76. 発光ダイオードをつけよう―――誘導起電力
[授業のねらい]
電荷に力を及ぼす電場,運動する電荷に力を及ぼす磁束場とみてくると,電場と磁束場とのあいだにも関係がありそうに思われます。電荷の運動には相対性があるので,場の運動にも相対性があるかもしれません。
[授業の展開]
磁束場は運動している電荷に力を及ぼすことを知りました。ローレンツ力です。それでは,水平な磁束場に帯電した小物体を落としてみれば,小物体は鉛直方向から横へずれるかもしれません。しかし,実際には,この実験はうまくいきません。
そこで,水平な磁束場に直交して,水平に張った導線を鉛直方向へ運動させてみます。導線の中には動ける電子があるので,上の実験と同じことをしたことになります。電子が運動しやすくするために,回路を閉じておきます。もちろん,電源は使用しません。
≪実験1≫ このようにして,回路に電流が流れるかを確かめてみましょう。定量実験が困難であれば,定性実験でもよいでしょう。
凸形磁石(普通のU形磁石でもよい)を立てておいて,極のあいたに水平に張った導線を等速度で動かし,4秒間で電極のあいだを通過させて,「ロ−レンツ力」に関する大きさ,つまり起電力を測定します。電圧計は横河のエレクトロニツク検流計を使います。この検流計の最小目盛りは10μVです。電極の長さと幅はどちらも5cmです。ある班の実測値は,
v=5.0/4.0=1.5cm/s B=0.19Wb/m^2 l=5.0cm
V=150, 100, 140, 120, 120μV 平均値 V=130μV
計算値 V=vBl=1.5×10^(−2)×0.19×5.0×10^(−2)=140μV
等速で,しかもきまった時間で磁石を通過させるのはむずかしい作業です。
この実験をしていると,導線ではなく,磁石のほうを動かす班が出てきます。
その場合には,電荷は静止していたのですから,その電荷に力がはたらいて動きだしたとなれば,電場が発生したことになります。
ロ−レンツ力の関係はつぎのように表わされました。
F=Il・B @ F=Qv・B A f=qv・B B
@の式は電流のある導線か磁束場から受ける力を表しています。
Aの式は動いている電荷が磁束場から受ける力を表しています。
Bの式は運動している荷電粒子が磁束場から受ける力を表しています。
いずれにしても,磁束場は動いている電気に力を及ぼす場であったのです。
しかし,ここでは上の関係を別の視点て眺めてみましょう。
たとえば,Aの式をつぎのように変形してみます。 F=Qv・B=Q・vB
つまり動いている電荷 Qv が磁束場Bから力を受ける(F=Qv・B)とみるのではなくて,静止している電荷Qが動いている磁束場Bから力を受ける
(F=Q・vB)とみるのです。待ってください! 電荷Q(この場合は静止している電荷)が力を受ける場は電場Eだったはずです。とすると,動いている磁束場Bは電場Eと同じもので,その大きさが vBであるということになります。もっとはっきりいってしまえば,運動する磁束場Bは電場Eに変身したのでしょう。これを誘導電場といいます。ただし,QvのvはQの移動する速度てすが,vBのvはBの移動する速度ですから,区別しなければなりません。方向は同じですが,向きが反対になります。誘導電場の場合には vB=E C (これは−v×B=E と外積で書かれるときの順に並べてあります)
また, El=V V=Bvl D
≪実験2≫ 上の実験で V∝v V∝l V∝B を確かめましょう。
磁石の内部にある導線の長さ l を加減するには,導線の一部を磁束場の横へはみださせ,吸い込まれないように鉛筆で軽くおさえて,調節します.
