74. 磁気と電気を比べると―――磁性体
[授業のねらい]
電場に置かれた誘電体が分極するように,磁束場に置かれた磁性体は分極します。両者を比較しながら,類似点と相違点を考えます。
[授業の展開]
≪問1≫ 電場に置いた誘電体の分極について復習しなさい。
真空中で極板が単位面積の平行平板コンデンサーを考えます。これがV0 Vで充電されてQ0 Cの電荷がたまっています。Q0 Cの電荷からは Q0 本の電束線が出ていて電束(線)密度は D0=Q0 /1 C/m^2 単位面積で考えているので,電束密度と電束は同じ D0 で表わされます。
電場の強さEとの関係は E0=D0 /ε0=V0 /d (dはコンデンサーの極板間隔)
(1) 電源をつないだままにして,コンデンサーの空間に誘電率
ε=ε0εrの物質を挿入します。εr は比透電率です。 @
たまる電荷 Q はεr 倍になって,電束Dもεr 倍になるはずですが,誘体が誘電分極して,そのうちの D0(εr−1) 本を打ち消してしまいます。 A
生き残って電場をつくる電束は,はじめと同じ D0 本で,これがはじめと同じ電場 E0 をつくっています。電圧が変わらないので,電場も変わりません。 E0=V0 / d
B
まとめると,誘電体の誘電分極を P C / m^2 とすると D−P=ε0E0 =D0
D0 は真空の電束,誘電体があるときにはそのすきま(真空部分)の電束で,Pは誘電体中の物質部分の電束です。
D(=ε0E0+P) は誘電体(全体)の電束です。 C
≪問2≫ コンデンサーを電源から切り離したあとで,誘電体を挿入したらどうなりますか。
(2) 電源を切り離してからコンデンサーの空間に,誘電率 ε=ε0εr の物質を挿入します。 @’
電荷 Q は Q0 のままなので,電束 D0 も変わりませんが,誘電体が誘電分極してそのうちの D0(ε0−1)/εr 本を打ち消してしまいます。 A’
生き残った電束は D0−P=D0−D0(εr−1)/εr =D0/εr
これが誘電体中の真空部分に電場 E をつくります。
ε0E=D0 /εr D0=ε0εrE=εE 電圧が V=V0 /εrに下がったので,電場も E=E0/εr と弱くなっています。
B’
まとめると, D0 /εr これは誘電体中の真空部分の電束で,これが電場をつくります。
P=D0(εr−1)/εr は誘電体の物質部分の電束 D0(=ε0E+P) は誘電体(全体)の電束
C’
磁性体の場合にはどうでしょうか。
磁性体が磁場に置かれたときにも,同じようなことが起きます。この場合にも単位面積で考えます。磁性体は磁気分極M(磁化ともいいます)を起こして,その原子は磁場の向きに配向します。
ここで磁力線と磁束(線)の違いを明確にしておきます。磁力線はその密度で磁場 H の強さを表し,磁束はその密度で磁束場 B の強さを表します。
真空中では μ0H=B なので,Hの10^6本(μ0=1.26×10^(−6)がおよそ B の1本になります。もっとも,この数え方には任意性があります。
したがって,μ0H は束ねておいて1本と数え,B と同等に扱うことにします。
磁場H(μ0H=B0)の真空空間に磁性体を持ち込みます。磁性体は磁場Hで磁化 M をつくります。磁化は磁性体の中の物質部分を通る磁束と考えてよいでしょう。数え方も磁束と同じです。たとえば μr=10 の磁性体では μ0H=B0=1 本(以下,電束,磁束を表す数値は本とする)の磁場
H でM=9 の磁束をつくります。全磁束 B は B=B0+M=μ0H+M=μH=μ0μrH=10 μ0H は磁性体の中の真空部分を通って,周囲の磁性体の原子を並ばせて9本の「原子磁石」をつくったというわけです。(図p101)
電気の場合には,誘電体を持ち込んでも(電源から離した場合)電荷は不変なので電束は変化しませんが,その代わりに電場 E は弱くなっています。
磁気の例にならえば,真空中では電束の1本は電気力線の10^11(ε0=8.85×10^(−12))相当です。いま, D0=ε0 E0=10 とします。ここに εr=10
の誘電体を挿入すると,分極 P を起こして10本の電束のうちの9本を打ち消し,残った1本が電場 E をつくります。分極 P も電束として扱って,D0−P=ε0E=1 D0=ε0E+P=ε0εr E=εE 電場の強さが1/10 になります。電気の場合にはプラスの電極(電荷)からでた電東は,マイナスの電極(電荷)に到達して,コンデンサーの外にでることはありません。
(一部の電束は誘電分極で打ち消される)が,磁気の場合には,配列した磁性体の両端の磁化は打ち消されないので,磁束
B は外を通ってつながることも可能です。
また,電気の場合には E がなくなると P もなくなりますが,磁気の場合には外部からの磁場 H がなくなっても,磁化 M が残って永久磁石になるということです。しかも,B の一部は磁性体の内部の空間(真空部分)を通って他方の極に到達するので,ここに磁場 H
をつくります。磁性体の内部では M とは逆向きの磁場 H ができるというおかしなことが起きます。
以上のことをまとめると,表のようになります。 (表p102)
≪問3≫ 強い永久磁石をつくるには,どのような配慮がいりますか。
磁化の大きい材料を使うとか,飽和近くまで磁化するとかいうことのほかに,逆磁場μ0H’を少なくするために長い磁石をつくります。また,μ0H’をなくすために,磁性体をリング状にするなどして磁束場の閉回路をつくります。しかし,これでは磁石としての役割を果たさないので,その一部に適当に間隙をつくります。
ヒステリシス(hysteresis 磁気履歴)曲線をオッシロに描きだすことができます。
(図p103)
鉄のような強磁性体では,外部磁場 H がなくなっても B が残りますが,変化の途中でも B と H は比例しません。つまり,μが変化するのです。
H‐Bのグラフをヒステリシス曲線といいます。1サイクルしたときのヒステリシス曲線の面積は,磁性体の単位体積について,磁場がした仕事を表しています。これは試料中に熟となって発散してしまい,履歴損失といいます。
≪問4≫ 変圧器の鉄芯には,どのようなヒステリシス曲線の鉄を選べばよいでしょうか。永久磁石の鉄はどうでしょうか。
変圧器の鉄芯などには,この面積の小さい材料を選び,永久磁石にはこの面積の大きい材料を選びます。
≪問5≫ ヒステリシス曲線の縦軸切片,横軸切片はなにを意味しているでしょうか。
縦軸切片 Y を残留磁化といい,文字どおり外部磁場 H が0になったときの磁化 M を表し,横軸切片 X を保磁力といい,磁化 M が0になるように逆にかけた外部磁場
H の値を表します。前者は磁石の強さを,後者は磁石のしぶとさ(磁化の失われにくさ)を表わしています。
[まとめ]
1 磁場におかれた物質は分極します。磁気の分極を磁化といいます。
2 外部磁場がなくなっても磁化が残る物質があります。
3 ヒステリシス曲線から,磁性体の性質がわかります。
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