67. 迷路のような回路でも―――キルヒホフの法則
[授業のねらい]
複雑な回路は,キルヒホフの法則を使って解析できます。ここではその練習をします。
[授業の展開]
いくつかの電池や抵抗をつないだ複雑な回路では,各部分を流れる電流を求めるのに,つぎの法則を使います。
回路の分岐点に電荷がたまるようなことはないので,分岐点に入る電流の和と出ていく電流の和は等しいはずです。分岐点に入る電流をプラス,出ていく電流をマイナス(もちろん,逆でもよい)とすれは,“回路中の任意の分岐点に入る電流の代数和は0である”といえます。これをキルヒホフの第一法則といいます。 ΣI=0 (1)
これは<電流の連続性>で,<電荷の保存則>とみてもよいでしょう。実体としての電子を考えれば,<電子の保存則>ともいえます。
正負のはっきりしない量の代数和を0とする扱い方に注意しましょう。たとえば,tl ℃の水ml g,t2 ℃の水m2 g,t3 ℃の水m3 g,t4 ℃の水m4 gをまぜて T℃ の水になるという問題では,
m1(T−tl)+m2(T−t2)+m3(T−t3)+m4(T−t4)=0
として解くのと同じです。力のつりあいの場合も和を 0 とするのがよいのです。
直列回路に I の電流が流れていて,抵抗 R を通過するときには RI だけ電位が下がります。この電位の降下は,電源の起電力による電位の上昇で捕われます。このように,回路の向きの正負を決めておけば,電位が上がり下がりしながら,回路を一周してもとの位置に戻ると,電位ももとの値に戻ります。このことから,“回路網内に任意の閉じた回路をとれば,抵抗や電源による電位の変化の和は 0 である” といえます。これをキルヒホフの第二法則といいます。 ΣE−ΣRI=O (2)
この法則は交流の実効値でも成立しますし,交流のどの時点についても成立します。
≪実験1≫ 直流の回路でこのことを確かめておきましょう。
デジタルのテスターでは電圧でも電流でも正負の符号と数値で表わされるので,電圧や電流の向きも直観的につかめて使利です。1台数千円で手に入るので,各班に用意したいものです。ただし,電流計の切り替えが不慣れのうちは,ヒューズを切りやすいので注意を要します。
≪実験2≫ つぎのような回路では,電流計を(最小限)どこに入れればよいのでしょうか。
(図p73)
キルヒホフ第二法則を,重力場における仕事と比較してみましょう。外力が物体 m に W の仕事をして高さ h まで持ち上げると,物体は mgh のポテンシャルネルギーをもちます。
この物体はポテンャルエネルキーで仕事をしながら高さを下げていき,もとの位置に下がります。
回路に似たモデルとしては,水路を考えます。水を持ち上げるのはポンプで,ポテンシャルエネルギーを得た水は,水車を回しながら水位を下げていくことになります。
物体に,その位置だけによって決まる力がはたらくような空間を力場(リキバ)といいます。電場や重力場は力場です。
力場のなかで物体が位置を変えると,物体に力場からはたらく力は,仕事をしたりされたりします.物体が力場のなかの一点から他の一点まで移動するときには,力のする仕事は2点の位置だけに関係して経路によりません。このような力を保存力といいます。
保存力の場では,物体が一点を出て,任意の経路を描いてもとの位置に戻るときには,この力のする仕事の和は0になります。
キルヒホフの第二法則は,この場合に「似て」います。
地球上における高さは,基準を海面にとるときには<海抜>になりますが,電気回路の場合はアースした点を電位0と決めます。高さの差,つまり高度差に対する電位の差は電位差です。
電位の単位はV(ボルト),電位差の単位も当然ながら同じVですが,電荷を高みに持ち上げて電位差を一定に保つ電池の起電力(力ではありません)の単位にもVを使います。
回路は,文字どおり導体がつくる一回りの路です.回路になっていないと,電流が定常的に流れることはありません。回路は電源,抵抗(交流のときには,コイル,コンデンサーも),スイッチなど,回路要素とそれらをつなぐ導線からなっています。電流の出入り口が4ヵ所(菱形の頂点の位置)ある回路は4端子回路といいます。
図の4端子回路は,分路になっている箇所を電流検出器でつないだもので,この電流を0にする平衡条件が,電源電圧に無関係に回路要素だけて決まるのが特徴です。このような回路をブリッジ回路といい,この回路はとくにホイートストン・ブリッジと呼ばれます。 (図p74-1)
4本の抵抗R1,R2,R3,R4を四辺形の4辺につないで,対角線の一方に電源Vを(結線は外側に),他方に検流計Gをつないであります。
≪問1≫ スイッチS2を断続しながら,R4を加減して,Gに電流が流れないようにします。このとき回路に流れる電流 I1,I2, を求めなさい。
C点とD点は等電位なので
I1・R1=I2・R2……(1)
I1・R3=I2・R4……(2)
R1/R3=R2/R4 …… (3)
合成抵抗Rは
1/R=1/(R1+R3)+1/(R2+R4)
∴ R=(R1+R3)(R2+R4)÷(R1+R2+R3+R4) ……(4)
全電流Iは I=I1+I2=I1+I1・R1/R2=I1・(R1+R2)/R2……(5)
V=I へ(4)(5)を代入して,
I1=V[R2(R1+R2+R3+R4)/(R1+R2)(R1+R3)(R2+R4)]‥(6)
I2=V[R1(R1+R2+R3+R4)/(R2+R1)(R2+R4)(R1+R3)]‥(7)
≪問2≫ CD間を切ったらどうなるでしょう。
≪問3≫ C点とD点をじかに結んでCD間に電流を流したらどうなるでしょうか。
(図p74-2)
≪問4≫ 1kΩの抵抗8本で立方体を囲む回路を図のようにつくりました。
AB, AC, BC間の合成抵抗はそれぞれいくらでしょう。 (図p75-1)
≪実験3≫ 実際につくって測ってみましょう。
このような場合には等価回路を書いて計算します。生徒の書いたものを載せておきます。
(図p75-2)
[まとめ]
1 回路の一点に出入りする電流の総和は0です。
2 任意の回路を一回りするときの起電力の和は電圧降下の和に等しくなります。
3 2の関係は保存力の場における仕事に似ています。
4 合成抵抗を計算するときには等価回路が書けると便利です。
理科実験についてのお問い合わせ等はメール・掲示板にてお願いいたします。 | |
---|---|
掲示板 | 石井信也 |