導線を移動させる距離をh,その時間をt,磁束場の磁束密度をB,誘導電場をE,発生した電圧をVとすると,
E=vB=(h/t)B V=El=l(h/t)B=(S/t)B=φ/t E
φ=BS F
Sは導線が掃いた磁束場の面積で,φは導線か掃いた磁束となります。誘導電場による電圧の発生を誘導起電力といい,これによる電流を誘導電流といいます。
≪実験3≫ 上の実験で,磁石を固定しておいて,導線の方を動かしてみましょう。
≪問1≫ こちらの方が実験は容易で,まったく同じ結果がでますが,意味が違います。どのように違うかまとめておきましょう。
導線を水平にして,鉛直上方へ引き上げたものとしましょう。導線の中の自由電子は移動するので,磁束場からロ−レンツカを受けることになります。この場合,ロ−レンツカは水平方向にはたらきます。導線は水平に張られているので,その結果として導線に電流が流れます。
昔の教科書では,電磁力(モーター)にはフレミングの左手の法則を,誘導起電力(ダイナモ)にはフレミングの右手の法則を充てていました。
電流(I)は磁束場(B)から力(F)を受けますが,このBとIとFの方向と向きに関する法則(覚え方)がフレミングの左手則です。磁束場(B)の中て,導線(回路をつくっている導線の一部)に力(F)を加えて運動させると,導線に電流(誘導電流)が流れますが,このBとIとFの方向と向きに関する法則(覚え方)がフレミングの右手則です。
後者の場合,運動する導線の中のプラスの電気(プラスの自由電子をイメージします)を考えると,これは導線とともに運動して電流(I)となるので,導線に及ぼした力(F)の方向と向きは,じつは電流(I)の方向と向きであったのです。言い直すと,右手則の力(F)は,左手則の電流(I)に相当します。それと同時に,この運動するプラスの電荷に及ぼされた力(F)
によって導線の中に電流(I)が流れたのだから,右手則の電流(I)は左手則の力(F)に相当します。このように,左手則と右手則ではFとIが逆になっています。
フレミングの法則の格好をさせた両手を,第2指を上にして目の前に対応させて置き,第2指を上にしたまま,右手を90度ひねると,その関係がわかります。
E,Fの関係について考えてみましょう。
ちょうど電荷のときと同じように,磁石からも磁束(線)がでていて,その密度で磁束場の強さを表すことにしてみましよう。φWb(ウェーバー)の点磁極(棒磁石の先端を考えましょう)からφ本の磁束が,周囲の空間に等方的にでているものとして,rの距離における磁束密度Bを考えるとB=φ/4πr^2 その近傍の小さい面積△Sを貫く磁束△φは △φ=B・△S
もっと広い空間について考えたいときには ∫BdS=∫dφ とすればよいでしょう.
ところで,Eの式を見ると V=φ/t となっていて,この右辺は導線が単位時間に磁束を横切った数を表しています。誘導起電力より誘導電流の方がわかりやすいので,検流計をつないた回路の導線で磁束を横切らせてみましょう。
≪実験4≫ いろいろな方法を考えて,導線で磁束を横切ってみましょう。
導線をコイル状にしてn回重ねておくと,1回の運動で磁束をn回横切ら せることができます。
@の関係 φ=BS からは,コイルをつぶしてもよいことがわかります。
コイルを回転させてもよいでしょう。
いろいろな方法で誘導起電力を発生させてみましょう。
(1)細いエナメル線を400〜500回程巻いたコイルに, 磁石の極を出入りさせると,発光ダイオードを発光させることがてきます。
(2)長さが20cm,内径が2cmの塩ビのパイプの外側に,0.6mmのエナメル線を1000回程度巻いてパイロソトランプをつないで回路を閉じておきます。パイロットランプに棒状のアルニコ磁石(B=0.2T 程度のもの)を素早く出し入れするとパイロットランプがつきます。 (図p111-1)
(3)外径が5〜6cmのドーナツ形フェライト磁石にたこ糸を結んで,ブンブンごまのように回すと,激しくφが変化することになるので,これを利用してコイルにつないた発光ダイオードをつけることができます。
(4)コイルに発光ダイオードをつないでおいて,これをブソブンごまのように回して,磁石に接近させてもよいのです。 (図p111-2)
(5)発光ダイオードを光らせる代わりに圧電フザーを鳴らすこともできます。
磁束計は針をもとにもどすばねがついていない電流計です。コイル(探りコイル)がセンサーで,ここに出入りしたフラックスの変化に相当する電圧Vに比例した速さで,時間△tだけ針が動いて止まるようにつくられています。
(△φ=V・△t)
[まとめ]
1 磁束揚が運動すると電場が発生します。
2 フレミングの法則は左手モーター・右手ダイナモということになりますが,
荷電粒子で考えれば,左手に統一できます。
3 いろいろな方法で発光ダイオードを光らせることができます。
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