68. 電気に仕事をさせる―――電力量
[授業のねらい]
電気はすぐれたエネルギーです。いろいろの形のエネルギーに容易に,しかも,効率よく変換できます。電気のする仕事について考えてみましょう。
[授業の展開]
電池と抵抗とスイッチをつないで,一続きの直流の回路をつくります。回路を閉じると,電流はどこでもすぐに流れて,どこでも同じ強さで流れ続けます。
≪問1≫ 回路の中の電流はどこでも同じ強さであること,回路のスイッチを入れた瞬間から電流が流れることから,電流は,電池のなかにたまっていた電気が出てきたという考えが不合理であることをいいなさい。
生徒のなかにはつぎのような声があります。
(1)電気の速さは光の速さと同じたと思っていた。
(2)乾電池の中には電気を起こすメカが詰まっていると思っていた。(実際には,黒い粉が入っていた!)
(3)プラスの極からプラスの電気が出てきて,マイナスの極からマイナスの電気が出てきて,電気(電球)のところでぶつかって光をだす。
(4)電気がみんな戻ってくるのなら,電力会社はおおもうけだ。
電流は,もともと回路の中にあった電気が電源の「圧力」でロ−テーションしている(あるいは単振動している)のだということは,揚水機を備えたパイプの中の水の運動とくらべるとわかりやすいでしょう。
≪問2≫ 電流は荷電粒子の運動であることを学びました。並んでいる金属の原子のあいだを,
回路に沿ってロ−テーションする電子を思い浮かべてみましょう。
このイメーシにもクレームがつきます。超伝導で永久電流が流れるというニュースが伝わると,いくら低温になったとしても,電子が原子にぶつからないということは考えられないというのです。
そういう場合には,わたしたちがつくるモデルは,あくまでもマクロの世界の経験がもとになっているので,それをミクロの世界へ延長することには限界があること,自然はそれほどに豊かであること,しかし,電子についての知見が増せば,また別の理解が広がるであろうということ,それを楽しみに学習を先に進めるのだということ,を理解させます。
電池のプラスの電極のところは高さ(ポテンシャル)がいちばん高くて,マイナスの電極のところは高さ(ポテンシャル)がいちばん低いことを,重力場と比較してイメージしてみましょう。
≪問3≫ 質量mkg の物体が重力場g N/kg で高さhmを自由落下したときに,つぎの量をいいなさい。
(1)この物体にはたらく重力はいくらでしょう。(mg N)
(2)重力のした仕事はいくらでしょう。(mgh J)
(3)そのときの物体の速さはいくらでしょう。(√2gh
m/s)
≪問4≫ 回路ができると,電源の正の電極から負の電極に向かって導体内に電束が走って電場ができます。電荷qC の荷電粒子が,その電場E N/Cから力を受けて距離 dm を加速運動したとき,つぎの量をいいなさい。
(1)荷電粒子にはたらく力はいくらでしょう。(qE N)
(2)電気力のした仕事はいくらでしょう。(qEd J)
(3)RΩの抵抗を t s に, n個の荷電粒子が通過しました。電流の強さ I Aはいくらでしょう。(I=nq/t
A)
(4)抵抗の両端の電位差がV Vであるとすると,ここを「落下」するときに荷電粒子が得るエネルギーはいくらでしょう。(nqV J)
(5)電源のした仕事率はいくらでしょう。(nqV/t=IV W)
(6)仕事をされた荷電粒子はどうなるでしょう。(加速するか)
この場合,電池かつくる電場が回路の導線の中だけに存在して外にはでない,ということに疑問をもつ生徒がいます。電束が導線から外へでたと仮定します。
正の電荷(以後, 電荷といいます)は電束に沿って力を受けるので,電荷は電束の出口に集まりますが,電荷は導線からはでられないので,別の電束をつくって移動します。電荷にフォローされない外の電束は消滅するしかありません。(そうでないと,一点を通る2本の電束が存在することになります)電荷と電束は一体のものです。電荷は導線の外へでられないので電束も導線からはでられないのです。
電気力のする仕事を電力量,その仕事率を電力といいます。電力は,当然のことながら,力ではありません。電力量をW
J,電力をP Wとすると,
W=Pt=IVt=I^2Rt=(V^2/R)t=QV=QEd=Fd
回路の導線の中では,荷電粒子はすぐに終速度に達してしまいます。この場合, 荷電粒子は原子に衝突を繰り返してジグザグ運動をしていて, その平均の移動の速さが一定になるという意味です。これをドリフト速度といいます。
