66. 電流を流さないで電圧を測る―――電位差計
[授業のねらい]
ここでは,計器についての,知識を広めます。
電流計や電圧計で電流や電圧を測るときに,電流や電圧をできるだけ乱さないようにするにはどうすればよいでしょうか。
どうすれば起電力が測れるでしょうか。
[授業の展開]
≪実験1≫ どこの学校にも,電圧計や電流計の壊れたものがあるでしょう。電圧計と電流計を分解して,その機構を見てみましょう。どちらが電圧計で,どちらが電流計だったでしょうか。
直流の計器では磁束場の中でコイルが回る型(可動コイル型)のものが多いようです。コイルが受ける回転力は,電流が磁束場から受ける力に比例するように(磁束場が)つくられています。これとコイルにはたらくもうひとつの力,回転に比例したゼンマイばねからの力,がつりあって,電流に比例した角度でコイルが,つまり,指針が止まるようになっています。
電圧計も電流計も針を動かす機構は同じです。そのことは,テスターを見ればわかります。テスターでは,一つの「メーター」が電圧計,電流計,抵抗計としてはたらきます。ときには,容量計としても機能します。
回路の電流を調べるためには,電流計を回路に直列につなぎます。
電流を測定するには,その電流の一部を使って計器を動かすので,電流計は負荷となって電力を消費します。その分,測定しようとしている電流に乱れを与えることになります。乱れを小さくするために,電流計の抵抗はできるたけ小さくします。計器に小さい抵抗を並列につないで,回路の電流のほとんどを,そちらにバイパスさせる方法がとられます。このような目的でつけた抵抗(の回路)を分流器といいます。
被測定量に擾乱を与えることは測定の本質にかかわります。
≪問1≫ テスターの電流計の内部抵抗を測ってみました。
3mA レンジの抵抗は 100.3Ω
30mA レンジの抵抗は 10 0Ω
300mA レンジの抵抗は 1.00Ω
でした。これからどのようなことがいえますか。
フルスケールが3mAの電流計を,30mAの電流計として使うには,27mAをバイパスさせればよいので,分流器の抵抗をRとすると,
R×27=100.3×3 R=11.1(Ω) このとき全抵抗は
100.3×11.1÷(100.3十11.1)=10.0(Ω)
300mAの場合については各自で計算してみましょう。
電圧計は電源や負荷に並列につないで使います。電圧計に大きな電流が流れると回路の電流が乱れるので,抵抗が大きくつくられています。構造は電流計と同じです。
1mAの電流計に100kΩの抵抗を直列につなぐと100Vの電流計として使えます。
テスターの電圧計の抵抗を測ってみました。 (表p69-1)
0.3Vと1.2kvのほかは(これには別な事情があるのでしょう),電圧と抵抗が比例していることがわかります。大きな電圧を測るために電圧計につなぐ抵抗を倍率器といいます。
電流計,電圧計の端子には正負の印が付されています。これは,計器の内部で電流が流れる向きを示したものです。電源の正負は外部に電流を流す向きを示したものです。
<電源は外部に,負荷は内部に>です。蓄電池などが充電されるときには,それらは負荷となります。
テジタルテスターは表示される数値に正負の記号が入るので,どちら向きにつないでも作勤します。
起電力Eの電池にRの抵抗をつないで回路をつくります。流れる電流 Iは電池の内部抵抗が省賂できるときには I=E/R です。
電池の内部抵抗を r とすると, E=I(r+R)=Ir+IR
ここて Ir は電池内部における電圧降下で,外部に有効にはたらく電圧 Vは
V=E−Ir=IR となります。このVを端子電圧といいます。
電池の起電力 E を測ろうとするときには,そこから電流Iを取りだして調べると,電圧降下を起こしてしまって,正しい起電力を測ることはできません。しかし,「うまい」方法があります。
≪実験2≫ V=E−Ir のV-I グラフを外挿して E を推定しなさい。
生徒のリポートから
(表p69-2)
このグラフから, E=1.47(V)
(図p70-1)
I=4.55 のとき V=1.00 I=0 のとき V=1.47 だから,
r=(1.47−1.10)÷4.55=0.88(Ω)(rの傾きは負だが…)
T 電源が電流を流さないのに起電力が測れる方法があります。
P そんなバカな!
T それがあるんです。
≪実験3≫ 下の中央の図がその回路です。検流計で抵抗をピコピコやり(軽く触れては離すこと)ながら,検流計の針が触れないところを探します。
このとき,上の電源の端子電圧を V,下の電池(被測定電池)の起電力をE とすると,
E=V(R’/R) (R,R’がどれかを考える) (図p70-2)
P うまいことを考えるもんだ。
P R’の両端の電位差が,測ろうとした電池の起電力と同じになっている。
P R’が電池になっていて,二つの回路は同じ強さの電池が二つ逆につながれているのと同じなのだ。
P 静力学の力のつりあいに似ています。
P 電池に電流を流さないのがミソ。だから,未知の起電力が内部抵抗をも っていても,出る幕がない。
P <電池の起電力の測定法>という問題が千葉大の入試に出たのを問題集で見ました。
T このような回路を電位差計(potentiometer)といいます。
検流計を使うときには端子の一方をピコピコ触れさせます。Rの代わりに抵抗線の長さを測らせます。 被測定電池と標準電池を切り替えて比較する方法もあります(図左)。
この回路は,ホイートストン・ブリッジとしても使えます(図右)。
バッテリーは内部抵抗の小さい優れた電源です。
大きい電流を使いたいときには,乾電池は並列にして使うのがよいのです。
[まとめ]
1 電流計も電圧計もつくりは同じです。
2 電流計や電圧計に抵抗を適当につなぐと測定の種類や範囲が変えられます。
3 電位差計で電池の起電力が測れます。
4 バッテリーからは大きな電流が取りだせます。
5 大きい電流を使うときには,乾電池を並列にして使うことがあります。
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