70. おかしな方向にはたらくカ―――電磁力
[授業のねらい]
電流か磁束場から受ける力が,いままでに学んできたニュートンカ学では予想ができない方向にはたらくのを見せて,場を考えないわけにはいかないことを感じさせます。
[授業の展開]
≪問1≫ 水平に支えられた強い棒磁石の一方の極の先端の近くに,下端が自由に動けるようにした導線を鉛直に吊して回路をつくっておきます。この導線に電流を流したらどうなるでしょうか。
自由に考えさせ,話させるのがよいでしょう。もし選択肢を設けるとすれば,(1)磁石から引かれる,(2)磁石から押される,の二つでしょう。これまでに,しっかりした理科教育を受けてきたとすると,生徒はこの二つ以外には考えられないでしょう。ニュートン力学はものの物理で,ものとものとが力を及ぼしあって運動を起こさせるのがその本質でした。全員に「予想を外させる」のが,このプロクラムの目的です。
≪実験1≫ 上の装置を組んで実験をします。
電流を流すと,導線は横っちょの方向から回り込んで棒磁石の真ん中あたりへ向かって走っていきます。
P エーッ! なアにこれ?
(図p84)
P 変なの。
P どうなってるの?
この際,右へ行くか,左へ行くかは問題にしません。
電流を逆にすると反対に動くであろうこと,磁極を逆にすると反対に動くであろうこと,は予想がつきます。当然,生徒からそうしよう,という声がかかるので,それを待って実験します。これを<逆・逆法則>といっておきます。
ちなみに,この実験を見た小学校の生徒の一人は“いやがっている”といったものです。
これを考える時に,手がかりがないことはありません。バックグラウンドの磁力線です。磁力線を思い浮かべてみると,電流が流れている導線は磁力線を横切って運動するということが見えてきます。
このように,磁力線のある空間では導線に電流が流れると,その導線には磁力線を直角に横切る方向の力がはたらきます。 この力を電磁力といいます。
その向きについては,フレミングの左手の「覚え方」があります。左手の第1指,第2指,第3指を互いに直角になるように伸ばすと,力, 磁力線, 電流の方向と向きが,それに対応した指の方向と向きに一致するというものです。
この力の大きさはどうなっているか,その実験をしてみましょう。
磁石の作り方:アルニコのU形磁石の磁極の内側に軟鉄片を張りつけて磁極の間隔を5mm程度に狭めて使います。あるいは適当な鉄片が手に入ったら,2枚の鉄片のあいだに,ドーナツ形のフェライト磁石を挟み込んだものでも結横です。フェライト磁石を並列に2個,3個挟むこともできます。磁極のあいだの磁束密度Bを磁束計(フラックスメーター)で測っておきます。
電気ばね振り子の作り方:弱いつるまきばね(りん青銅で自作してもよい)
2本で銅線を水平につり下げます。その長さは磁石の幅よりすこし長めにします。ばね定数 k を測っておきます。
≪実験2≫ 電池,スライド抵抗器,電流計,切り替えスイッチ,電気ばね振り子で回路をつくり,銅線を磁極の空間に水平になるようにしてから回路を閉じます。つるまきばねの伸びを測定して,電磁力
F の大きさ(代わりにはねの伸び x)を測定します。
電流 I と F の関係,磁束場の中の銅線の長さ l と
F の関係,磁束場の強さ B と F の関係を調べて,(1)F∝B (2)F∝l (3)F∝I
を確かめます。 比例定数を c とすると F=c I l B
いま F=1N I=1A l=1m のとき B=1N/Am と決めると c=1 となります。 ∴(4) F=I l B
実験データをあげておきます。
(1)B1=0.193
T B2=0.0910 T
のとき
x1=1.2×10^(−2)m x2=0.6×10^(−2)m
(2)l1=4.9×10^(−2)m l2=3.3×10(−2)m l3=2.5×10(−2)m
x1=1.2×10^(−2)m x2=08×10^(−2)m x3=0.6×10(−2)m
(3)I1=100mA I2=200mA I3=400mA のとき
x1=+0.8, −0.9×10^(−2)m
x2=+1.8, −1.8×10^(−2)m
x3=+3.5, −3.6×10^(−2)m
ただし,+は上に力を受けたとき, −は下に力を受けたとき。
(4)I=0.250A l=4.9×10^(−2)m B=0.193T x=1.2×10^(−2)m
k=0.22N/m
力学的力 f=kx=2.6×10^(−2)N
電磁気的力 F=I l B=2.4×10^(−2)N
ただし,(1)(2)(4)は同じ班のデータで,(3)は別の班のデータ。
金属中を流れる電流Iについて考えてみます。電流の速さを x,長さlの中の電荷を Q とし,線電荷密度を ρ とすると,簡単な比例関係から,
I/v=Q/l=ρ/1
(図p86)
この関係を使うとFは, F=I l B=QvB
金属中の電流は電子が運ぶので,銅線lの中の電子の数を n,電子の電気量を q,電子1個にはたらく電磁力を f とすると,F=nf=nqvB ∴f=qvB
この式は,もう銅線にはたらくマクロな力ではなく,電子の個々のはたらくミクロな力を表しています。このようにミクロな電荷にはたらく電磁力をローレンツカといいます。この場合,プラスの「電子」を考えておきます。
すべての電荷に力を及ぼすのが電場 E で,運動している電荷に力を及ぼすのが磁束場 B だといえます。
≪実験3≫ 大型のドーナツ形フェライト磁石の上に置いたシャーレに硫酸銅の水溶液を入れ,シャーレの周辺と中央に電極を設けて回路を閉じると,溶液が円運動をするのが見えるでしょう。
電源はバッテリーを使います。溶液の抵抗が大きいので抵抗器は不必要です。これはサイクロトロンのモデルになります。
≪実験4≫ アルミのパイプ(テレビのアンテナをよく磨いて使う)2本を,そのあいだに小型のドーナツ形フェライト磁石を挟むようにして,平行に並べて板の上に接着します。別のアルミパイプを,これに直角にまたがせて置き,電流を流します。接触抵抗が大きいので電源はバッテリーを使い,抵抗は不必要です。この装置は,あとで電場の発生のところでも使います。
≪実験5≫ 左の装置はモーターの一種で,ファラデー・モーターといいます。どのような構造になっているか考えてつくってみましょう。
写真の装置もファラデー・モーターの一種です。どのような構造になっているか考えてつくってみましょう。
(図p87)
≪実験6≫ ラジオをイヤホーンで聞く代わりに,この音声電流で自作のスピーカーを鳴らしてみましょう。エナメル線で直径2〜3cmの輪を約20回巻いたコイルをつくり,紙コップの底の裏側にセロテープではりつけます。
これに音声電流を流しておいて,コイルの中央に磁石(強くて小型のサマリウムコバルト磁石やネオジム磁石がよい)を持っていくと,コップから放送が聞こえてきます。コイルと磁石と振動板になるものがあれば,なんでもスピーカーになります。モーターでも,ジェネコンでも,テスターでも,トランスでもOKです。モーターで動くぬいぐるみの玩具でもやってみましょう。
[まとめ]
1 電流に力を及ぼす空間,磁束揚が存在します。
2 電流は磁力線を横切るように力を受けます。この力を電磁力といいます。
3 電流をミクロに考察したとき,個々の運動電荷にはたらく力をローレン ツ力といいます。
4 その方向と向きに関してはフレミングの左手の法則があります。
5 ファラデーはモーターをつくりました。
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