(図p94-2)
(p93)
理科実験を楽しむ会
(図p94-1)

72. 電流をひとまわりすると―――アンペールの法則

 [授業のねらい]
 電流の付近の場について,くわしく検討します。
 
 [授業の展開]
 直線電流の周囲の磁束場について復習しておきます。
 問1 電流と直交する平面に磁針を置くと,磁針のN極はどちらを向くでしょうか。磁束場Bの強さは電流からの距離でどのように変わるでしょうか。
 電流と直交する平面に描かれる磁力線の模様はどのようなものでしたか。
 直線電流の周囲には同心円状の磁力線があって,その密度で磁束場Bの強さを表すことができます。磁束場Bの強さは電流からの距離に反比例しました。
磁束場は,強さ,向き(方向も含めた)をもったベクトル量で方向はそこに置いた磁針の方向に一致していて,向きは磁針のN極の指す向きと決めます。
 電子はマイナスの電荷をもつ粒子で,これの移動が電流の実体ですが,電気の理論はプラスの電荷をテスト電荷として組み立てられているので,当分のあいだ,「+電子」を想定して,これの移動を電流とすることにします。
 問2 +電子をイメージしてみましょう。図か絵で表現してみましょう。   
 点状の電子を思いうかべる者,電子には大きさがないから描けないという者,化学で習った電子雲を描く者,などいろいろですが,ここではその周囲に電場をもった電子,すなわち電束を生やした電子を想像させたいものです。
+電子の周辺にウニの刺(とげ)のような電束を描かせます。         
 問3 鉛直に置かれた長い直線状の導線の中の電流をイメージしてみましょう。導線の中の「マイナスのイオン」は省略します。電流だけについて考察を進めるからです。                        
 導線の中に並んでいる+電子からは四方八方に電束が出ているので,そのまま描くと,電束は交錯して,図は真っ黒になってしまいます。      
 電束は電場を表すためのもので,電場は一意的に決まるのだから,電束が交叉するはずはありません。はじめに描いた「交錯している」電束を合成した電束の図が欲しいのです。
 いま,注目している+電子を含んで,導線に直交する平面を考え,これをこの+電子のテリトリーとします。導線は長いので(ここでは無限に長いと仮定して),平面から上下の同じ距離にある「二つの」+電子(これをペアと呼びます)が,この平面上につくる合成電束場は,鉛直成分は相殺されて,水平成分はこの平面に含まれています。他のペアの+電子についても同じです。
 このことは,注目している+電子は,自分のテリトリーだけに電束をだしていると考えてもよいことになります。他の+電子のテリトリーに電束をださない代わりに,他の+電子からも干渉を受けないことにするのです。それぞれの+電子は,試験管ブラシの「毛」のように,自分のテリトリーだけに電束をだすことにします。
 草刈をするときには,各自が自分の受け持ち範囲を決めて,そこの草だけを刈る,というのが<草刈り場>の考え方です。
 電流のイメージはできたでしょうか。電流は+電子の移動ですから,このような+電子が,その周囲に電束を従えて,一斉に移動していくはずです。
 ところが,そうはいきません。直線電流がつくる場は,その周りの同心円状の磁場であることは,前に見てきたところです。     (p93)
 問4 電束密度場Dが,速さ v で移動すると,磁場Hに変わることを量的に示しなさい。
 導線の長さ△l のなかの電荷を Q とし,これからでた Q本の電束は導線に垂直の方向へだけでているものとします。この電荷の移動速度を v,電流を I とすると, Q / △lI / v  p.86
 導線から r の距離では,この「バウムクーヘン」の側面から Q本の電束がでているので,そこの電束密度 D は,
 DQ / 2πr△lI / 2πr v
 この移動する D H に変貌したのだから HvDI / 2πr として,方向と向きを考えて書くときには,Hv×D とします。
 電束は電荷からでたものです。これは周囲の状熊には無関係な量で,その雰囲気に応じて電場をつくりました。この電束の運動でできた磁場 H は,磁束場と同様,周囲の環境には無関係です。
 電束場が移動すると磁場ができる電流は磁場をつくるといえます。     
磁場は電流を中心にした同心円状で,その向きは電流の流れに面して見て反時計回りです。
 上の  HI / 2πr    を 2πr HI  と書き直してみます。
 この式の意味は,電流から一定の距離にある円周に,そこの電場の強さをかけた値は,距離をどのようにとっても同じで,それは電流の値に等しい,という ことです。                       (p94-1)
 しかもこの関係は半径 r が途中で変わってしまったと考えた任意のコースについて考えてもよいので I∫Hds  と書き表わされます。 ∫Hds をHの線積分といいます。
 図のようなコースについて,部分的にHds を値を考えます。半径方向のHの成分は0なので,その方向では H△s の値は0 です。r H は反比例するので,同じ中心角の扇形の弧についてはHds の値はどこでも同じです。このことから任意にコースをとっても,部分的なHds を加えあわせた値は,電流を一周するときには I に等しくなります。これをアンペールの法則といいます。(p94-2)
P
 HI / 2πr   はわかるけど I2πr H になるとわかりにくい。
P
 磁場と円周をかけると電流に等しくなる!?
二回りしたら電流は2倍になるの?
P
 同じ場所でH2倍なら I 2倍というのはいいけど…‥
 問5 ソレノイドコイルのなかのHを求めなさい。
 断面Sで長さ l の円筒に導線を n回巻かれた長いソレノイドコイルをつくり,これに電流Iを流しました。(p94-2)のように,方形のコースをとって( l は方形の横の長さで,aは縦の長さ)線積分を考えると,アンぺールの法則により 
Hl
2H’aH”lnI  H’aは直交しているし(図のH0 はH’の成分)H”は距離が遠いので 0 とみなせば,
HlnI  H(n / l)INI  Nはコイル単位長当たりの巻き数。
 このHの向きについては,右手の法則があります。右手のてのひらを自分のほうへ向けて,親指を,他のそろえた4本の指に対して直角にします。4本の指を手前に円く曲げてコイルと見なすと,4本の指の向きが電流の向き,親指の向きが磁場の向きです。
 問6 長さ l,断面積 Sの鉄芯に n回の導線を巻いて,電流Iを流しました。 鉄の透磁率をμとすると,磁束場B,磁束Φはいくらでしょう。    
 H=(n/lI  Bμ(n/l)I   ΦBSμ(n/l)ISμnI(S/l)
 例のS/l  が出てきました。(上巻 p.44             (p95)

 [まとめ]
1
 電荷と電流をイメージするときには,同時にその周辺の場もイメージします。
2
 磁場の線積分はコースが囲んだ電流に等しい。
3
 ソレノイドコイルのなかの磁場の強さはNIで,磁場の向きは右手の法則でわかります。

(図p95)
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