80.電圧と電流が相伴わない―――位相
[授業のねらい]
交流回路では,電源電圧と回路の電流の位相は必ずしも一致しません。
コンデンサーやコイルについても,両端の電圧と電流の位相は一致しません。
電圧と電流は相伴うものだと思うのが当然ですが,そうではないのです。
[授業の展開]
≪実験1≫ コンデンサーと抵抗の直列回路に電流計を入れて直流電源につなぐと,コンテンサーが充電されていく様子が電流計からよみとれます。
オッシロスコープ(以後,オッシロと略記する)に映してみるとその様子がはっきりします。たとえは,コンデンサー4μF,抵抗1kΩ,バッテリー6V,オッシロ5ms(タイムレンジ),0.1Vでその様子を見ましょう。放電の場合も見ておきましょう。
≪実験2≫ コンデンサーをコイルに変えて同じ実験をしてみましょう。オッシロに映すには,チョークコイル5H,抵抗1kΩ,バッテリー6V,オッシロ 5ms,0.2Vでその様子が見られます。 (図p124)
このコイルに流れる電流の強さと時間の関係はつぎのようになります。
コイルによる誘導起電力は V=−n・dΦ/dt でしたが Φ=n/l・iμSなので
V=−n^2μS/l ・di/dt n^2μS/l=L とおくと V=−Ldi/dt
上のコイルの回路にキルヒホフの第2則をあてはめると,電源の起電力をEとして
E−iR−Ldi/dt=0 E−iR=x とおくと i=(E−x)÷Rtで微分すると
di/dt=−1/R・dx/dt Lをかけると Ldi/dt=x=−L/R・dx/dt
これは積分できて,
−R/L∫dt =∫1/x ・ dx −R/L・t =loge x−loge k
ke^(−R/L・t)=x=E−iR
初期条件から t=0 で i=0 k=E Ri=E(1−e^(−R/L・t))
グラフを描いてみるとオッシロの図形と同じになります。上のことから,コンデンサーやコイルの交流回路では,電源電圧が変動するので回路の電流や負荷の電圧は,大きさや位相が複雑な関係になりそうなことが推察されます。
≪実験3≫ 交流を電源とした抵抗とコンデンサーの直列回路について,回路の抵抗とコンデンサーの両端から信号をとりだして,2チャンネル・オッシロでその波形をくらべなさい。
(1)抵抗(の両端)の電圧は回路の電流と同位相です。だから,オッシロで区別してみることはできません。このことから,抵抗の電圧の波形を電流の波形とみなします。
(2)図1の二つの波形は電流とコンデンサーの電圧の比較になっています。
しかし,2チャンネル・オッシロでは,アースが共通になっているので,信号の取りだし方は,たとえば図2のようになっています。したがってこの場合には,オッシロに映った電圧の波形は反転して読まなければなりません。直列回路では電流が共通なので電流を基準にして(したがって,オッシロの波形を変えないで考えることにします。
(3)図3のような二つの交流の波形では,右にずれている方が位相が遅れています。二つの波AとBの時刻 t1 における振動子の位置をくらべると,位相の遅速がわかるでしょう。時刻 t2 においても同じです。
(4)電源電圧の波形を見たいときには,信号を図4のように取りだします。この場合には,電源電圧は正しい波形がでています。したがって,波形を反転させなくてもよいのです。 (図p125)
≪実験4≫ 交流を電源とした,抵抗とコイルの直列回路において,コイルの電圧と電流の位相の関係をオッシロで調べなさい。
これは≪実験3≫と同じようにして比較します。オッシロの映像は図5のようになります。電圧は点線のように映るので反転して読みます。
≪実験5≫ 交流を電源としたコンデンサーとコイルの電圧の位相の関係を調べなさい。
≪実験6≫ 抵抗とコンデンサーとコイルの直列回路について,交流電源,抵抗,コンデンサー,コイルの電圧の位相関係を調べなさい。
“電圧と電流は相伴うものだと思っていた”と生徒の一人がいいました。
そのとおりです。生徒は電圧とは電流を起こすはたらきとして理解していて,オームの法則はその事実を物語っていると信じていました。
ところが,交流ではそうはいきません。電圧と電流の位相が違うことがあるのです。コンデンサーにたまる電荷は q=CV で,
