に電場ができると,自由電子はこれによって移動して電気伝導をすることになります。
むかし,小規模な<たたら>で砂鉄から鉄をつくったことがあります。できあがった「鉄」の一部は,電気を通し,ピカピカ光っていましたが,金床の上でたたくと,粉々になってしまいました。その部分は本物の鉄ではなかったのです。しかし,中にはつぶれない部分があって,それが玉鋼(たまはがね)と呼ばれる本物の鉄でした。金属の最後の性質は延展性のように思われます。
電気伝導性を常温の抵抗率でくらべてみると,金属の銀では 1.6×10^(−8)Ωm(以下,同単位),非金属の硫黄では 1×10^14〜10^15 その中間の半金属とでも呼びたい物質では,炭素(グラファイト)は10^(−5)〜10^(−7),
珪素は10^(−7), ゲルマニウムは10^(−1), α錫で10^(−6)程度です。
(『物理定数表』1972年,朝倉書店刊に,「半導体の電気抵抗は不純物および構造に敏感であり,本表の数値は一応の目安となしうるものである」という注があります)
炭素,珪素,ゲルマニウムなど4価の元素の単体では,原子は互いに4個の電子をだしあって,共有結合してダイヤモンド型結晶をつくっていますが,この結合は弱いので,熱運動程度で結合電子の一部が自由電子として電気伝導の役割を果たします。このような性質を真性半導体といいます。
真性半導体に,わずかな不純物を加えると電気抵抗が小さくなります。はじめにシリコンやゲルマニウムを高い純度に精製します。ゾーンメルティングという方法があります。金属塊を一方の端から部分的に溶融させながら,溶融部分の位置をゆっくりずらしていくと,不純物は結晶には組み込まれにくいので,溶融部分に取り残されていくという方法です。
このようにしてつくられた純粋な4価のシリコンの結晶に,5価の炭素をわずかに加えると,シリコンと炭素の合金ができますが,炭素は共有結合に必要な電子4個を供出してもまだ1個あまるので,これが結晶の中を自由に動きまわって,電気伝導のはたらきを担います。
≪問2≫ 4価のシリコンの結晶に3価のインジウムをドーピングすると,どうなるでしょうか。
この場合には,インジウムから供出される電子は3個しかなくて不足するので,その部分には電子が欠けたままですが,それでも結晶はできます。しかしそのような空席は,他の部分にある結合電子で「とっかえひっかえ」埋められています。
この半導体の中に電場ができれば,結合電子はこの空席を「跳び石」にして電気伝導が行われます。電子が左へ移動していくのは,空席が右に移動していくのと同じことです。椅子取りゲームで,人が左へ移動していくときには空席が順次右に移動していくのと同じことです。ビールの泡が昇っていくのは、その泡の中にビールが「落ち込んで行く」ことになる,のと同じことです。この空席を正孔といいます。
一般に電気を運ぶものをキャリアといいます。5価の炭素型ではキャリアが電子で,このような半導体をN型半導体といい,3価のインジウム型では,キャリアは正孔で,このような半導体をP型半導体といいます。
例えば,ゲルマニウムに,炭素原子を1.5×10^15(1/cm^3)個ドープしたN型半導体では抵抗率は1.1×10^(−2)Ωm(300K),ゲルマニウムにガリウム原子を8×10^14(1/cm^3)個ドープしたP形半導体では抵抗率は3.3×10^(−2)Ωm(300K)です。真性ゲルマニウムは同温で 46×10^(−2)Ωm。
ちなみに,ゲルマニウムの原子量は72.6で,密度を5.4
g/cm^3 として,1cm^3の原子数は 4.5×10^22個です。
N型半導体とP型半導体を接合したものは,整流作用という電気的特性をもちます。N型からP型の向きへ電場をかけると,電流が流れにくいのに,その逆の向きでは電流がよく流れます。つまり,整流作用をもつのです。電流の流れやすい向きを順方向,流れにくい向きを逆方向といいます。
その理由はつきのように説明されます。
P型の端に電池のマイナス,N型の端に電池のプラスをつなぐと,内部にNからPの向き(逆方向)の電場ができて電流は流れません。このとき,P型半導体の正孔とN型半導体の電子はそれぞれ半導体の両端に吸い寄せられ,残りの部分は共有結合の電子か過不足なく充足して結合が完成します。
電池のつなぎ方を逆にするときには,正孔と自由電子はともに接合の境界へ移勤し,そこで正孔と自由電子は結合して消失します。このことは,P型の部分はマイナスの電位に,N型の部分はプラスの電位になることになり,半導体の両端からただちに,正孔と自由電子が供給され,電気伝導が再開されます。正孔の供給とは,自由電子が吸いだされるということです。
薄いN形の半導体を両側からP形の半導体で挟んだもの,または,N形とP形を逆にしたものがトランジスターです。前者をNPN型,後者をPNP型といいます。トランジスターの3本の引出線(端子)は,図のように記号化され,命名されています。
(図p146)
≪実験1≫ PNP接合トランジスター(A733)について,つぎの測定をしてみました。 V(EB)はEB間にEがプラスになるように電圧をかけた場合です。電池は平角で V=3.26(V) としました。
V(EB)→I=179(mA) V(BE)→I=0 F(BC)→I=0
V(CB)→I=184(mA) V(EC)→I=0 V(CE)→I=0
R(EB)=R(CB)=18(Ω) これが順方向であることが,これからわかります。
≪実験2≫ 図のような配線で,ベース電流IBを一定に保ったまま,コレクター電圧Rを変化させたときのコレクター電流ICを読みとって,IC−VC特性を調べなさい。
(図p147-1)
授業ノートから,(データは省略して,グラフと考察を転記しておきます)
考察 きょうは自習でトランジスター回路の実験を行った。用いたトランジスターはPNP(2 SB56)であるから,EからBへ,CからBへは低電圧で容易に電流が流れるわけで,EからCへは流れにくい。しかし,EからBの向きに電圧をかると,電流の多くはBを突き抜けてCへ流れていってしまう。これを実際に実験してみた。
(図p147-2)
結果はグラフのとおりで,コレクター電流ICはコレクター電圧VCにあまり影響されないことがわかる。しかし,ベース電流IBが2μA変わるとコレクター電流ICは1mAも変わるので,電流は500倍も増幅されたことになる。
ベース回路に信号を入れてコレクター回路から電流を増幅して取りだすのは,グリッドの回路に信号を入れて,プレート回路から電流を増幅して取りだす3極真空管に似ている。電流がベースを突き抜けていってしまうのも,電子がグリッドを突き抜けていってしまうのに似ている。
[まとめ]
1 元素は単体では金属,非金属,半金属に分けられます。
2 半金属は真正半導体ですが,これに3価や5価の単体元素をわずかにドーピングすると不純物半導体になります。
3 キャリアが正孔の半導体をP型,電子の半導体をN型といいます。
4 P型半導体とN型半導体を接合すると,ダイオードやトランジスターができます。
5 タイオードには整流作用が,トランジスターには増幅作用があります。
2010追記
(1)2S1015と2SC1815はコンプリメント(対称,相補)として,一緒に使われます。
(2)2SA,2SCは高周波用,2SB2SDは低周波用です。
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