64. 電気抵抗で水の汚染がわかる―――抵抗率
[授業のねらい]
自然科学の概念や法則を学習したら,その視点で自然や社会や自分の生活を見直してみることが大切です。ここでは,電気抵抗の眼鏡で周囲を眺めてみましょう。
[授業の展開]
『岩波理化学辞典』第3版で<オームの法則>を引くと,つぎのようになっています。
≪線状導体上の2点間を流れる定常電流Iは2点間の電圧(電位差)Vに比例するという法則 I=V/R V=IR で,Rを電気抵抗または単に抵抗という。金属の電気伝導などで一般に成立する。 1827年G.0hmにより発見された。
一様な太さの導線では,Rは長さlに比例し,断面積Sに反比例して=ρ(l/S)と書かれる。ρは物質定数で電気伝導度,比電気伝導度または単に伝導度という。また,ρ=1/σ を比電気抵抗,または比抵抗という。
導体中の各点について局所的にオームの法則は,電流密度をi,電場の強さをEとして i=σE と書かれる。これは等方性物質の導体の場合だけに成立する。(中略)
また,非定常電流では,iはEに比例する部分のほかに電場の時間的変化 dE/dt に比例する部分ももつ。≫学術用語なのに,どうもこのあたりには統一性がありません。
電気抵抗(electric resistance) に関しては R=ρ・l/S
電気伝導(electric conductivity)に関しては C=σ・S/l
とし,ρを比抵抗あるいは抵抗率,σを比伝導あるいは伝導率とすれば,よほどすっきりします。
もっとも,熱とまぎらわしい(熱伝導率などと)ときには比電気抵抗などのように,それぞれの用語に電気の語を冠します。
局所法則では i=σE iρ=E となります。
l/S や S/l 例の「頭で切る」ケースです。R・S/l はその抵抗Rを立方体に鋳直したもので,物体から物質への変換を意味しています。
受験校の生徒の目は,もっぱら受験のほうへ向いていて,ほんとうの意味で“物理を身につける”という意識に乏しいようです。そこで,その点を補うために<物理読み物>をつくって読んでもらっています。
<物理読み物 オームの法則>(1987年度)
理科室ではイオン交換樹脂で「純水」をつくっています。
水は本来,電気電導の悪い物質ですが,これにイオンのような不純物が溶け込むと電導性がよくなります。ですから,電導性を調べれば水の純度がわかります。
学校には2種類の純水製造装置があります。1号機は水の純度を比抵抗ρ(specific resistance)で表しています。 ρ=100×10^4Ωcm だと純水として十分使えますが,わたしの高校では ρ=(300〜500)×10^4Ωcmくらいの純水をつくっています。
また,2号機は水の純度を比伝導σ(specific
conductivity)で表しています。
σ=1/ρ ですから ρ=100×10^4Ωcm の水は σ=1×10^(−6)/Ωcmです。 1/ΩはΩという字を逆さまに書いて(この字がないので)モー(ohmの逆mho)と呼びますが,これにはジーメンス(siemens 略号s)というあだ名もあります。上の例では,その値は
σ=1×10^(−6)/Ωcm=1μs/cm となります。この純水製造機のメ−タ−には μs/cm の単位で0から2までの目盛りがあって,針はほとんど0に近い所を指しています。1号機の水を ρ=500×10^4Ωcm とすると
σ=0.2μs/cm ですから,0に近いという意味がわかるでしょう。
千葉高の純水は ρ=400×10^4Ωcmぐらいだということを書きましたが,これを ρ=4MΩcm とも書きます。Mはメグまたはメガと読み,10^6の意味です。水道水の場合は,一般に ρ=0.005MΩcmぐらいです。
ところで,本物の純水は ρ=18 .25 MΩcm(20°C)です。
水は1l の中にHとOHを,それぞれ10^(−7)グラムイオン含んでいることを学んだと思います。これによる導通の抵抗値が上の値です。
超LSIの製造過程でも純水を使いますが,水中にイオンなどの不純物があると,これが障害を起こすのだそうです。したがって,これに使う水はρのとても大きいものが要求されます。現在つくりうる超純水は ρ=17〜18MΩcm で,これが先端技術の一端を支えていることになります。
