84.金属ならなんでも回そう―――誘導モーター
[授業のねらい]
クリップモーターを学びましたが,これとは原理の異なったモーターがあります。その一つが誘導モーターです。回転磁界で金属の回転子に渦電流を発生させて,磁束のからみ合いで回転子を回します。金属が鉄ならいっそう回しやすいでしょう。
誘導モーターの回転子として使えるものを探してみましょう。
[授業の展開]
これまで電場,電束場,磁場,磁束場,重力場というように,場という言い方をしてきたのは,物理学では<場の理論>というように,場という用語が定着しているからですが,ここは,どちらかというと工学の分野に属するところなので,広く使われている回転磁界という言葉を使うことにします。
はじめに渦電流の復習です。
銅かアルミの円板を自由に回転できるようにして,これをU形磁石で挟みます。磁石を回転させると,円板も磁石と同じ向きへ回転します。これをアラゴの円板といいます。
≪実験1≫ アラゴの円板と同じ原理の実験装置を考えてつくりなさい。
≪問1≫ アラゴの円板が回る原理を説明しなさい。
≪問2≫ 直交している2組のコイルに交流電流を流して,内部の空間にどのような磁場ができるか作図してみましょう。 (図p140)
上の列はそのままの場合(振動磁界)。 下の列は一方にコンデンサーを入れた場合(回転磁界)。矢印はHのベクトルです。
≪問3≫ 上の回転磁界の強さがいつも同じであることを示しなさい。
上下方向 B1∝i1=I0・sinωt
左右方向 B2∝i2=I0・sin(ωt+π/2)=I0cosωt (位相がπ/2進んだとした)
合成磁束場 B^2=B1^2+B2^2 ∝ I0^2sin^2・ωt+I0^2cos^2ωt=I0^2
誘導モーター用のコイルを巻くのは大変です。そこで,テレビの偏向コイルを使うことを思いつきました。
粗大ゴミの集積場に捨てられたテレビのブラウン管の後ろから,偏向コイルを外してきます。ニッパーとドライバーで簡単に外せます。
偏向コイルには直向した2組の4個のコイルが配置されています。4端子のものは,カラーコードの赤と青が内側のコイルの端子で,黄と緑(色が異なる場合があります)が外側の端子です。4端子より多い場合には,一つ一つをテスターで調べてつなげなければなりません。 (図p141)
内側のコイルと外側のコイルには位相がπ/2違った交流を流したいので,内側のコイルの回路には1000μF程度のコンデンサーを入れます。 100Vの交流をスライダックで下げて10V以内で使います。こうして,二つのコイルに電流を流すと,その内部に≪間2≫下の列のような回転磁界ができます。
じつは,2組のコイルの間にはフェライトの隔壁があって,コンデンサーを入れなくても回転磁界ができるようになっているようですが,上述の方法で使う方が調子がいいようです。
さて回転子ですが,普通でしたら,銅板でかご形回転子をつくるところです
が,その代わりにいろいろなものを入れてみました。
(1)先に,渦電流のところで触れたアルミの鉛筆サックを,プラスチック粘土に立てたエナメル線に刺して,回転磁界に置きます。普通の鉄製の鉛筆サックでもよいのですが,この場合には,フェライトの壁につかないように注意がいります。コンデンサーのアルミケースでも結構です。ビールのアルミ缶も回ります。
(2)中にスチールウールを詰めたフィルムケースに,真ちゅうの棒(銅より堅くてよい)を芯棒として剌したものが,回転子としては優れています。
スチールウールを球状にしてアルミホイルで包み,真ちゅう捧をシャフトにしてもよいでしょう。単2乾電池(使用ずみのもの)の上下に真鍮棒をはんだづけしたものは迫力のある回転をします。
(3)1円硬貨を糸で縛って,回転磁界の中に吊します。糸がよじれないようにできればよいのですが、なかなかうまくいきません。釣り用の<ねじれ止め>を使ってもうまくいきません。磁石にパチンコ玉をつけ、このパチンコ玉に糸を下げてもだめでした。うまいねじれ止めはないものでしょうか。*
(4) ビールの缶を5mm幅の輪切りにしたものを糸で吊してみましょう。これの6個を重ねて球状にして、セロテープでとめ、糸で吊してみましょう。
吊す方向で回転の様子が異なるので、誘導電流の流れるコースが「見える」ように思われます。
(5)回転磁界に時計皿か蒸発皿を置いて、中にパチンコ玉を置いてみましょう。
また、スチールウールの球を置いてみましょう。スチールウールをアルミホイルで包んで、こまの形を作り、まち針の芯をつけて回してみましょう。表面が金属でできている球状のものなら何でも回ります。
(6)時計皿に水を入れて、水に浮かせて回せるものを探してみましょう。
(7)ドーナッツ型フェライト磁石を鉄の棒(ドライバーの軸)に挿して回転させてみましょう。回転しながら、上下に運動し続けます。
(8)裏表がNSになっている円筒形のフェライト磁石の半径方向へ、軸としてマッチを接着させて回してみましょう。
≪実験2≫ 上のローターを追試してみましょう。
(図p142)
≪実験3≫ 位相を変えるのに,コンデンサーの代わりに,適当な大きさのチョークコイルを使えば,回転方向が逆になります。スイッチで,コンデンサーとチョークコイルの両方を切り替えられるようにしておけば,おもしろい実験になります。
≪実験4≫ 誘導モーターが安く手に入ります。これを分解して,この回転子を≪実験2≫の回転磁界で回しなさい。 また,誘導モーターの回転磁界で,アルミの鉛筆サックを回してみましょう。
≪実験5≫ 鉄棒を芯にして,これにエナメル線を巻いて電磁石をつくります。これに交流を流して,この極の近くでアルミの鉛筆サックを回してみましょう。この電磁石に別の鉄棒を添えて(添えるだけでよい)鉛筆サックを回してみましょう。太いエナメル線を10回ほど巻いて回路を閉じたものを,この鉄棒に差し込んでから,電磁石に添えて鉛筆サックを回してみましょう。
鉛筆サックの周辺の磁界が対称でない場合には,たいがいの場合に,回転磁界ができて,鉛筆サックは回るようです。
≪実験6≫ 理科室に三相交流がきていたら,三相モーターを回してみましょう。また,三相交流の回転磁界で,≪実験2≫の回転子を回してみましょう。
≪実験7≫ コイルに交流を流して振動磁界をつくり(≪問2≫のように直交した2組のコイルでなくて,単なる普通のコイルでもよい)),その中に置いた時計皿の中で,左右がNSの小形円筒形のフェライト磁石で作った磁石ごまを回してみましょう。軸は磁石の円の中心に接着剤でつけます。 (図p143)
中心に小さな孔があいている磁石が探せられれば、好都合ですが…。
このこまは回転磁界のそれとは原理が違います。どのようになっているかを考えてみましょう。
[まとめ]
1 直交した2組のコイルで回転磁界をつくることができます。
2 誘導モーターは回転磁界の中でかご形回転子を回転させます。
3 回転磁界の中では金属製のものなら何でも回転させられます。
4 3相交流で回転磁界をつくることができます。
5 振動磁界の中で磁石ごまを回すことができます。
* 現在では,この実験(方法)は成功しています。
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