81.電源電圧より高い!―――交流の電圧
[授業のねらい]
交流でも電流は電圧に比例するというオームの法則が成り立っていることを確認します。しかし,交流の直列回路では,負荷の電圧(実効値)の代数和は,電源の電圧に等しくなりません。負荷の電圧のベクトル和を求めなくてはなりません。
交流の並列回路では,どうなっているのかも考えましょう。
[授業の展開]
交流の回路では,従来の抵抗(必要によっては,オーム抵抗と呼びます)のほかに,コンデンサーやコイルも抵抗になります。
≪実験1≫ 2kΩの抵抗,2μFのコンデンサー,5Hのコイルについて,それぞれ回路の電流が電圧に正比例する(オームの法則)か、どうかを調べなさい。
(1) 5Hのコイルをスライダックにつないで, デジタルテスターを電圧計,電流計として使用して測定した結果は下のとおりでした。 (表p128-1)
コイルのインダクタンスはこれから計算すると, L=XL / 2πf=4.3(H)
(2) 2.24kΩのカーボン抵抗をスライダックにつないで,普通のテスター((3)も同じ)で実験してみました。電流が小さいときには,オームの法則が成り立っているとはいえないので,電流を大きくして下の結果を得ました。(表p128-2)
(3) つぎに 2.18μFのコンデンサーで実験しました。
XC=1/2πfC=1.46(kΩ)
(表p128-3)
つぎは,位相の関係の復習です。交流回路では,抵抗 R に加えた交流電圧の瞬時値を v,抵抗を流れる電流の瞬時値を i とすると,オームの法則はつねに成り立っていて, v=iR
電圧が v=V0 sinωt のように変化すると,
電流は i=v/R=V0/R sinωt=I0 sinωt と変化して,電圧と電流は位相が同じであることがわかります。
≪問1≫(1)コイルの回路では,電流の位相はどうなっていたのでしょうか。
抵抗とコイルの直列回路について考えます。
抵抗の両端の電圧を v1=Asinωt とすると,コイルの両端の電圧はつぎのようにかけます。 v2=Bsin(ωt+π/2)=Bcosωt
このとき,電源電圧 v は,この二つの電圧の和になります。
(2)v,v1,v2 および電流iのグラフをかきなさい。
(3)上の二つの電圧の和を式の変形で求めなさい。
v=v1+v2=Asinωt+Bcosωt=C(A/C・sinωt+B/Ccosωt)
=C(sinωt・cosα+cosωt・sinα)=Csin(ωt+α)
ただし, C^2=A^2+B^2
(4) v,v1,v2 の関係を半径がそれぞれ A,B の円の上で示しなさい。(教科書の図を参考にします)
≪問2≫ 抵抗とコンデンサーについて,それぞれその両端の電圧を v1,v3とし,電源電圧
v の関係を ≪問1≫ の(1)(2)(3)(4)と同じように調べなさい。
≪問3≫ v2,v3,v についても,同じようにしなさい。
≪問4≫ v1,v2,v3,vについて,同じようにしなさい。
このことから,電圧の最大値や実効値(Vで表す)については,
V^2=V1^2+(V2〜V3)^2 電流は共通なので,Z^2=R^2十(XL〜XC)^2
≪実験2≫
上のことを確認しなさい。
実験の結果(*は計算) (表p129)
使用した抵抗は 2230Ωのカラー抵抗。 (表p130-1,2,3)
コンデンサーのキャパシタンスは 3.92μF(キャパシタンスメーターで測定,表示は4μF),容量リアクタンスは 1÷2πfC=812Ω
コイルのインダクタンスは 4.33H(下の実験から計算,表示は5H,コイルのオーム抵抗は 143Ω(テスターで測定)。
誘導リアクタンスは 1360=2πf L(Ω) インダクタンスは L=4.33H
交流の全抵抗(インピーダンス)は
Z=√[R^2+(XL〜XC)^2]=2300(Ω)
この実験の組織的な誤差が,なにに由来するかは発見できませんでした。
巻線抵抗 R は高周波で使うときには X も考慮しなくてはいけませんが,50Hz でも影響がありそうです。
2.46kΩの巻線抵抗は,5.32Vの交流(50Hz)と直流で,それぞれ 1.7mA,1.9mAの電流を流しました。交流抵抗の方が10%強,大きいことになります。
生徒の感想
P 夏季講習会で物理をとり(予備校?),リアクタンスとか,いろいろやったけど,いまいち実感がわかなかった。しかし,学校で実験して教わっていると,理解できたと思う。やはり,学校の授業をなめてかかってはいけないと思った。
P ハムの免許をとったときは,ほんとうにただ丸暗記しただけだったけれど, 計算だけでなく,理論的に,いや,図形的に説明されると,納得せざるを えなくて,変な感じ。コイルは直流しか通さない(低周波しか… の意味),コンデンサーは交流しか通さない,と覚えていた理由が,やっとハッキリしてうれしいです。
P スライダックの電圧が数ボルトしかないのに,コンデンサーとコイルの電圧が10Vを越えていてびっくりした。どうなっているんだろうか。
≪問5≫ 交流電源を使用した抵抗,コンデンサー,コイルの並列回路では,電源電圧が共通になります。電流の位相がどうなっているかを考えなさい。
[まとめ]
1 交流の学習は計算したり,図にかいたり,実測したり,オッシロスコープで見たりして進めます。
2 交流の直列回路では,電流の位相に対して,抵抗の電圧は同相,コンデンサーの電圧はπ/2遅相,コイルの電圧はπ/2進相になります。
3 交流の直列回路では,電源電圧の実効値は各電圧の実効値のベクトル和になります。
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