q=∫idt=∫I0・ sinωtdt=−I0/ω・cosωt=−I0/ω・sin(π/2−ωt)
=I0/ω・sin(ωt−π/2)=Cv
v=I0/ωC.sin(ωt−π/2)=V0・sin(ωt−π/2)…@
すなわち,電圧の位相は電流の位相よりπ/2だけ遅れているのです。コンデンサーに流れ込む電流は,コンデンサーにたまっている電荷が最大,つまり電圧が最大になると,もうそれ以上,電荷は入り込めなくなって,電流は0になるので,両者の位相がπ/2だけずれていることは容易にうなずけます。
電圧と電流のグラフは図1のようになります。電流がプラスから減少して0になるときに,電圧は最大になります。電流のグラフは電圧のグラフよりπ/2だけ左に寄っています。つまりπ/2だけ進んでいることになります。なかにはグラフが右に寄っている方が進んでいると思っている生徒もいます。
コイルの場合には,インダクタンスの電圧と電流の関係はつぎのとおりです。インダクタンスLのコイルに発生する逆起電力v’と電流iの関係は、
v’=−L・di/dt=−L・d(I0 sinωt)/dt=−LI0ω・cosωt
コイルにかかる電圧Vはこの逆起電力とは逆位相なので,
v=LωI0・cosωt=V0・cosωt=V0・cos(ωt+π/2)…A
つまり,電圧の位相は電流の位相よりπ/2だけ進んでいます。グラフの位置関係は図5のようになります。電流の勾配が負でいちばん大きいときに,逆起電力は最大になります。逆起電力をひっくりかえした位置にある電圧と電流のグラフを比較すると,電流よりも電圧の方が左側にあって,位相は電圧の方が進んでいることがわかります。
いま,電源にコンデンサーだけがつながれた回路を考えると,コンデンサーにかかる電圧と電流の関係は図1のようになります。これを見ると,ロハおよびニホの範囲では,電圧の向きと電流の向きが一致しているので,電源が負荷に仕事をしていることになりますが,イロとハニの範囲では電流は電圧の向きとは反対に流れています。つまり,電源が仕事をされていることになります。この範囲では,それ以前に電源がした仕事がコンデンサーに静電エネルギーとしてたまっていて,それが電源に仕事を仕返しているのです。
トータルで考えれば,電源は仕事をしていないことになります。コイルの場合にも同じで,この種の負荷をリアクタンスといいます。
従来の抵抗Rとは異なった<ていこう>ということになります。電源と負荷が互いに反作用(react)しているという意味でしょう。
上の@とAの式 V0=I0・1/ωC V0=I0ωt から,
キャパシタンス(コンデンサー)のリアクタンスは Xc=1/ωC=1/2πf C
インダクタンス(コイル)のリアクタンスは XL=ωL=2πf L
たとえば,容量が 2μF のコンデンサーのリアクタンスは,関東では XC=1/2πf C=1÷(2π・50・2×10^(−6))=1600Ω となります。
容量が5H(ヘンリー)のコイルのリアクタンスは XL.=2πf L=1600Ωとなります。
電源と負荷がリアクトする関係は,水平に置かれたばね振り子の単振動に似ています。
この場合にもおもりにはたらくばねの力 f とおもりの速さ v
は「相伴わない」ことがわかります。力が最大のときには,速さは0で,力が0のときに速さは最大になり,力と速さの位相はπ/2だけずれています。力が電圧に,速さが電流に比較されます。fv と VI が,ともに仕事率を表しているのもよい対比を示しています。回路にはオーム抵抗があると発熱しますが,はね振動の場合にも内部に摩擦があると発熱します。
≪問1≫ 交流の並列回路について電圧と電流の位相の関係をいいなさい。
[まとめ]
1 交流回路では,抵抗の電圧は電流と同位相です。
2 交流回路では,コンデンサーの電圧は電流より位相がπ/2遅れています。
3 交流回路では,コイルの電圧は電流より位相がπ/2進んでいます。
4 交流の直列回路では,共通である電流の位相を基準にして考えます。
5 交流の並列回路では,共通である電源電圧の位相を基準にして考えます。
6 2チャンネルのオッシロで,位相の関係をみることができます。
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