78.クリツプモーター進化論―――モーター
[授業のねらい]
電磁力をたくみに利用してメーターやモーターがつくられています。クリップモーターという教材がはやったことかありますが,現在でも優れた教材であることは間違いありません。クリップモーターをつくりながら,モーターの原理を考えます。
[授業の展開]
まず,クリップモーターの特徴は,
(1) 電機子はエナメル線を軽く巻いたもので,
(2) 電機子の両端を,一方は全部のエナメルをはがし,他方は半分だけはがすことで整流子のはたらきをさせる。
(3)その支柱は,ゼムクリップの一部を伸ばして,セロテープで簡単な台にとりつけたもので,名前はここに由来する。
(4)電源は乾電池1個。
(5)界磁はドーナツ形フェライト磁石など,磁石なら何でもよい。
優れた教材は,それが使われて広まるにつれて,「進化」するというのが一般です。このクリップモーターもそのような教材でした。
まず,クリップモーターの機構をみておきます。
普通のモーターでは,電流が電機子へ出入りする口を半回転ごとに逆にして,電磁力が同じ向きにはたらくようにつくられていますが,クリップモーターでは電流を半回転ごとに断続して,回転の半分を慣性に委ねています。
つぎに,クリップモーターの進化の過程をみてみましょう。
まず,電機子の部分です。
出張の日の自習課題にこれを課し,簡単な説明書きと材料を与えました。
生徒の作品は,説明書きにあったとおりに律義につくられたもののほかに,方形のもの,星形のもの,三角形のもの,ソレノイドコイル形のもの,梅の花形のもの,いいかげんにまいたもの,など多種多様でした。方形のものも縦方向に長いものと,横方向に長いものとでは回り方が違います。前者はゆっくり,後者は素早く回ります。電機子の大きいものはゆらゆら回り,小さ
いものはくるくる回る傾向があるのも当然,これらは慣性モメントの学習にも利用できそうです。
世界でいちばん小さいモーターをつくろうということで,細いエナメル線の一巻きをセロテープに張りつけた電機子をつくったことがあります。
その内部にセルをもった方形のものは,やがては円形のものになって,磁性体のモデルになるのではないかと思っています。(p.99の図参照)
整流子の部分についても,いろいろに変化していきました。Ω形のものを二つつくり,その一方は両端ともエナメルを全部(外側だけでも同じ)はがし,他方はエナメルをはがさないまま,二つを対称的に取りつけたものです。これを2Ω半波形と呼ぶことにします。Ωの半分はバランスをとるおもりの役をしているだけです。
このタイプは,前者の半分だけでも,少々バランスが悪いにしても回ることはおわかりでしょう。これは1Ω形です。
つぎは,Ω形のものを二つつくり,二つとも両端の外側のエナメル線をはがして対称的にとりつけたものです。これは,コイルには,常に電流が流れているので,整流子としては完全なものです。これは2Ω全波形とでもいっておきましょう。 (図p117) 注:図の…の部分は皮膜を剥いてある
エナメル線の半分をむく代わりに,全部むいてしまってから,半分だけ油性の修正液を塗って絶縁性にしても同じことです。
ついでにいうと,電機子の両端を全部むいてしまったものでも,そのときの調子で回転を続けることがあります。でも,回転は不安定で,途中て回転の向きが変わったりします。電機子に「とまどっている」様子が見えたりして,おかしなものです。
電源と界磁の部分にも簡素化の工夫があります。円筒曲面をもった小型のフェライト磁石を抱かせた乾電池の両極に,銅線の支柱をはんだづけしたものです。これの1Ω形はもっとも簡単なモーターでしょう。
モーターは半回転ずつで電流が流れたり流れなかったりすればよいので,交流を半波整流して使用すれはよいわけです。50サイクルで同調すれば回ることになります。そのためには,電機子の慣性モメントを小さくし,軸受けのところも速い回転に耐えるように注意してつくってみました。うまくやれば回りますが,まだまだ考慮の余地があります。ストロボで,50ヘルツに同調しているのを調べてみましょう。
さてつぎは、磁界もコイルにしようというタイプです。電機子と磁界の両者を並列にしても、直列にしてもできそうです。
さらには、電機子として磁石を回そうというタイプのものがあります。磁界にはコイルを使います。「電機子」は小さい円筒形(穴あきでもよい)フェライト磁石に銅線のシャフトをつけて整流子にすることは、今までのものと変わりはありません。
磁界・電機子の組を,磁石・コイル,コイル・コイル,コイル・磁石,と紹介してきましたが,磁石・磁石の組み合わせは無理のようです。 (図p118-1)
整流子を作るときに,エナメル線をむく向きによっては、別の教材に変身します。磁石をセットしないでおいて,磁石を手でもって電機子のいろいろな位置にもっていきます。その位置によって,電機子は右にも左にも回り,場所によっては回りません。
市販の小形モーター(例えば,マブチ130)をばらして,磁石以外の部分を,その内部が見えるようなアクリルのパイプの中にセットします。パイプの外から磁石を近づけると多彩な回転をします。右回転,左回転,速い回転,遅い回転,磁石の位置によっては回転しません(千葉の大村吉郎さんのアイデアです)。
半モーターという呼び名はいかがでしょうか。
(図p118-2)
クリップモーターの特徴は,電流か断続していることです。それならば,それを利用してみようと,モーターと並列に変圧器とネオン球をつないでみました。ネオン球は見事に点滅しました。電源は単1乾電池です。ネオン球は電圧が80Vくらいないとつきません。 自己誘導で,それ以上の電圧がでているのでしょう。
発泡スチロ−ルの台に突き刺されたクリップに支えられて,クルクル回りつづけているモーターは,机の下にドーナツ形のフェライト磁石が隠されているのに気がつくまでは,まったく不思議な光景です。
生徒の作品のなかにも,発泡スチロールのブロックの中に,小型の磁石を埋め込んでスマートにつくられたものがありました。
≪実験1≫ クリノプモーターを工夫してつくりましょう。
≪実験2≫ 本格的なモーターをつくってみましょう。
どの学校にも,壊れたメ−ターがあるはずです。これを分解してそのメカを調べてみましょう。
メーターは回転しないモーターです。モーターは回転するメーターです。
[まとめ]
1 モーターは,電機子,整流子,界磁からなっています。
2 クリップモーターには整流子の部分に工夫があります。
3 モーターもメーターも電磁力で動きます。
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