7. 重いものを動かすには−−−剛体のつりあい
[授業のねらい]
これまでは, 大きさを考えないでもよいものについて,
力のつりあいや運動を考えてきましたが,
私たちの周囲にある具体的なものにはみな大きさがあります. ここでは, そのような具体的なものについて,力のつりあいと運動を考えます.
[授業の展開]
ものに力がはたらくと変形しますが,
ここでも, ものの運動について考えたいので,
変形については無視することにします.
力が加わっても変形しない理想化した物体を剛体と呼びました.
≪問1≫ 剛体Mに図のような力がはたらいています. 剛体Mにおいて力がつりあうようになる別の力をA点に書きなさい. A点でなくてB点に書き加えなさい. このことから,
どのようなことがいえますか. (図p38-1)
剛体にはたらく力は, その力の作用線の上のどこに作用点を移動させても,
力の効果は変わりません. これを<作用線の定理>ということを§4で学びました.
≪問2≫ 剛体にはたらく図のような2力F1,
F2の合力を求めなさい.
≪実験1≫ 重さ 20gの丈夫な棒(幅2cm, 長さ50cmくらいのベニア板がよい)の中央に,
5cm間隔に小さい穴をあけて, 10gのおもりが下げられるようにします. (図p38-2)
1 スタンドで銜えた釘を棒の中央の穴Cにさして, 棒を吊ります.
棒にあけられた穴を, 中央のCから左へL1, L2, L3, L4, L5, 右へR1, R2, R3, R4,
R5と名づけます.
2 おもりが L2に2個下げてあります.
おもりを3個加えて棒をバランスさせなさい.
3 おもりは L1に1個, L4に1個下げてあります. おもりを3個加えて棒をバランスさせなさい.
4 棒を支える釘の位置を Cから L1へ移動させます.
どうすれば, 棒はバランスするでしょう.
5 この状態で,おもりをL4に1個下げました. おもり1個で, 2個で,
3個で, 4個で,
それぞれバランスさせなさい.
6 班で難問をつくって他の班と交換しましょう.
≪問3≫ それぞれの場合, 釘にかかる重さはいくらでしょう. 釘の代わりにばね秤で吊して確かめなさい.
≪問4≫ この実験のように,
おもりの大きさもそれを下げる位置もデジタルな量でなくて, アナログ量(連続量)であったらどうなりますか.
《問5》 図のような平行な2力 F1,
F2の合力の求め方を考えなさい.
二つの平行な合力は, これまでの方法では求められません. その場合には, 2力の作用点を結んだ直線を作用線として,
合力がゼロになるような一組の力f1,f2を加えることで合力が求められます. (図p39)
≪問6≫ F1/F2=f1/f2 を証明しておきましょう.
偶力の場合には合力がないことを, 時間の余裕があったら問題にします. てこ棒とおもり全体(これを系と呼びます)を支えてバランスする点をこの系の重心といいます.
≪実験2≫ 厚紙を多角形に切って, その重心を求めてみます.
1 まち針におもりをつけた糸を下げます.
2 多角形の周辺に近いところに, 小さい穴をあけてまち針をさし, それを軸にして, 多角形が自由に動けるようにします.
3 まち針を水平に柱にさして全体をつり下げ, 糸の位置を多角形に印します.
4 別の穴をあけて, 3と同じ操作をします.
5 描かれた糸の線の交点が多角形の重心です.
6 厚紙がどのような形であっても, この方法で重心が求められます.
≪問7≫ 簡単な形をした物体の重心は,
図形の性質からわかることがあります. 一様な厚さと質とをもった,
次の形の物体(例えば,厚紙)の重心はどこでしょうか.
三角形, 台形, 一般の四辺形,
円, 一般の五角形.
≪問8≫ 円から1/4円を半径上で切り取った(残りの)図形の重心を, モビール(mobile)で考えてみましょう. (図p40-1)
力の節約や力の向きを変えるために使う道具を<単一機械>といい, てこのほかに, 滑車,
輪軸, 斜面, ねじ, くさび, などがあります.
≪問9≫ 小さな力Fで,
重い物体Wを動かしたいときにはてこを使います.
1 図で,てこ棒のつりあいをいいなさい. てこを考えるときには棒の重さは無視します.
2 てこ棒がバランスして(「つりあって」)いるときには, FとWにはどんな関係がありますか. (図p40-2)
3 力のバランスを崩せばものは動きだす,つまり,"つりあえば,
動かせる" ことを論じなさい.
4 支点からFの作用点までの距離をa, Wの作用点までの距離をbとすると, どのような関係がありますか.
5 Fの作用点の移動距離をp, Wの作用点の移動距離をqとすると, どのような関係がありますか.
3では, つりあいのの状態に, わずか力が加われば運動が始まります.
4では, 力×(支点から力の作用点までの距離)
が一定の値になります. この量を<力のモメント>といいます.
5では, 力×(力の作用点の移動距離) が一定の値になります. この量を<仕事>といいます.
物理では,このような不変量をみつけることが大切なことです.
≪問10≫ てこのはたらきを使った道具をいいなさい.
バール, モンキーレンチ, ペンチ,
ドライバー, など….
滑車や輪軸もてこのようなものです. ちなみに, くさびとねじは斜面のようなものです.
[付録]
併進運動に対して回転運動があります.
併進運動に関する諸量に対応した, 回転運動に関する諸量があります.
速度に対して角速度
慣性質量に対して慣性モメント
加速度に対して角加速度 運動量に対して角運動量
力に対して力のモメント
併進運動に関する諸量の関係に対応した, 回転運動に関する諸量の関係があります.
例えば, 併進運動に関して運動量の保存則があるように,回転運動に関して角運動量の保存則があります.
併進運動では 質量をm, 速度をvとすると
mv=一定
回転運動では
慣性モメントをI
角速度をωとすると Iω=一定
≪実験≫
横に伸ばした両手に重いものをもって回転椅子に座り, 友人に回してもらいます.
静かに, 手を縮めてみましょう.
どうなったでしょう.
同じ質量なら, 質量が回転軸から遠くに分布している方が,より慣性モメントIが大きいのです. 上の結果を説明しなさい.
ジェット気流の強いときには, 地球の自転は遅いそうです. 地球の北半球(「陸半球」に近い)が夏の時期には,
樹木の繁茂によって, 地球の慣性モメントが大きくなるので,
地球の自転は遅くなるそうです.
[まとめ]
1 剛体における力のつりあいが作図できます.
2 平行力の合力について作図と計算ができます.
3 簡単な物体の重心の位置がわかります.
4 てこを利用して重いものを動かすことができます.
5 物理では不変量を見いだすことが大切です.
6 併進運動と回転運動は運動に関する諸概念が対応しています.
7 この諸概念の関係も対応しています.
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石井信也 |