61. 電場をつくらない電束がある―――比誘電率
[授業のねらい]
キャパシターに絶縁体を入れると,その容量が大きくなります。絶縁体は電気を通さないので,電気的なはたらきがないということではなかったのです。絶縁体を誘電体ともいいます。誘電体のはたらきの仕組みを考えます。
[授業の展開]
≪実験1≫ 平行平板コンデンサーを使ってε0を測定してみましょう。
授業ノートから
@ 公式 C=ε0・S/d
S=0.206×0.207=4.3×10^(−2)(m^2)
dを測るのにノギスを使いましたが,場所によって幅が少し違うので平均値をとり, d=4.1×10^(−3)(m)
C=ε0・S/d=ε0×4.3×10^(−2)/4.1×10^(−3)=ε0×10.5(F)
A 公式 C=Q/V
(図p48)
2μFのコンデンサーを400Vで充電しておき,初めスイッチを上に倒して平行平板コンデンサーに電気をため,その後,下に倒し,コンデンサーを切り離してからコンデンサーの電気量を測る。クーロンメーターのレンジは50nC Q=40nC C=Q/V=40/400=0.1(nF)=100(pF)
B @Aから ε0・S/d=Q/V ε0=9.5×10^(−12)(F/m)
各班の結果は次表のとおりです。
(表p49)
考察(1)実験@ては,dの値が場所によって異っていたので,どうしても誤差がでます。
(2)平行平板コンデンサーにためた電気が漏電で逃げたようです。とくに,この日は湿気が多かったので…。
石井のコメント 最後の欄はわたしが追加したものです。 Q/Vの値がどの班も小さくでたので,考察(2)の裏づけになるかと思って…。
≪実験2≫ 平行平板コンデンサー(以後,コンデンサーと呼びます)の極板の一方を箔検電器の電極につないでから,コンデンサーを500Vで充電すると検電器の箔は開きます。電源を切り離してからコンデンサーの極板のあいだにガラスを入れると箔の開きが小さくなります。
≪実験3≫ このコンデンサ−のあいだに絶縁性の物質を入れて,その容量を測りなさい。
(図p49)
ある班の記録から,
なにもないとき 18.0 pF
ガラスを入れたとき 59.1
ベークライトを入れたとき 58.1
紙を入れたとき 36.8
発泡スチロールを入れたとき 18.1
発泡スチロ−ルで,ほとんど変わらない理由 これは体積は大きいが,これを溶かしてみると,試験管の中にすこしだけ入っているという状態にすることができ,ほとんど空気のようなものたから,結果はなにも挟まないときの 18.0 に非常に近い値になる。
この実験では,コンデンサーの極板のあいだに隙間がないように誘電体を入れることが難しかったようです。ガラスの比誘電率は8程度になることが期待されますが,上の実験では 59.1/18.0=3.3 となっています。水に挑戦した班もありました。ポリエチレンの袋に水を入れてコンデンサーのあいだに挟みこんでいました。かなり大きな値がでたようですが, 80 にはほど遠いもののようでした。
誘電体を挿入するとコンデンサーの容量がふえるメカニズムを,ガラスを例にして考えてみます。
コンデンサーの電極の面積を S,間隔を d とします。コンデンサーの電極にVの電圧をかけると,コンデンサーの空間にはつねに E=V/d の電場ができています。
ガラスがないときには,たまった電荷を Q とすると, Q/S=D0=ε0・E
(空気の比誘電率は1とします。 O2=1 00049 N2=1.00055) 単位面積当たり D0 本の電東が分布して電場Eをつくっています。(以後,簡単のために単位面積 S=1のコンデンサーを考えます) ところが,ガラスが入ると8倍の電荷がたまるので,
D=8Q(=8Q/S)=8D0=8ε0・E=εE
電束が 8 倍(8D0)になったのに,電場Eは変わらない(E=V/d)ので,8Q の電東のうちの 7D0 は電場Eをつくることには関与していないことになります。8Q の電荷のうちの 7Q はガラスの両面に現れた電荷で打ち消されているのでしょう。このように電場に置かれた絶縁体の表面に電荷が現れることを誘電分極といい,コンデンサーの電極のプラスからマイナスの向きのベクトル P で表します。D はコンデンサー上の真電荷がつくる電束,Pは分極電荷がつくる電束とすると D−P=ε・E
上の場合には ε=εrε0=8ε0 ガラスの比誘電率はεr=8 です。
コンデンサーの容量は C=εS/d=ε0εr・S/d で,εr 倍になります。
≪問1≫ コンデンサーの極板が電源につながれているときには,比誘電率ε0 の誘電体を極板間に挿入すると,たまった電荷はε0 倍になりました,電源を極板から離したあとで誘電体を挿入するとどうなりますか。 (図p51)
容量で考えると,電荷 Q は変わらない(電荷保存)のに,容量 C がεr 倍になったので,板間の電圧が 1/εr 倍に,したがって,電場も 1/εr 倍になります。
電束で考えると,
電荷が一定なので,真電荷の電束は変わらないが,分極の電束ができて,その分,打ち消されるので,電場をつくる電束は 1/εr になるのです。
誘電体を入れることで変化した電場を E’ とすると,
D0=ε0E D0=D=εE’=εrε0E’(D0=D=Q/S=Q)
E’=E/εr
≪問2≫ 充電されている(電源から切り離されている)コンデンサーに比誘電率εr の誘電体を挿入するとエネルギーはどうなりますか。
電荷 Q は変わらないのに,電場や電圧が 1/εr になるから,エネルギーは1/εr になります。誘電体の分極電荷は極板の真電荷とは正負の位置が逆なので,誘電体はコンデンサーから引き込まれるような力を受けます。コンデンサーはそれだけの仕事をして,誘電体に運動エネルギーを与え(このエネルギーはコンデンサーと誘電体の摩擦で内部エネルギーに変わって発散してしまいます),その分のエネルギーが減ったことになります。
[まとめ]
1 比誘電率εr の誘電体をコンデンサーに挿入すると,容量が εr 倍になります。
2 電場に置かれた誘電体は,誘電分極を起こして,表面に電荷をつくります。
3 充電され(電源から離され)ているコンデンサーに誘電率εr の誘電体を挿入するとエネルキーは 1/εr 倍になります。
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