77. 自然は変化を好まないか―――電磁誘導
[授業のねらい]
“コイルに流れる誘導電流は,コイルを貫く磁束の変化を妨げる向きに磁束を発生するように流れる” ことについて,種々な観点で眺めてみます。
[授業の展開]
2本の金属棒を導線でつないでコの字形にして,その開き口を右に向け,別の金属捧でロの字形に横切った回路をつくり,鉛直上向きの磁束場Bに水平に置きます。回路の各部を図のようにア,イ,ウ,エとします。
≪問1≫ 回路のウエの間に電池を入れて電流をアイの向きに流すと,金属捧はどちら向きの力を受けるでしょうか。 (図p112)
電流の向きをイアの向きにすると,金属棒はどちら向きの力を受けるでしょうか。
左手則で指の方向と向きを見れば,はじめの場合には,金属棒は右向きの電磁力を受け,あとの場合にはその逆向きの電磁力を受けることがわかります。
≪問2≫ 電池をはずしてから金属棒を右向きにスライドさせると,回路にはどちら向きの電流が流れるでしょうか。
答えは,イからアの向きです。当然のことながら,金属棒を左向きヘスライドさせると,アからイの向きの電流が得られます。
≪問3≫ どのように考えたかを述べなさい。
生徒の考えをまとめておきます。
(1)金属棒の中の移動できるプラスの荷電粒子―仮想のプラス電子―を考えます。金属棒が右に移動するときには,この電荷による電流が右向きに流れることになるので,左手で確かめると,これにはたらく力はイアの向きで,これが電流になります。金属棒の中の移動できる荷電粒子は,実際にはマイナスの電予ですが,結果は同じことになります。
(2)あまり「おすすめ」ではあませんが,<電磁誘導はフレミングの右手の法則>というのなら,右手の指をだして,第2指を上向きに(Bは変わることはありません),第1指を金属の運動の向きにすると,第3指の向きであるイからアが電流の向きです。
(3)金属棒の場所では,Bは左向きに運動するので,この速度をvとすると,Bベクトルから,vベクトルに右ねじを回すときに,ねじの進む向きが電場Eの向きです。これによって力を受けた電荷が電流としてイからアの向きに流れます。電場の強さは E=Bv この電場はアイの間に存在しているので,そこに発生する電圧は V=E×l (lはアイの長さ) となります。
(4)回路のアイの長さをa,イウの長さをbとすると,
v=db/dt E=Bv=Bdv/dt
V=Ea=B・(△b/△t)・a=B・△S/△t=△φ/△t
ただし,Sは回路が囲む面積,φは磁束です。電流による磁束の発生とは逆向きになっているので,その意味も含めて V=−dφ/dt とします。
上向きの磁束場を<竹の子場>と呼ぶことにします。 ↑↑↑↑が竹の子に似ているからです。竹の子場は金属棒で刈り倒されると,直角に倒れて電場になります。右手で刈る(金属棒が右から左へ動く)とBは向こう向きに倒れます。電場Eは向こう向きということです。
(5)金属棒が右に移動して発生する電流がアイ向きであったとすると,この電流はB場から電磁力を右向きに受けるので,ますます運動が「加速されて」しまいます。これはエネルギーの保存則に反します。
手が金属捧を右に移動させることで発生させた誘導電流は,この誘導電流にはたらく左向きの電磁力に逆らって手が仕事をした結果なのです。
回路の抵抗をRとすると,電気が負荷にする仕事率Pは, P=V^2/R 外力がした仕事率は fv=IaB・v=I・dφ/dt=IV=P (生徒の記述終り)
(4)の関係で,回路の中の磁束を変化させるのには,磁石を運動させてもよいことに気がつきます。
閉じたコイルに磁石のN極を近づけると,コイルの中の磁束が変化するので,コイルに沿って誘導起電力Vが発生します。 V=−dφ/dt n巻きのコイルであれば, V=−n・dφ/dt となるのは,重ね合わせの原理から当然です。この関係をファラデーの法則といい,つぎのように記述されます。
I コイルを貫く磁束が変化すると,コイルに誘導起電力が生じる。
U 誘導起電力の大きさはコイルを貫く磁束の変化の速さに比例する。
V 誘導起電力は誘導電流がつくる磁束がコイルを貫く磁束の変化を妨げるような向きに生じる。
≪実験1≫ 閉じたコイル(ビール缶を輪切りにしてもよい)を糸でつるしておきます.これに,磁石を近づけるとコイルはどうなるでしょうか。