金属のρはマイクロ級(μΩcm程度という意味)ですが,プラスチックスでは ρ=10^15〜10^20Ωcm もの値があります。ところが,最近,プラスチックスに沃素などを不純物としてドーピングしてπ電子を活性化し,ρ=10^-4Ωcm くらいの伝導プラスチックスがつくられました。
わたしたちが水の汚染を調べるときには,水の伝導率を一つの尺度とします。たとえは,73年7月16日17時30分の,江戸川野田橋下の水の伝導率は3.01×10^2μMoh/cmと記録されています。江戸川の近くの前任校の教員たちは,長年にわたって学校周辺の水の汚染を調査しています。抵抗率や伝導率を学んだら,それて自然(物質界)が眺められるようになることが大切です。
これを読んだ生徒のリポート(授業ノート)に“おもしろい話があったので書いておきます”という記述があったので,転載しておきます。
OHM(オーム)は電気抵抗の単位で記号はΩ,その逆数,つまり電気伝導の単位はMHO(モー)で記号は ひ (倒立したΩのつもり, そのような活字がないので ひ としました 石井)。ここまでおもしろい単位をつけたなと思います。しかし,このネーミングには統一性がありません。なんでかというと,記号が上下逆立ちしているのに,読み方は左右が逆だからです。
そこで,こういうことを考えました。 OHMがMHOになったのは, 逆から読んだというより,むしろ全体を左右に裏返しにしたと考えます。だが,これと同じ変換をΩに施しても,Ωのままで ひ にはなりません。そこで,記号が逆さになっている以上,統一性をもたせてOHMのほうも逆さにします。たが,OHMを上下に裏返すと,OHWとなってオームと発音がまぎらわしくなります。そこで,OHMを裏返さずに180度回転 させると,WHO(フー)となります。この変換でもΩが ひ になることは変わりありません。モーをやめてフーにすべきです。
生徒のコメント:ぼくもそう思います。 OHMが自らの名を単位の名につけたのに対して,こんなバカなことにこだわっている男が名づけたにもかかわらず,自らの名を隠して,照れながら「だれでしょう」といっているのが素晴らしいと思います。先生はどうお考えですか?
石井のコメント:オームという単位名は,後世の人がつけたのであって,オーム自身がつけたのではないでしょう。たが,フーというのは気にいりました。オーム(の向かって右のほっぺ下方)に,もしほくろがあったとしたら,
OHM(オーム)Ω . MHO(モー) .Ω
OHW(オー) ひ・ WHO(フー) ・ひ
とになって,電気抵抗に関する「回転群」となるところでしょうか。
≪実験1≫ 人体の抵抗を測ってみましょう。片手の指のあいだの抵抗はどのくらいでしょうか。両手のあいだの抵抗はどのくらいでしょうか。指を濡らしたらどうなるでしょうか。
2月の曇りの日の午前中に,わたしが自分で測った値は,片手・両手ともそのままの状態でおよそ50kΩ,濡れさせてから測ると約10kΩでした。もし,100Vの電源に触れたとすると,身体を流れる電流は1mA程度となります。
数ミリアンペアの電流で,人体には危険が及びます。
≪実験2≫ ファックス原紙の裏紙は抵抗として使えます。はさみで適当に切って,その抵抗値を調べておきましょう。
≪問1≫ ファックス原紙はどんな実験に使えますか。
たとえば,原紙を幅1 cm, 長さ10cmに切った紙抵抗をつくってテスターで抵抗を測ります。つぎに,幅の中央にはさみを入れ,縦の方向に切って(最後は0.5cm程度を切り残し)幅1/2倍,長さを2倍の紙抵抗をつくります。抵抗はどのように変わったでしょうか。計算してからテスターで測ります。
[まとめ]
1 電気抵抗で物質の性質がわかります。物質定数に抵抗率,伝導率があります。
2 水の純度や,汚染の度合が電気抵抗でわかります。
3 人間の身体の抵抗は数十kΩから数百kΩ程度です。
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