73. 電束が運動すると磁束に変身する―――ビオ=サバールの法則
[授業のねらい]
直線電流がつくる磁束場に続いて,「曲線電流」がつくる磁束場について考えます。
[授業の展開]
むかしは,「電界」は電荷がつくり,「磁界」は磁気がつくる,と考えられていたので,電気と磁気の理論が同じ形につくられました。
(1)点電荷 Q からは Q 本の電束が出ていて,r の距離に電束密度
D=Q / 4πr^2 をつくり,電場の強さ E を εE=D のように表して
E =Q / 4πεr^2
ただし,εは空間の性質によって決まる定数で,誘電率という。
テスト電荷 Q’は E から F=Q’E の力を受ける。 F=QQ’/
4πεr^2
これが電荷(電気)に関するクーロンの法則です。
(2) 点磁荷φからはψ本の磁束が出ていて,rの距離に磁束密度
B=φ / 4πr^2 をつくり,磁場の強さHを,μH=B のように表して
H=φ / 4πμr^2
ただし,μは空間の性質によって決まる定数で,透磁率という。
テスト磁荷φ’は H から F=φ’H の力を受ける。F=φφ’/
4πμr^2
これが磁荷(磁気)に関するクーロンの法則です。
しかし実際には「磁界」をつくるのは磁荷ではなく電流であることから,電流がつくる磁場 H から磁束場 B を決め,B から磁荷φを「決める」ことにしました。
(3)電流Iは r の距離に,磁場 H=I / 2πr をつくります。磁束場
B とは
B=μH でつながっていて B=μI / 2πr
磁荷φを磁場 H に置くと,φは磁場 H から F=Hφ の力を受けます。
先に生徒が<犬のお散歩>で遊んだ力がこれです。この力で,磁荷を磁力線に
沿って一回りさせると,電流は W=F・2πr=Hφ・2πr=Iφ の仕事
をすることになります。φ / t=V(後出)を考え合わせると Iφ=IVt=QV
となっていて,つじつまが合います。
電流がつくる磁場 H において,電流をとりまく任意のコース
s で,Hs(∫Hds)という量を考えます。これを磁場 H の線積分といい,この値は電流Iに等しくなることは学習ずみです。
生徒の感想
P はじめウニのように電束が生えていた電子が運動して電流になると,試験管ブラシのような電束に変わり,これがバウムクーヘンのような磁束に 変化するなんて,おかしなことです。
P 磁場 H に磁荷φをおくと磁荷は磁場から Hφの力を受け,この力に沿って s の距離だけ磁極を動かしてHds の仕事をするのですが,あらかじめ Hs だけを計算しておくなんて,うまいことをやるものです。線積分の意味がわかりました。
むかしは,二つの電荷のあいだにはたらく力の大きさで電荷の量を決めていたのですが,現在では,二つの電流のあいだにはたらく力の大きさで電流の量を決めています。
≪問1≫ 2本の平行な導線に電流を流します。同じ向きの電流ではどんな力がはたらきますか。逆の向きの電流ではどんな力がはたらきますか。
同じ向きの電流で考えます。電流Iと電流I’'がrの距離で平行に流れていることにします。 電流 I が電流 I’のところにつくる磁束場
B は B=μ0 I / 2πr ただし,μ0 は真空の誘電率。I’の流れる長さlの導線が,この B から受ける電磁力は F=μ0 I I’l/2πr この関係を基準にして電流の値を決めます。つまり,同じ値の電流 I=I’ が距離 r=1m
の距離にあって,一方の導線の長さ l=1m の部分が F=2×10^(−7)N
の力を受けるような電流を I=I’=1A と決めます。
こうすると μ0=4π×10^(−7)N/A^2 となります。
自然定数であるはずの真空の透磁率が,このような形の定数で表されるのは,この電磁気の体系がその途中において,結果を踏まえて整理されたからです。
任意の曲線に沿った導線の電流が任意の点につくる磁束場については,ビオ=サバ‐ルの法則があります。
導線を微小部分に区切った各区間の電流がその点に及ぼす効果を重ね合わせるという考え方をします。そのためには,各区間の電荷が運動するにつれて,その電荷がつくる電束が運動することで「変身した」磁束を計算します。
電流Iが流れている導線の △l の部分かつくる電束 △D が v で運動して P点に
つくる微小な磁束場 △B は,導線のその部分から点 P までの距離を r,その点における導線の接線と点 P への線分のなす角をθとすると, (図p98-1)
△B=μ・△D・v(⊥)=μ・(△Q/4πr^2)・v・sinθ=μ・(I △l/4πr^2)・sinθ @
≪問2≫ ビオ=サバールの関係を円形電流にあてはめてみましょう。
円形電流の中心 P では r=R 一定, θ=π/2 なので,
B=∫dB=∫μI
/ (4πr^2).dl=μI ・2πr / 4πr^2=μI /
2R A導線が n 回コイル状に巻かれている場合には,B も n 倍になります。
≪問3≫ 無限に長い直線電流ではどうなるでしょう。 (図p98-2)
点Pにつくる場合 △l と点 P の距離を r,導線と点 Pの距離を R とし,図のように角を決めると,
△B=μI△l/ (4πr^2)smφ=μI(Rdθ/cos^2θ)cosθ÷4π(R/cosθ)^2
B=∫(μI / 4πr)cosθdθ=[ μI / 4πr](+π/2〜−π/2)=μI /
2πr B
≪実験1≫ 筒形コイル(solenoid)では,それが十分長い場合は,長さ L についての巻き数を n,電流を I
とすとる B=μnI /
L でした。これを確かめなさい。
(図p98-3)
実測のデータをあげておきます。 I=4.0(A) L=0.26(m) n=231
計算では B=231/0.26×4.0×4π×10^(−7)=0.45×10^(−2)(T)
実測では B=0.38×10^(−2)(T) (フラックスが逃げだしているようです)
≪問4≫ 棒磁石を外部に同じ磁束場をつくる等価のソレノイドに置き換えることを考えなさい。
(図p99-1)
磁石:断面積S,長さL,磁極の磁荷(磁束)φ ソレノイド:断面積S(2辺が a と l の方形コイル),長さ L,電流 i,コイル n 巻き(ni=I)とし,外部の場をH’,B’,透磁率をμとすると,磁石が受けるトルク(力のモメント)は, FL=φH’L=φB’L / μ を ソレノイドが受けるトルクは
fan=a l i B’n=S i n B’=S H L B’=S HμB’L/μ
方形のコイルのトルクは f a n=a l i B’n=S I B’=M B’
この M を磁気モメントといい,磁石の φL /μ に相当します。
磁石は原子からできていて,原子は原子核の周囲に電子が回転している(スピンも含めて)ので,コイル状の電流があることになります。もし,原子の配列が方向性をもつとすると,この電流が磁束場をつくることになります。
(図p99-2)
エナメル線を図のように巻くと,内部の電流は互いに相殺して,外側の電流だけが有効に磁束場をつくることになります。これは磁石のモデルになります。
[まとめ]
1 電気と磁気は同じ形で体系がつくられてきました。
2 電束が運動すると磁束に変身します。
3 磁石の磁束場は原子をつくる電子の円(回転)運動に起因します。
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