71 電流が磁場をつくる―――電磁石
 
 [授業のねらい]
 電磁石をつくった経験を思いだしながら,強い電磁石をつくるにはどうしたらよいかをまとめ,実際につくってその力の大きさを実感しましょう。
 そして,電磁石や導線(電流)の周囲の磁束場をイメージしましょう。
 
 [授業の展開]
 問1 小学校のころ,電磁石の学習で,強い電磁石をつくるにはどうすればよいかを学びました。それをまとめておきましょう。
1)電流を強くする。そのためには,電池を直列につないで電圧を大きくする(平角も)。太い導線を巻いて抵抗を少なくする。
2)巻き数を多くする(このことは(1)と矛盾します)。
 これまでに学んだつぎのこともつけ加えておきましょう。
3)大きい電流を流すためには内部抵抗の小さい電源,たとえばバッテリーを使う。乾電池を並列にして使う。
4)鉄芯を太くする。鉄芯の質も関係する。
5)磁極の間隔を狭くして,磁束の「抵抗」を少なくする。そのためには鉄芯の形を工夫する。
 実験1 強い電磁石をつくりましょう。どのようなものが鉄芯になるか探してみましょう。壊れたテレヒのブラウン管からエナメル線を取りだしましょう。適当な電源をみつけましょう。自動車修理工場からバッテリーをもらってきましょう。トランスと整流器を使いましょう。          (図p88
(注)電磁石をつくるにはテレビの偏向コイルをほどいたり,それを鉄芯に巻きつけたりするのは大変な作業です。しかし,その作業に大切な意味があるように思います。ファラテーの気持ちになれるからです。
 実験2 テレビから取りだしたチョークコイルの,磁気回路をつくっているE I 型鉄芯の一つの辺(I の部分)を,その継ぎ目に沿ってはがす(剥がせない構造のものもある)と,強い電磁石ができます。
 はがした鉄片をもとの位置に置いてから,平角(3Vの乾電池)か,バッテリーで回路に電流を流すと,鉄片に強く引きつけられて引き離すことはできません。
この装置はあとでまた使います。
 実験3 一定の電流を流しておいて,磁束場の強さを測りましょう。
 上の実験で使ったチョークコイルの鉄芯からコイルをはずし(少々技術がいりますが),コイルに電流を流しておいて,磁束場の強さを測りましょう。
 鉄芯がなくても磁束場ができています。鉄芯のない「電磁石」です。
 実験4 直線電流がとのような磁束場をつくるかを調べてみます。大電流の周囲にできる磁力線の様子をみましょう。
 この実験には,20芯ほどの太い導線を10回ほど輪に巻いて(写真参照),バッテリーでショートさせます。電流を長い時開流す必要はありません。導線に垂直になるように厚紙をセットして,その上に鉄粉を撒き散らし(ガーゼに入れてたたくとよい),鉛筆の後ろで,厚紙軽くたたくと,導線の周囲に同心円状の磁力線の模様が見えてきます。
 問2 鉄粉の代わりに,小さい磁針を置いてみましょう。磁針のN極の指す向きを磁束場の向きと決めました。電流の向きと磁束場の方向および向きの関係を言い表しなさい。
 右ねじの法則を確かめましょう。
 実験5 太さ1.6mmほどのホルマル線で,直径10cmほどのソレノイド・コイルを作り,その周辺の磁力線の様子を調べてみしょう。      (p89)
 直線電流の周囲の磁束場を測定するために,大電流が流せる装置をつくっておきます。
 容量30Aのスライダック,全波整流器2,耐圧200Vで容量10μFのオイルコンデンサー230Aの直流電流計1,ヒューズで,直流電源をつくっておきます。
 直径2.0mmのホルマル線(エナメル線でも同じ)を用いて,12mの正方形で6070回巻きのジャイアンツ・コイルをつくってみましょう。これに直流30Aの電流を流すと,2000AT の直流が得られます。スライダックは3040V程度で使うことになります。
 実験6 ジャイアンツ・コイルに 2000AT の電流を流して,磁力線観察器でその周囲の磁力線の様子を観察しておきます。    (p90-1)  (p90-2)
 磁力線観察器を重ねて導線を囲むようにすると,同心円状の立体的な磁力線を観察できます。
 また,アルニコ棒磁石の一方の極の近くをたこ糸でしばったもの,を近づけると,導線の周囲の磁力線に沿って力がはたらきます。生徒たちは<犬のお散歩>といって楽しんでいました。「単極磁石」にはたらく力のモデルになります。
 生徒の感想
P
 ポテンシャルの場に似ているけど,一回りしても,磁極はずっと仕事をされっぱなしです。
P
 単磁極があると,モーターができそうです。そうするとエネルギー則に反するかな?
 問3 直線電流がつくる磁束場は距離とどのような関係にあると思いますか。
 一次元の原因量が三次元の空間に場をつくるので,距離に反比例することが考えられます。                                   (図p90-3)
 実験7 ジャイアンツ・コイルに 2000AT 流して,その周囲の磁束場の強さB をフラックスメーターで測定し,導線の中心からの距離 r と,そこの B との関係を調べなさい。
 つぎに,場所を固定しておき,電流の強さを変えて実験しなさい。
 実験データを示しておきます。
 電流 i20A  巻き数 n67  総電流 Ini1300AT      (p91)
 67巻きの導線はかなりの太さになるので, その中心に電流が凝縮しているとして扱いますが,r が小さいところでは誤差が出るようです。
 ちなみに Bμ
0 Hμ0 I2πr  μ0 2πr BI
    r11.0  のデータでは    μo1.22×10^(6)
    r12.0  のテータでは    μo1.22×10^(6)
    正しくは  μo4π×10^(7)1.26×10^(6) N/A^2
 上の実験から,電流がその周囲につくる磁束場の強さ B は,電流の中心からの距離 r に反比例し,電流の強さ I に正比例することがわかります。
    B ∝ Ir

  [まとめ]
1
 強い電磁石がつくれるようになります。
2
 電流の周囲には磁束場ができます。
3
 直線電流がつくる磁束場の強さは,電流に比例し,距離に反比例します。
4
 直線電流のつくる同心円状の磁束場に沿って,磁極は力を受けます。
5
 直線電流がつくる磁束場の方向と向きは,右ねじの法則で言い表されます。

(表p91)
(図p90-3)
(図p90-1)  (図p90-2)
(図p89)
(図p88)
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