69 .磁石も回路をつくる―――磁石
[授業のねらい]
小学校のころから馴染んできた磁石の性質をまとめ,さらに磁石の学習を進めます。いろいろな磁石を集めて,その強さを測ってみましょう。
[授業の展開]
≪問1≫ いろいろな磁石を集めてみましょう。
棒磁石,U形磁石,ゴム磁石,ひも磁石(冷蔵庫のドアを閉めるためのもの),磁針,フェライト磁石,ピップエレキバン,黒板に紙を貼りつける磁石,水槽の水ゴケをとる磁石,電磁石などいろいろでてきます。材質,形,様式,用途など,雑多であってもかまいません。
学校で用意したアルニコ磁石,サマリウムコバルト磁石,ネオジム磁石を見せます。その強さを示すデモンストレーションをするのもよいでしょう。
たとえば,ネオジム磁石で,1万円札を引っ張って見せるとか,厚めの銅板の上にソフトに落ちるのを見せるとか,2個の磁石で手のひらを裏表から挟んでみせるとか,……。
強い磁石では,皮膚を挟んで血まめをつくることがあるので注意します。
普通のフェライト磁石がソフトフェライトと呼ばれるのに対して,サマリウムコバルト磁石やネオジム磁石はハードフェライトと呼ばれ,いずれも材料を焼結してつくられている(そのあとで着磁する)ので,強くぶつけたりすると一部が割れて剥落してしまうから,取り扱いに注意します。
磁石についてこれまでに学習してきたことをまとめておきます。
(1)磁石にはN極とS極とがあって,同種の極は斥けあい,異種の極は引きあう。
(2)磁石のN極とS極を分離することはできない。
(3)棒磁石をつるして北を向いた極をN極とする。
(4)電磁石の強さは電流の強さ,導線の巻き数,鉄芯の性質と太さなどに関係する。
(5)磁石につく物質とつかない物質がある。
≪実験1≫ 磁力線の模様を観察しましょう。
磁石を机の上に置いて上に厚紙をかぶせます。ガーゼに包んだ鉄粉を静かに叩いて厚紙の上に降らせると,磁力線の模様がでてきます。最後に鉛筆で厚紙を軽くたたくと磁力線の模様がはっきりします。
二つの磁石がつくる磁力線も観察しましょう。いろいろの磁力線をノートに描いてみましょう。透明なプラスチックのノートの上に磁力線をつくってコピーする手もあります。
磁石を見たら,その周囲の磁力線が「見える」ようになりたいものです。
磁力線は磁石の「影武者」です。
磁力線から磁石の内部に傷があるのがわかることもあります。強い磁石では磁力線が紙から立ち上がり,磁力線が立体的であることがわかります。
磁力線観察装置があったら,磁力線の立体的な形を観察させることができます。装置の用意がない場合には,透明なスチロールの箱に入れたグリセリンに,細かいスチールウールを分散させたものを使います。スチールウールははさみで切ってから乳鉢で砕きますが,スチールウールの太さによっては手に刺さるので注意を要します。
≪実験2≫ 磁石の強さを測るフラックスメーターがあります。これを使って,磁石の強さを測ってみましょう。
フラックスメーターは磁束密度を測る計器で1台は用意したいものです。
電気の場合には+QCの電荷からQ本の電束線がでていて,電束密度D C/m^2で場の強さを表しましたが,これと同じように磁気の場合にはΦWb(ウェーバー)のN極磁荷からのΦ本の磁束線がでていて,磁束密度 B Wb/m^2=B T(テスラ)で場の強さを表します。
電場Eに「相当する」概念は磁場Hです。
εE=D に対しては μH=B で,μを透磁率といいます。
幅広いU形磁石の両極の間隔を狭めてつくったものでは,極のあいだの空間は磁場の強さが一様であると思われます。これは,極板間隔の狭い平行平板コンデンサーがつくる一様電場に似ています。実際にフラックスメーターで測ってみると,そのことがわかります。
千葉高校では市販のU形アルニコ磁石に鉄片をつけた凹形と,鍵形の鉄片2枚で,着磁したアルニコチップを挟んだ凸形の磁石を使っていますが,磁極間の磁束場(磁場との違いは後出)の強さは, (図p81)
凹形が0.15T(テスラ),凸形が0.21T程度です。
市販されている磁石の磁極付近の磁束場の強さも示しておきます。
厚さ12 mm, 外径80mmのドーナツ形フェライト磁
0.070 T
長さ34 mm, 直径12mmのアルニコ磁石
0.070 T
U形アルニコ磁石 0.080
T
厚さ3mmのサマリウムコバルト磁石
0.14T
その9枚重ね
0.23T
厚さ6mm,直径14mmのネオジム磁石 0.30T
その2枚重ね
0.40T
≪問2≫ 長い棒磁石の一方の磁極がつくる磁場の強さは,その磁極からの距離とどのような関係にあると思いますか。
さきに調べたように,棒磁石がつくる磁力線は,拡大した植物の気孔のような形をしていますが,ここでは,他方の磁極の影響が現れないような長い磁石を使って,「単極磁石」を仮定して,その強さを調べようというものです。
そうすると,1点から出た磁力線が 3次元空間に一様に広がっていくとみることができるので,磁場の強さは距離の 2乗に反比例するはずです。
≪実験3≫ 上のことを確かめなさい。 (表p82-1) (図p82-2)
千葉高では,直径17 mm, 厚さ10mmの円筒形のアルニコチップを20枚ほど重ねて着磁した棒磁石を使っています。その実測値を表に示しておきます。
磁極は(これがあるとすれば)磁石の端から 0.9cmくらい奥(これは計算で推定した)にあると思われたので実測値r’を補正してrとしました。
実際の磁束(磁気量)は,欄のデータを使用すると
4πr^2B=4×3.14×〔(1.4×lO^(−2)〕^2×0.11=2.7×10(−4)(Wb)
程度かと思われます。
生徒は1/r’^2 と Bの関係のグラフを描いて混乱しました。見事な (?) 放物線状のグラフが描かれていました。
なお,磁石内部のBを測定し,磁石の断面積Sを掛けて得られた値(BS=Φ)の最大値は3.0×10^(−4)(Wb)でした。
磁石がつくる磁束場の強さは磁束線の密度で表されます。両極が接近しているときには,N極からでた磁束の多くがすぐにS極に入るので,そのあいだの空間では磁束密度が大きくなります。だから,磁束場の強い空間をつくるには,磁極の間隔が狭い磁石にすればよいのです。 (図p83)
磁極を鉄片で橋渡しすると,磁束のほとんどが鉄の中を通ります。実際,橋渡しした鉄の中の磁束密度を測ると非常に大きいことがわかります。磁極の近くに鉄片を近づけると,鉄片を引きつけて,その中に磁束線を集めているように見えます。
電気が導線の中を通りやすいように,磁気は鉄の中を通りやすいのです。
磁極を鉄で橋渡しするときには,磁束が鉄片でショートしたかに思われます。
鉄片から磁束がでるところがN極で,鉄片に磁束が入るところがS極となります。
電磁石をつくるときにも,棒状のものではなくて,U字形のものをつくりたいものです。
[まとめ]
1 これまでに学んだ磁石の性質をまとめておきます。
2 磁石を見たら磁力線が想像できます。
3 磁束場の強さは磁束密度で表します。
4 磁束は鉄の中は通りやすいようです。
5 「単磁極」がつくる磁束場は距離の2乗に反比例します。
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