コイルは逃げます。逆に,接近させておいてから遠ざけると,コイルはいっしょについてきます。コイルの磁石側には,磁石が近づいていくときには同極が,離れていくときには異極がてきて(鉄芯はなくてもよいことを強調します),このような力がはたらくことになります。この力に逆らって,磁石を動かす仕事が電気エネルギーに変化したのです。 (図p114)
コイルの代わりに金属の板でも同じことが起きます。コイルの中に流れたのと同じように,金属に同心円状の電流が流れます。これを渦電流といいます。
自然にはかなり融通性があるのです。
≪実験2≫ アルミホイルを糸でつるして,その近くで磁石を運動させてみましょう。アルミホイルの代わりに一円硬貨ではどうでしょうか。一円硬貨を水に浮かべたらどうでしょうか。
≪実験3≫ ワルテンホーヘン振り子の実験をみてみましょう。
≪実験4≫ 金属の方が固定されている場合には,強い磁石を使うと,磁石の運動が妨げられるのがわかります。円筒状のネオシム磁石を厚めの銅板の上を滑らせてみましょう。また,静かに落としてみましょう。
≪実験5≫ 磁石を,あまりすきまのできないほどの直径をもつ,アルミパイプの中で落としてみましょう。ネオシム磁石を2個重ねて落としてみましょう。パイブを斜めにして落としてみましょう。落ちるときの様子を上からのそいてみましょう。
ネオジム磁石は直径15 mm, 高さ6mmのものが,2個2000円程度で入手できます。アルミパイプは,内径16 mm, 外径18 mm, 長さ1000mmのものが数百円で入手できます。
≪実験6≫ アルミの鉛筆サックを真鍮棒に差して鉛直に立て,鉛筆サックの周りに磁石を回転させてみましょう。
アルミの鉛筆サックが手に入らないときには,コンテンサーを壊して,そのケースを使います。これでモーターができませんか。
物質の磁性を調べてみましょう。割り箸の中央をナイロンてぐすで吊って,その一端に磁性を調べようとする物質を固定します(セロテープで軽く止めておく)。反対側には適当なおもりをつけて,割り箸を水平に保ちます。目的の物質に,ネオジム磁石をゆっくりと近づけていきます。反磁性のものは反発され,常磁性のものは吸引されることがわかります。
空気の動きによっても,割り箸の運動は影響を受けるので,静かな場所で実験します。装置をプラスチックケースの中にセットして,外から,鉄の針金の先につけたネオジム磁石を「マジックハンド」のように操作させました。
アルミニウム,銅,亜鉛などの金属,食塩など塩,水(水をつけた脱脂綿をとりつけました),アルコールなど分子性物質,鉱物,その他,いろいろやってみましょう。 (図p115)
≪問4≫ この実験で,アルミの一円硬貨をつるして,磁石を近づけたらどうなったでしょうか。磁石を遠ざけたらどうなったでしょうか。
アルミニウムは常磁性だから磁石についてくると思っていましたが,磁石の運動が速いと,一円硬貨に誘導電流が流れて,磁石を近づけると逃げ,遠さけるとついてきました。
このことから,物質がその内部に電流を流す空間をもっていたと仮定したら,すべての物質が反磁性を示すことになりそうです。
ちなみに,AI,Mgは常磁性,Cu,Znは反磁性です。酸素はかなり強い常磁性で,液体酸素は磁石によく吸いつきます。糸でつるしたネオジム磁石が液体酸素に吸いつけられるのは作用反作用の関係で,この方が力のはたらきがよく見えます。水素は反磁性,水も反磁性です。
ファラテーの法則のVは,1834年にレンツによって唱えられたもので,レンツの法則とも呼はれます。もとの状態を保とうとする傾向は,物質の慣性にも見られ,化学で,ル・シャトリエの法則にもみられます。ネガティブなフィードバックがかかっているという状態は,自然のなかに多く見受けられます。外部からの変化に逆らう傾向は自然の一般性のように思われます。
[まとめ]
1 電磁誘導はいろいろな観点て理解できます。
2 ひと続きの導線でなくても,導体の中に回路ができて誘導電流が流れます。
これを渦電流といいます。
3 すべてのものが磁性をもっています。
4 自然には変化に逆らう傾向がみられます。
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