≪問5≫ それでは,電池がした仕事はどうなったのでしょうか。
滝の水は落下すると,まもなく終速度に達してしまって,「自分」と周囲の空気を温めることになりますが,導線の中の荷電粒子も加速して得るはずの運動エネルギーを内部エネルギーに転化してしまいます。発熱量はca1単位で表すのが一般なので,これに従えは発熱量は,
1/4.19・VIt=0.24VIt=0.24P(cal)
≪実験1≫ 沸騰型のジャーポットで,このことを確かめなさい。
わたしの手もとにあるものは100V,700Wで,容量2.4Lのものです。
水を1.40L入れて温度を測ったら20℃ありました。 3.00分間スイッチを入れて加熱したあとで,ふたたび温度を測ると42℃になっていました。
0.24×700×3.00×60.0=30200(ca1)
1.40×1000×100×(42−20)=30800(cal)
室温は21℃でした。まずまずの値です。
引き続いて,沸騰するまで統けると,12分15秒かかりました。
0.24×700×735=123000(ca1)
1.40×1000×100×(100−20)=112000(cal)
途中で,一度蓋を開けて温度を測った影響がでているようです。
この実験は交流で行ったことになりますが,交流の電力についても,直流のそれと矛盾しないように決められています。家庭の電力量はkWh単位で測ります。
1 kWh=1000×3600 Ws=3.6×10^6 J
≪問6≫ わたしたちは1日に2000 Ca1 の食物を摂取しているものとします。これを使い果たしているとすると,平均仕事率はいくらになるでしょうか。
(注:1 Ca1=1 kca1)
(2000×1000×4.2)÷(24×60×60)=97(W)
約100Wとみてよいでしょう。 100Wの白熱電球を思いうかべてみましょう。人間の平均仕事率はだいたいこんな程度なのです。
電力=電流×電圧 という関係をイメージしてみましょう。
電流はビー玉のような荷電粒子が走っている様子を思えば,おおよその概念が得られるところですが,これにくらべて,電圧のほうはわかりにくい概念です。
電圧が大きいということは,重力場でいえば高さの差が大きいことに相当します。乾電池を直列にするとき,プラス極を上にした乾電池を縦に重ねて使えば,電気が高いところから落ちてくるということにイメーシが一致します。
乾電池の並列では電圧が変わらないということも,電池の高さが変わらないことに一致していて,イメージとしては相当なものです。
電圧は充電されている平行平板コンデンサーで考えるとわかりやすいようです。コンデンサーのプラスの極にはプラスの電気がたくさんたまっていて,近くにあるテスト電荷(この電荷は,プラスのと決められている)に反発力を及ぼします。テスト電荷は,同時にマイナス極のマイナスの電荷からも吸引力を受けています。力の大きさは,テスト電荷がどこにあっても同じです。テスト電荷はプラス極からマイナス極まで力を受け続けて,加速し続けます。つまり,電場から仕事をされて運動エネルギーを得ることになります。
乾電池に1本の長い抵抗をつないだ回路を考えてみましょう。回路の場合には,荷電は空間を走るのではなく,金属の中を走るので,金属原子と衝突を繰り返していて,一定の速さ以上には加速しません。
もう一つの違いは,力を加える電荷と運動する電荷の役割分担がないということです。回路のプラス極ではプラスの電気が高密度で存在していて,お互いの反発力で電荷の一部は導線の中へ押しだされていきます。抵抗の中を進むに従ってプラスの電荷密度は減少し,これを通過するとプラスの電荷密度は最小になります。プラス電荷密度が「負」になると考えてもよいでしょう。
電池は,電池の中で,プラスの電荷をマイナスの極からプラスの極に運ぶ仕事をしています。この電池の化学変化がした仕事の結果が,抵抗(負荷)で電気がした仕事として現れてくるのです。実際には,移動するのは電子であって,上プラスの電荷という部分をプラスの電子とでも読み替えればよいことになります。
回路の中には電子リッチなところと電子プアなところがあって,その差が電圧として現れるのです。
≪問7≫ 家庭で使用している電気製品の電力(ワット数)を調べなさい。
[まとめ]
1 電気のエネルギーは負荷で仕事をします。
2 電流Iは電位差Vの負荷を「落下」して毎秒IVの仕事をします。
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