79.単振動している電子―――交流
[授業のねらい]
乾電池や蓄電池から得られる電圧は一定していますが,家庭や学校に配電されている交流電源は,電圧が正弦波を描いて変動しています。どうして,そんな煩わしい電気をつくったのでしょうか。どんなメリットがあるのでしょうか。
[授業の展開]
≪実験1≫ 発泡スチロ−ルの箱のふたに,細いエナメル線を100回ほど巻いて大きなコイルをつくります。その両端を検流計につないでから,磁場で回転させると,検流計はどうなるでしょうか。コイルの端はねじれることになりますが,これは仕方がありません。
検流計が大きく振れるところはどこでしょうか。小さく振れるところはどこでしょうか。 (図p120-1)
磁束場Bの中に,回転できる面積Sの単巻きコイルがあります。コイルの面がと直交する位置を基準として,コイルの回転角をθとすると,コイルの面を通る磁束は, φ=BS cosθ コイルが等角速度ωで回転すると,
θ=ωt v=−dφ/ dt=−BS・d(cosωt)/ dt
=BSωsinωt=V0
sinωt (図p120-2)
vは変動する電圧,V0 はその最大値,ωは角速度または角周波数,f=ω/2π を周波数, T=1/f を周期とします。
これまで,直流の場合には電圧を V で表してきましたが,これからは,電圧の表現も多様です。
≪問1≫ この発電機から電流を外に取りだそうとするときには,導線がねじれないようにする工夫が必要です。そのような方法を提案しなさい。
コイルを回転させる代わりに磁石の方を回転させるという方法もあります。
このような交流では電圧が変動しますが,これを電源にして抵抗をつないだ回路をつくると,電圧に従って電流も変動します。そして,オームの法則はどの瞬間にも成立しています。 v=V0 sinωt=R i
家庭や学校に配電されている交流は,周波数が50〜60ヘルツで,これまで使ってきた直流のメーター類でこの動きを追いかけようとしても,変動が速くてフオローできません。
そこで,実用的には電圧や電流の平均値をとって,これまで使ってきた直流の理論が当てはまるように交流理論をつくろうというのです。それに従って,交流用の計器もつくります。
≪問2≫ 交流に関する,電気の諸量の平均値はどのように考えたらよいでしょうか。
電圧も電流も sinωt で変動します。
(1)正弦波を一周期について時間平均をとれば,これは明らかに0です。
計算してみると,
1/T∫(T→0)sinωtdt=1/T・1/ω〔−cosωt〕(T→0)=1/2π×〔−cosωT−(−cosω・0〕=0 これではだめです。
(2)では,半周期の平均ではどうでしょう。
(1÷T/2)∫(T/2→0)sinωtdt=2/T・1/ω[−cost](T/2→0)
=1/π[−cosω・T/2−(−cos)ω・0]=1/π(1+1)=2/π=0.637
最大値の約64%
これは電圧または電流の数学的な平均値ですが,私たちが電力会社から買って使っているのは,電気のエネルギーですから,それを表す電力量が合理的に算出されるように決めなくてはなりません。
(3)電力を基準にして平均値を決める場合には,負荷に流れる電流を I0 sinωt , その両端の電圧を V0 sinωt とすると,電力Pは
P=V0 sinωt ・ I0 sinωt=V0 I0 sin^2・ωt
つまり,sin^2ωt の平均値をとれば 1/T∫sin^2ωt dt (T→0)=1/T・1/2∫(1−sin2ωt)(T→0)dt
=1/2T[t+1/2ω・cos2ωt](T→0)=1/2
≪問3≫ y=1/2(1−sin 2ωt) のグラフを描いてみましょう。
y≧0 で y=1/2 より上の部分をけずって,下の部分を埋めることができるのがわかります。
(図p122)
このことから, P=V0 sinωt ・ I0 sinωt=V0 I0 sin^2ωt の平均値を,
P=V0 I0 /2=V0 /√2×I0 /√2=Ve・Ie
とします。交流電圧の最大値V0 及び交流電流の最大値 I0 の 1/√2 をもって,<平均の電圧><平均の電流>と評価すると,交流を直流と同じように取り扱うことができます。この値を交流の実効値といいます。
≪実験2≫ 発光ダイオードでは電流の流れる向きが決まっているので,交流電源につなぐと,半周期ごとに点滅します。 30kΩ程度の抵抗に発光ダイオードを直列につないで,交流(AC : alternating current)100Vで点灯しなさい。
点灯している発光ダイオードを素早く動かして,点滅の様子を見ましょう。
2本の発光ダイオードを並列にして逆につなぐと,交互に点滅するのがわかります。
≪実験3≫ オッシロスコープ(以後,オッシロと略す)で交流の波形を観察しなさい。
≪問4≫ 電流の作用として,熱作用,磁気作用,化学作用があることを学びました。直流と交流とでは,この3作用についてはどう違うでしょうか。
交流は発電が容易で,送電にメリットがあります。モーターにも特徴があるものができます。そして,やがて周波数が大きくなると,電磁波が空間に飛ひだすという「事件」も起きます。
≪問5≫ 交流では回路のなかの電子がどのような運動をしているかイメージしてみましょう。
導体中の電流は自由電子の運動ですから,電子は単振動をするのでしょう
が,原子に衝突したりするので,これを想像するのは難しいことです。もちろん,個々の電子が回路全体にわたって振動しているのではありません。
≪問6≫ 家庭や学校に配電されている交流は電圧か実効値で100V,周波数は関東で50Hz,関西で60Hzです。関東から関西に(または,その遂に)引っ越しをした場合,家庭の電気器具でトラブルを起こすと思われるものは何でしょう。
電子レンジはダメなようです。 モーター類は回転数か変わるので困ります。
タイマーが使われているものは具合が悪いでしょう。レコードプレーヤーはプーリーを交換しただけですむかどうか。洗濯機は使えないことはないそう
です。蛍光灯は切れやすくなるといいます。もっとも,40kHz以上に周波数変換した<インバーター照明>ではその心配はありません(以上は,近くの電気屋さんから聞いた話です)。
九州で回転磁界の実験をしたとき,回転の様子が違うことに気づきました。
交流から直流をつくる装置をコンバーターといい,その逆をインバーターといいます。(convert:変える,invert 逆にする)
≪問7≫ この両方を使うとなにができますか。
[まとめ]
1 交流は直流にくらべて発電か容易です。
2 交流は変圧が容易なので,送電に有利です。
3 実効値を使うと電力に関して直流と同じ量的扱いができます。
4 交流の周波数は関東では50Hz,関西では60Hzです。
5 交流を直流に,直流を交流に変えることができます。
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