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掲示板 | 石井信也 |
63. それはひと統きになっている―――直流回路
[授業のねらい]
静電気をためておいて放電させると電流が流れましたが,すぐに電気の「元手」がなくなってしまいました。電流を流しつづけるには他の機構が必要だったのです。これを可能にしたのが電池の発明です。
電流の学習を進めながら,回路が自由につくれるようになりましょう。
[授業の展開]
古いテレヒを壊して,いろいろなパーツを取りだしておきましょう。
テレビは近くの電気屋さんに頼んでおくか,粗大ゴミの置き場へ行けば手に入ります。ものを壊すことも,大切な技術の一つです。
抵抗,コンデンサー,コイル,ダイオード,トランジスター,IC,トランス,ブラウン管など,仕分けして,いつでも使えるようにしておきます。
≪実験1≫ バッテリー(6V),パイロットランプ,スライド抵抗器,スイッチ,電圧計,電流計で,パイロットランプが点灯する直流回路をつくってみましょう。
(1)配線図をかいて,そのとおりに配線すること。
(2)回路の要素を適当な(見やすい,操作しやすい,配線コードがあまり長くならない)位置に配置すること。
(3)計器は適当なもの(レンジも含めて)を選び,最後に結線すること。
≪実験2≫ スライダック(5A),パイロットランプ,スライド抵抗器,スイッチ,電圧計,電流計で,100Vの交流電源を使って,パイロットランプが点灯する交流回路をつくってみましょう。
抵抗には一般に<じゃまもの>といったイメージがあって,負荷とも呼ばれますが,じつは,電気エネルギーを他のエネルギーに変換する場所なのです。<電気の仕事場>と呼ぼうという主張がありますが,賛成です。
抵抗の大切なはたらきの一つに回路の電流をコントロ−ルするということがあります。普通の抵抗(resistance)のはたらきは,直流でも交流でもあまり変わらないので,一般家庭の交流100Vで考えてみます。
100Wの白熱電球には1Aの電流が流れるので,1A程度の電流を回路に流したいときには,この電球を回路の抵抗とすればよいわけです。白熱電球には,10W,20W,30Wと各種あるので,たとえば400mA程度の電流を流したいときには40Wの電球を抵抗として使えはよいことになります。
1〜3V程度のパイロットランプには400mA程度の電流が流れるので,パイロットランプ1個と40Wの電球1個を直列につないで,交流100Vにつなげば,パイロットランプは点灯することになります。
100V用の白熱電球には,もっとワット数は小さいものもあるので,これらを「一揃い」準備しておけば便利に利用できます。このような電球の使い方を<ランプ抵抗>といいます。
≪実験3≫ ランプ抵抗を使って,交流100 V で1.5V用のパイロットランプをつける回路をつくりなさい。
(図p57)
≪実験4≫ ニクロム線の抵抗を測っておきましょう。
0.2〜0.4mmφくらいのニクロム線S,(または,鉄クロム線)を用意しておくと便利です。また,0.2,0.4,0.6,0.8,1.0mmφのエナメル線かホルマル線などの準備も必要です。バッテリーで電流を流してみましょう。1Aのヒューズを回路に入れて焼き切ってみましょう。
≪実験6≫ 電源の特徴を調べておきましょう。バッテリー,パワーハウス,乾電池(各種),スライダックと整流器,を用意します。
バッテリーは自動車工場へ行けば,古いものを譲ってくれます。理科室には班の数だけ用意して,適宜充電しておきます。
計器は直流と交流の電流計・電圧計,クランプメーター,テスター(テジタルのテスターでは交流の電流も測れます)
≪実験5≫ ニクロム線とスライド抵抗器を直列につないで,検流計など十分に用意しておきたいものです。
その他,ペンチ,ニッパー,ドライバー(ボックスドライバーも),金のこ,ドリルなど工具,はんだづけの用具など,いつでも使えるように,道具と「技術」の準備をしておきます。
はんだづけ実習は熟練するまでやらせたいものです。
回路の学習で大切なことをあげておきます。
(1)生徒のなかには,電流は回路の電源から電気がでてきたもので,電源に電気がなくなると電流が流れなくなると考えている者がいます。電流はもともと回路の中にあった電気がローテーションするのだということを学習させることが大切です。回路は必ず閉じていることを知らせます。
コンデンサーをもった直流回路に電流が流れるのを見たときに,生徒のなかにはコンデンサーの構造を思いだしで“回路か開いているのに…?”と疑問をもつ者がいます。これは後日,電束電流の学習の契機にします。
(2)抵抗のニクロム線が赤熱しているところでは,電流が多く流れていると思っている者もいます。
≪問1≫ 赤熱しているニクロム線のところには電流計を入れることができません。導線の部分もニクロム線の部分も同じ強さの電流が流れていることを確かめることができますか。
(図p58)
方位磁針を回路上の同じ距離に置くと,その振れ角で直流電流の大きさが比較できます。これなら,ニクロム線の上でも使えます。
(3)電気が回路のなかを移動する速さが光速だと思っている者がいます。遠くでスイッチを入れても,その瞬間に電灯がともるからです。これは(1)のことにも関係しています。導線中の電気の流れが速くはないことを学習させます。
≪問2≫ 導線中の電子の速さが計算できますか。直径1mmの銅線の中を1Aの電流が流れるとき,その速さvを求めてみましょう。単位系はcgs。
(1)直径1mm,長さ vcm の銅の円筒の体積は, 0.05^2πv cm^3
(2)銅の密度を 9g/cm^3 としてその質量は, 0.05^2π・v・9 g
(3)銅の原子量を 64 とすると,そのモル数は, 0.05^2π・v・9/64
(4)モル分子数(アボガドロ数)は 6・10^23 だから,その原子数は
0.05^2・π・v・9・6・10^23/64
(5)電子の電荷は 1.6・10^(−19)C(クーロム)であるから,1個の原子に1個の自由電子があるとすると,その電気量は,
0.05^2・π・v・9・6 ・10^23・1.6・10^(−19)/64C
(6)これが1Cになるのだから,上の式をイコール1と置いてvを求めると
v=0 .01 cm/s つまり,秒速0.1mmということになります。
(7)最後に一般式を書いておきましょう。 r^2πv
d(N0 e/M)=i
r:半径,v:電子の平均の速さ,d:物質の密度,M:その原子量,
e:電気素量, N0:モル分子数, i::電流
このように電子が移動していく速度(ドリフト速度)は遅いものですが,その電子の運動によって導線の中に信号が伝わる速度(信号速度)は,光速度の数分の1の大きさです(p 16参照)。そのようなことに関係なく,素粒子としての電子の速さは光の速さと同じです。
大学の公開講座で超伝導電流の実験を見ました。
超伝導物質で回路をつくり,液体ヘリウムで冷やしながら,外部電源で電流を流してから電源を切り離してしまいます。それでも回路には電流が流れつづけています。この電流を近くに置いた磁針の振れで確認するのです。なにしろ,回路に電流計など入れられませんから……。
[まとめ]
1 教室に電気の学習の雰囲気をつくります。
2 はんだづけの技術に習熟します。
3 回路はひとつながりになっています。
4 抵抗は電気の仕事場で,ここでエネルギーの変換が行われます。
5 電流の速さはかたつむりより遅いのです。